あんな事件を起こしたにもかかわらず、不思議なことにすぐ、釈放された。
起訴されることもなく、【起訴猶予】と言う形で。要するに【起訴を猶予する】わけだから、その後に何も起こさなければ【不起訴】と同じことだ。
もちろん、相手は筋金入りの【薬中】だったし、【反社会勢力】との繋がりも深かったが、こっちはただの【流れ者】だから、検察官には

『もう、関わりたくなかった』

と訴え続けたら、どうやら理解してもらえたようだった。


その後の俺は、土木作業員としてバイトしてた。
遊んでたら、またバカになりそうだし、金も必要だから。正直言って、キャットフードは食えたもんじゃない。

ある日、道路工事で休憩をしてると、数人の小学生が近寄ってきて、俺達の飲んだジュースのアルミ缶が欲しいと言う。
俺は、みんなの飲んだ空き缶を渡し、

『これ、どうするん?』

と聞いてみたら、換金して、養護施設に寄附をするとのことだった。
【感心な子達だなぁ。】
そう思いながら、夜、帰宅して考えてみた。

『俺も、やってみようかな?』

月に1度、会社でダンプを借りた。友達に運転してもらい、あちこちの家で、アルミ缶をもらって歩いた。
換金して、養護施設に届けたら、とても感謝された。
素直に嬉しかった。両親のいない子供達が、すごく喜んでくれた。

こんな俺でも、喜んでくれる………。頼ってくれる………。
毎月毎月、走り続けた。

1年後、免許の欠格期間が解け、免許を取った。その後も、アルミ缶を集めた。

その1年後。
不思議なもので、あれだけうまくいかなかったバンドも、何故か軌道に乗り始めた。

『よし!そろそろLIVEをやるぞ!』

メンバーは、2つ返事でOK。
俺は、お客さんに対して、入場料の代わりに【アルミ缶2個】を持って来るように、ポスターに書いた。
【アルミ缶リサイクルLIVE】と銘打ち、いくつかのバンドにも参加してもらって、ちょっとしたイベントになった。

【サンクチュアリ】………。
そう、誰にでもあるんだ………。
最後まで汚れていない【心の聖域】が………。

大工の仕事を辞めた。

理由は、前回の連中に薬をやられた後、しばらく休み続けたこと、薬にボケて、大下さんから借りてたギターを、ベランダに放置したまま、部屋に帰ることもなく、悪友連中の家を転々としてたこと、そしてなによりも、自分で立てた【誓いを破ってしまった】から。
大下さんは、何度か、部屋に足を運んでくれていたらしい。申し訳ないことをしたもんだ。

ここで許してもらって、また仕事に復帰しても、所詮は【負け犬でしかない】と、妙な意地を張っていた。
今思えば、短絡的過ぎるんだけどな。

俺が、この街で生きていく以上、必ずあの薬連中とは出会い、関わることになるだろう。
いっそのこと、殺してやろうか………?
いつもの【短絡的な性格】が、顔を覗かせる。
どっちにしたって、連中との【決着】をつけないと、このままではダメになる。

数日後、連中の溜まり場に行った。もう、後先なんて考えてない。
部屋を覗くと、1人の男がいた。あの夜、同じ車に乗ってた奴だ。

『悪いけど、車を貸してくれんか?』

と、聞いてみた。奴は、自分も連れて行くならOKだと言った。そのほうが、俺にとっては好都合だ。

俺の運転で、出発。
しばらく走ると、何処へ行くのかと、しつこく聞いてきた。

『なぁ!何処へ行くねん!』

『山!』

『何処の山や!』

『せからしか!!!』

右手でハンドルを持ち、左手で思いきり、奴の顔を殴った。奴の鼻から、血が出て止まらない。

『病院に連れて行って~な!』

『せからしかっち言うとろうもんが!』

もう1発。そこから先の、記憶がない。

気がつくと、山の中。
とにかく、ひたすら殴ってた。

『もう………。勘弁して………』
我に返った時、奴は血だらけになって、詫びていた。
そこで、俺は訊ねた。
『アイツは、何処へ行った?』

『夜、商店街で会う……』

『そうか。』

俺は、奴を部屋まで送った後、車だけ拉致をして、夜まで待った。


夜の商店街。アイツは仲間数人といた。
無性に腹が立ち、車で突っ込んだ。
車は、電柱横の壁に激突した。アイツは、すごく怯えていた。
俺は、車から降りて、とにかく殴った。ひたすら殴った。

