幻覚と、被害妄想に襲われ続ける日々。
薬無しでは苦しくて、果てしない【孤独の渦】に堕ちて行きそうな、形容し難い感覚に襲われる。
仕方なく、その場しのぎのアスピリンを、何錠も噛む。

俺はいったい、これからどうなってしまうんだろう?  どうすればいい?
いや、もう、どうだっていい。どうせ、いつかは死んでしまうんだ、遅かれ早かれ。
シドだって…。
ジミヘンだって…。
ジャニスだって…。
みんな若くして、死んでしまったんだ。

そんなことばかりが、頭を過ぎる。
生きていても仕方ない。死のうと思うが、以前、死ねなかったことを、思い出す……。
何もできないまま、何者にもなれないまま、のうのうと生き恥を晒し、カゲロウや蛍みたいに、短い生涯の【終わり】を待つだけ……。

もう、動く気力すらない。ただ、カセットデッキだけが、大好きなROCK‘N‘ ROLLを、オートリバースで聴かせてくれていた。
何故か、涙が止まらなかった。

『誰か助けてくれ……。なんとかしてくれ……。』

泣き言が、口を突いた。【薬がくれるお土産】は、遅かれ早かれこんなもの……。すべては、自業自得……。そう、自業自得なんだ……。
過去に友達が、薬で何人も死んだ。こうなることは、とっくに学習してるはずなのに……。

このまま終わりたくない。でも、たしかに見える【死の影】が……。
襲って来るんだ、【孤独感の恐怖】が……。

カセットデッキから聴こえる、ROCK‘N‘ ROLL……。
生まれて初めて、これまでの生き方を、【痛烈】に、悔やんだ。

もう、身も心も、ボロボロになっていた。
くたびれきっていた。

第四章、完。
自分の精神的な部分に、恐怖と危機感、得体の知れない不安を感じるようになった俺は、夜、まったく眠れなくなった。

【このまま、死んでしまうんだろうか……?都会のアパートで、独り寂しく死んでいく老人みたいに、こんな田舎町の、片隅の古ぼけたアパートの一室で、この若さで、独り寂しく死んでいくんだろうか……?】

常にそんな思いしか、浮かんでこない。もう、何もやる気が起きない。
酒も、喧嘩も、薬さえも………。
食事すら、まともに喉を通らない。
そのうち、金も底をついた。

いなくなった、タケルの部屋に行き、ドアを開けてみた。タケルが飼っていた猫が、俺に擦り寄ってきた。ずいぶん、痩せてしまってる。

『お前も独りか……。』

そう言って抱きかかえ、残ってたキャットフードの大袋と一緒に、俺の部屋に連れて帰った。
猫に、キャットフードを与えた。よほど、腹が減ってたんだろう。ガツガツと食べてる。
そんな猫の姿を見ているうちに、俺も腹が減ってきた。そういえば、もう3日ぐらい、水しか飲んでない。金もない。キャットフードを食べた。食欲はないし、キャットフードは不味かったが、何も食べないのは、もっと良くない。
働けば、金も手に入るんだけど、薬でやられた頭と身体には、働ける体力も、気力も残っていなかった。

数日間、キャットフードで暮らしてたが、どうも、頭の調子が悪いので、病院に行くことにした。

病院へ行き、受け付けで症状を説明すると、【脳神経科】へ行くように言われ、待合室へ。
俺の順番になり、受診。
カウンセリングで、過去にやってきた薬物の種類、年数、自分で思う自分の性格、家族構成や家庭環境など、どうでもよさそうなことを、あれこれ聞かれた。そこで、医者が静かに言った。

『結論から言いますと、完全に、幼少期の愛情不足です。』

と……。
もう、この歳になってるのに【今さら何を!】と、心で呟いた。
俺は、15歳からずっと、独りで生きてきたつもりだ。もっと言えば、小学1年の【新聞配達】を始めた【瞬間】から、【親には頼れない】と、自覚した。そりゃあ、色んな人達に迷惑かけたことは、申し訳なかったけど……。

医者の言葉は、そんな俺の生きてきた道のりを、全否定したように聞こえた。

『あんたに、俺の何が解る?ふざけるな!』

大声で喚き、病院を出ていった。

帰り道、歩くのに邪魔な車があった。無性に腹が立って、近くにあった自転車を、駐車してある車の、フロントガラスに投げつけた。
当然、ガラスは砕けて、車の持ち主が来た。ヤンキーだった。その場で殴り合い。
ボコボコにしてやったが、まだ、気分が晴れない。
もう、完全な【ならず者】になってしまった俺は、自分では、どうすることもできない。

【自分で死ねないなら、誰かに殺されたらいい】

あまりにも、短絡的な発想………。
そんな気持ちで、夜を彷徨っていた。

今だから書けるけど、確実に【壊れてた】んだろうな。
タケルは、自分の彼女を連れて、俺の前から姿を消した。
しかも薬で、ほとんど正常な心を失ったまま。
そのうち、多田もどこかに行っちまった。俺には、【マル】だけが相棒になった。でもマルは、とてもマイペースなヤツで、しかも、何を考えているのか、よく解らないヤツだった。

『なにがバンドや!なにが夢を持つや!なにが人生や!』

やり場のない苛立ちが、日に日に俺を、凶暴な人間に変えていった。
そもそも、俺がしっかりしてりゃ、こんなことにもなってないんだが………。
でもそれは、【こうなってしまった】から言えることであって………。

こうなる前に気づいてりゃあ、こんな小説なんて書けてないわけだし(笑)

酒……。
薬……。
そして、喧嘩に明け暮れる日々。故郷にいた頃と、何一つ変わらない。
やがてマルも、俺の前から去っていった。と言っても、実家に帰っただけで、時々、遊びに来ていたが、お互いに【距離感】を感じていたのも事実だった。

10代のはじめに感じた【孤独感】とは、まったく違った感覚だ。
例えようのない、不安と焦燥感……。
変えられない、自分と環境……。
まるで、見えない【何か】から逃げるように、ドン底を這い回るような毎日……。
アルコールや、何かしらの薬物が、常に俺の血管内を、駆け巡っていた。

まるで、68年の頃の、ROLLING STONESのメンバーみたいだ。
STONESなら、まだ音楽があったけど、俺には何もない。

ある真夜中……。
突然、吐き気をもよおすような錯覚に襲われ、飛び起きた。
何かしら、吐き出したような気がした。紛れもなく、素面で幻覚を見た。幻覚の汚物が、小さな【悪魔】に変わった。そして、俺を見ながらニタついて笑ってる……。

俺は自分が、少しずつ【壊れかけている】と言うことを、初めて認識した。

この曲を発表した直後辺りから、ROOSTERSの大江さんも、壊れていったなぁ。