大工の【丁稚】と言うのは、とても厳しい。
朝は早いし、夕方5時を過ぎたって、【残業手当】なんて、気の利いたものは出るわけもない。
ゴングが鳴れば、ひたすらパンチを繰り出す、ボクサーみたいなもんだ。
【親方と子方】なんて世界じゃない。大工の【師匠と弟子】の世界。怒鳴られ喚かれ、せっかく研いだ道具も、
『こんなもん、使えるか!』
と叩き割られる。みんなが一服している時も、ひたすらノミ研ぎの練習……。
左指の指紋が、擦り切れて消えた。血が出て痛いけど、泣き言は言えない。
(この頃、【大下勝也】と言う、現場でよく出会った職人さんがいた。もちろん、現場で甘やかされることはなかったし、寧ろ、けっこう厳しく言われたが、仕事が終わると、飲みに連れて行ってもらったり、大下さんが組んでるバンドの練習を見に連れて行ってもらったりして、とても可愛がってもらった。
この先、大下さんを裏切ってしまうことになるんだが…………。
しかし、時は過ぎ、今では俺のバンドで、ベースを弾いてくれている。)
そんな感じで、1日フルに働いて、¥5000の賃金……。信じられないほど安い。
【反社会勢力】の組織にいた頃なら、【タバコ銭】にもならないほどの金額………。
でもそれが、今の俺の【値打ち】なんだ。
でも、不思議と満足していた。金では買えない【充実感】と言うものを【肌】で感じていたからだ。
【酒の味】と言うものが、チンピラの頃と今と、こんなに違うなんて………。
仕事から帰って、飲むビールがこんなに美味いなんて……。
この頃から、毎月の給料日になると、数人の連中がやって来た。俺の給料をあてにして、飲みに行きたいわけだ。俺もついつい、そいつらに釣られて、金を遣い果たす。
あれほど、必死に働いて稼いだお金なのに………。
俺も結局は、足元を掬われてることに気付きながら、寂しさを紛らすだけでよかったんだろう。
俺の胸にはまだ、【タケル】が居座っていた。
【孤独感】て言うものは、本当に厄介なもんだ。
でも、その【孤独感】が、人を強くするんだと思う。