メンバーの、思いもよらない、あの発言……。
一体どんな心境なら、あんな言葉が出せるんだろう……?


たしかに俺は、これまで《ろくでなし》な人生を生きてきた。多くの人々を、傷つけてきた。その記憶は、今でも時折、俺自身を責めつけることがある。その、俺自身を《責める心》が、俺の【歯止め】になっているのかもしれない。

ヤツは、そんな俺とは違って、普通の青年。年齢も、俺の1歳下。
この、ヤツと俺との間にある《ズレ》は一体、なんだろう?

ある日のリハーサル。ヤツが来たが、楽器を持っていない。
俺は、すぐにピンときた。
案の定、《バンドを辞めたい》とのことだった。好きにすればいい。仕方の無いことだ。

帰り際、ヤツは言った。

『堅苦しいことを言われてまで、続ける気は無い』

と……。
堅苦しい…か……。
人の【命の問題】が、《堅苦しい》か………。
釣られるように、他のメンバーも抜けた。
恐らく、《辞めるきっかけ》を待ってたんだろうな……。
残ったのは、俺ともう1人だけ……。

みんな《さよなら》だ。俺は、久しぶりにショックだった。これでまた、初めからやり直しだ。

離れていったメンバーのことを、とやかく言いたくない。言ってみたところで、何の解決にもならない。
メンバーをみつけては『俺には無理』と、辞めていかれる……。

繰り返すメンバーチェンジ………。
でも、諦めたくない。何度《さよなら》を繰り返しても、諦めたくない。

メンバーチェンジを、20人ぐらい繰り返した。やっと、固定しそうなメンバーが揃った。
メンバーチェンジを繰り返してた頃も、LIVEだけは続けてきた。止まるわけにはいかなかった。

おかげで、CDの販売も延期。しかしこれも、試練の1つだ。

【潰れたくなければ、前に進むしかない】

これが、俺の思いだった。

そう。
生きていくのは【SO HEAVY】だ。
【夢】があれば、なおさらだ。


第二部  一章    ~完~
レコーディングもほぼ、終盤に差しかかった。あとは、ミックスダウンや、所々に、ちょっとしたギターやコーラスを重ねたり、様々なアレンジと、なにより俺のヴォーカル。

様々なアクシデントや選曲、途中で出来た曲を急遽、レコーディングしたりと、何だかんだあって、1年以上かかった。
事故を起こしたメンバーのパートは、早めにレコーディングしてたから、支障はなく、不思議なことに、すべて録り終えた頃、メンバーは交通刑務所に入った。

完成した音源を、プレス工場に出して交渉したり、ジャケットやポスター、CD盤のデザインは、すべて美雪がしてくれた。彼女は《絵描き》だから、その辺のアイデアは、斬新だった。

数ヶ月後には、俺達の《CD》が出来る………。
正直言って、ここまで辿り着けるなんて、夢にも思っていなかった。ただただ、がむしゃらにやってきただけで………。

CDの発売間近、待ちに待ったメンバーが、出所してきた。禁固7ヶ月なんて、あっという間に過ぎてた。俺達は、メンバーの【放免祝い】をした。
出所したからと言って、メンバーの罪がすべて《消えた》わけじゃない。寧ろ大切なのは、再スタートする《これから》だろう。

席上、俺はメンバーに

『なぁ。お前が出てくるのをみんな、ずっと待ってたんやから、何か話せよ。』

と言った。するとヤツは、笑いながら話し始めた。

『やぁやぁ。これで俺も、晴れて《自由の身》になったし、縛られるものは無くなったわけで。まぁ、1人は死にましたけどね(笑)』

俺は、耳を疑った。ヤツがいない間も、何人もの仲間が、御遺族と会ったり、色々と気遣ってくれた。それを知っているくせに、《感謝》のカケラも無い発言……。言うに事欠いて、《1人は死んだ》とまで……。コイツの事故が、原因なのに……。

みんな、不愉快そうな表情を浮かべた。俺は、激怒した。

『そんなこと、言うもんちゃうやろ!!』

ヤツは、真っ青になった。しかし、その後も

『でも、刑務所に入って、償ったで。』

と………。

ヤツの為に、どれだけの人々が嘆願書を募ってくれたか………。
御遺族に会い、《和解》できるように、動いてくれたか………。
なのに『償いは終わった』と………。

俺は、これ以上この場にいると、確実に暴れてしまう。何も言わず、皆を残したまま、美雪とその場を去った。

帰り道。

『なぁ……。俺、間違ってたかなぁ………?』

『ううん。第三者的な立場から聞いても、あんな言い方は良くないよね。寂しい人やね………。』

『………。』

月が綺麗だったのを、今でも憶えてる。でも、満月でも、三日月でもなかった。中途半端な形で、とても綺麗な月だった。
テレビドラマなら、満月か三日月なんだろうけどな。

《償い》………。
理想論かもしれないが、本当の《償い》は、こうあるべきだと思うし、刑務所に入ったからって、それだけが《償い》なわけがない……。
《週末》と言う曲を、初めてLIVEで唄った。
お客さんは、不思議そうな顔をする人、怪訝そうな顔をする人、ジーッと聴いている人など、様々だった。
【俺らしい】とか【俺らしくない】とか、そんな賛否など、どうでもよかった。
【唄いたいから唄う】それだけのことだから。

ある日のLIVEの後。 

楽屋でくつろいでいると、どこかで出会った客が、入ってきた。
そして突然、そいつは話し出した。

『なぁ、《週末》って曲、売れ線狙いなんやろ?』

と、俺をバカにしたような、薄ら笑いを浮かべて。そいつ明らかに、酔っ払っている。無視して楽屋から出ると、俺についてきて、同じ言葉を繰り返す。
そいつの顔を、ジーッと見た。思い出した。そいつは、隣の市のバンドマン。俺達の噂を、よく耳にしていたらしい。小さな街だから、すぐに広まるし、すぐに忘れられる。そんなところだ、この街は……。

あまりにしつこいので、何が言いたいのか聞いてみたら、ダラダラと、自慢話を始めた。
ようするに《俺達のほうが上だ》と、言いたいらしい。

あまりにしつこいので、

『うるさいな!  だから何や!』

と、怒鳴った。
俺の過去を非難したけりゃ、いくらでもすればいい。でも、曲やLIVE、客層やノリかたのことをいちいち言われるのは、正直言って迷惑だ。

店の外に引きずり出して、路地裏に連れて行き、少々【お仕置き】をしてやった。


翌月、そいつの街にLIVEをしに行った。どんな街なのか、どんな店があるのか、そして、どんな連中がLIVEをしているのか、この目で確かめたかった。

俺達は、オリジナル曲をやらず、大好きなSTONESのナンバーを、やり続けた。

『どこがオリジナルバンドや!』

客から野次が、飛んできた。

『バカ騒ぎするだけがROCKやと思っとるヤツらに、聞かせるオリジナル曲は無い!』

その一言で、シーンとなってしまった。

店の中は、独特な煙の匂いがする。誰か、マリファナをやっているようだ。

コイツらまるで、下関時代の俺じゃねえか!
無性に腹が立つ。歳は、俺と変わらないぐらいなのに………。

最後に1曲だけ、オリジナル曲《ロックン・ロール》をやった。

帰り、店の人から次回のオファー。俺は、

『気が向いたら。』

と言って、帰った。
素っ気ない俺。当然だ。