パトカーのサイレンが聞こえる。みんな、逃げようとする。どいつもこいつも、引っ捕まえて離さなかった。
全員逮捕。奴らは【薬物取締法違反】。
俺は【無免許運転】。18歳で、免許は取り消しになってるから。


今思えば、このやり方は、大いに間違っている。でも、当時の俺に、そんなことを判断できる能力などなかった。
否、あったのかもしれない。そのうえで、あんなやり方をしたのかもしれない。
元々、薬のせいじゃない【凶暴さ】はあったし、この【狂った世界】を、叩き壊すには……。

dis Satisfaction………。
ぶち壊したかった。
大工の仕事を始めて数ヶ月が過ぎた。
現場で、自分がしなけりゃいけないことも、ある程度、理解できるようになってきて、毎日がとても、充実していた。

仕事でたっぷり汗を流して、銭湯から帰って飲む、1杯目のビールの美味さは、これまでいつも飲んできた【やけ酒】とは、まるで味が違う。
【普通の暮らし】っていうのは、こんなにも【穏やか】なのか………。
朝起きて、仕事に行って。
仕事帰りに、銭湯に行って。
家に帰って、1杯目のビールを飲む……。
警察に追われることも、無益な争いもない…。
あぁ……。これが【平凡な暮らし】なんだな………。意外にも、【平凡な暮らし】に幸せを感じながら、毎日を【普通】に生きてた。


その日は、仕事帰りに師匠に誘われ、一緒に食事に。
帰宅して、銭湯に行き、タバコが切れていたので、近くの自販機へ。すると、見慣れない車が横に停まった。

『久しぶりやな。』

声の主が以前、一緒に遊んでた悪友だったことに気付いた。不自然に、テンションが高い。すぐに、薬をやっていることがわかった。

『どうした?  何か用か?』

俺は、関わりを避けようと、軽く流した。

『エラい挨拶やな。まぁ、酒でも飲もか?』

と言って、缶ビールを手渡された。ここで争えば、全部がパーになると思った俺は、そのビールを受け取って飲んだ。

『悪いけど、明日も早いんや。』

そう言って帰ろうとすると、今度は【部屋に入れてくれ】と言う。部屋に来れば、いつまでも居座るだろう。
そう思った俺は、仕方なく、車に乗った。

1時間ほど、車の中で話した。ずいぶんと酔いが回って、いつもの性格が顔を出し始めた。

『上等なネタやで。どうや?』

『…………………。』

酔いも手伝って、断れないまま、また薬に手を出してしまった。
酔いと薬の効きめで、頭の中がグルグル回る。飛んでいきそうな意識の中で、言葉が聞こえた。

『お前だけ、マトモになるんは卑怯や!』

『…………………。』


どれぐらい経っただろう。
俺は、車から放り出された。目の前は、俺の住むアパート。
頭が回る。幻覚が襲う。死にそうだ。
なんとか、自分の部屋に転がりこんだ。
天井に、変な模様が映る。畳が歪んで、呼吸をしている。柱が捻れて、揺れている。身体が、捻じ曲がる感覚。激しい後悔。

目が覚めた。もう、すっかり朝だ。身体が動かない。頭が痺れる。
仕事に行けない自分が、とても悔しい。
これでまた、振り出し………。


結局、これが俺の【宿命】なのか………。

IN DEEP GRIEF………。
このまんまだ。