レコーディングを進めながら、地道な【チャリティ】と、ライブハウスでのLIVEを繰り返していた。
事故を起こしたメンバーとは、やがて暫く離れることになる。それまでに、許されるかぎりのLIVEをやって、その《空気》みたいなものを、身体に沁み込ませておきたかった。

やがて、他府県でも知られるようになった俺達。でも、地元から出てLIVEをすることは、ほとんど無かった。
べつに、値打ちをつけていたわけじゃない。ただ単純に、出たくなかっただけ。

そんなことをを繰り返しているうちに、2年が過ぎていった。不思議なことに、まだ、メンバーに対しての【刑の執行】がない。
判決が出たのに、2年も執行されないなんて………。こんなことって、あるんだろうか?
いや、でも現実に、起こっている。


今日は、あの《悲しい出来事》から、3年経った日。俺達は、事故現場に向かった。
酒を供え、花を手向けて、タバコに火をつけて、線香の代わりに……。
静かに手を合わせた………。

突然、言葉が湧いて出る。止まらない……。
涙が溢れ出る。止まらない………。

『悪いけど、先に帰るわ。』

メンバーにそう告げて、急いで帰った。

帰宅し、祈り続けた。
涙が、溢れ出る。
言葉が、湧き出てくる。

次々と浮かぶ《言魂(ことば)》を、書き留めていった。

【痛みを重ねて  出逢った2人を  宿命は冷たく   一夜で引き裂く………。】
メロディが浮かぶ。ギターで、コードを拾う。


被害者御遺族に、メンバーの代わりに謝罪に行った時、様々な話を、御遺族の女性から聞いた。
女性は、2度目の結婚で、やっと《幸せ》をつかんだ。
子供も出来た。その矢先、あの事故で【すべて】を失った………。

もし《最愛の人》を、ある日突然、失ったら………。はたして俺は、立ち直れるんだろうか………?
泣きながら、曲を創った。嗚咽で、唄えない。
こんなこと、初めてだった。頭痛なのか何なのか、頭の中が激しく響く。

暫くして、美雪が部屋に入ってきた。
俺はほぼ、呆然としていたんではないだろうか……。

『曲、できたよ…。』

『そう。おめでとう。』

唄って聞かせた。彼女も泣いた。たぶん、自分とダブらせたんだろう。

こうして《週末》と言う曲が生まれた。
被害者の【御命日】に……。

俺は、レコーディング中のCDの1曲目を、この曲にすることを決めた。
俺のバンドの《イメージ》では、この曲を1曲目にするのは、ちょっと違うと思う。でも、そうすることで少しでも、御遺族の《心》に寄り添いたかった。

俺が起こした事故じゃない。
でも、関わった以上、最後まで関わり続けたかったんだ。


こんな曲は、もう創れないかもしれない。
この数ヶ月間、本当に慌ただしく過ごしてきた。
様々なことがあって、とてつもない事件が起きて……。ひたすら、駆けずり回って……。
1つひとつ解決していって、やっと少しだけ、平穏な日々を取り戻せた……。

音楽を続けるには、ある程度は【犠牲】になるものがある。
【時間】とか、【仕事】とか。多分にもれず、俺も【仕事】が犠牲になった。
生活は、楽じゃない。2人で働いて、なんとか暮らす日々。

ある日の夜、ご飯を食べながら俺は、彼女を【デート】に誘った。一緒に暮らしてはいるけど、【正式】に誘いたかった。

『明日、2人とも仕事休みやん?  街は、祭りやってるみたいやから、出かけようか?』

『うん!行こう!』

嬉しそうな美雪……。ここのところ、本当にバタバタしてたからなぁ……。

翌日、2人で街へ。
大阪や神戸なら、少しはカッコもついただろうが、なにしろ金欠……。俺は、缶ビール片手に。彼女は、カフェオレ。
もう街は、肌寒い季節。でも、暖かいのは何故だろう?  
そんな【分かりきった答え】を、わざわざ考えてみる俺……。
祭りをやってる通りに出た。出店を見たり、たこ焼きを買ったりした。
こんなこと、誰でもしてることなんだろう。でも、俺には新鮮だった。美雪も、俺と付き合いはじめたことで、彼女が体験したことのない、ずいぶん【当たり前の日常】から、かけ離れた暮らしだったろうと思う。

『美雪。これまで色々と、ゴメンな……。』

『何が?  色々とあったけど、全部うまくいったやん!』

まったく………。かなわないな………。本当は、辛かったろうに……。

『映画でも行こか?』

『あ!あれ欲しいな………。買ってくれる?』

出店で、安っぽいシルバーリングを売ってる。彼女は、それを【買ってくれ】と……。
俺は、店のオヤジに、指輪を見せて欲しいと言った。

『法太君は、好きなの選んでね!私は、これにするから。このデザイン、法太君は好きじゃないやろからね!』

本当は、【ペアリング】が欲しかったんだろう。どこまでも、俺を気遣って……。
買ってすぐ、指につけてあげた。

『やったぁ!宝物やね!』

と、子供のように喜んだ彼女…。
手を繋いできた。照れくさかった。
時々、指輪どうしがぶつかって、カチャッと音がする。その音が、とても心地よかった。
ポケットにはもう、小銭は残ってない。財布の中身も、ほとんどない。給料日は明日だから。

仕方ない。行きつけの店で、ツケでもして飲むか……。

『いつもの店にでも行こか?』

『今夜、カレー作るよ!法太君、カレー好きやから。』

手を繋いだまま、寂れた商店街を歩いた。

何事もなく、こうして2人で歩けることは、何でもない【当たり前の日常】なんだろう。
でも俺には【想像することすらなかった世界】だった。

10代の頃は、ずっとこんな感じだったから、彼女との交際は、とても新鮮だった。

美雪と暮らす【普通の毎日】。そして、唄い続ける日々……。
こんな、誰もが生きてる普通の日常を【喜び】に感じられるようになるとは、10代の頃は、想像すらできなかった。
当然のように【結婚】と言う言葉が、頭をよぎる。でも今は、このままでいたい。まだまだ何ひとつ【形】になっていないのに、【守り】に入ってしまうような気がしたから。


彼女は、そんな俺の気持ちを理解してくれていた。何も話し合っていないのに、解ってくれていた。


交通刑務所に入ってしまうかもしれないメンバー……。ヤツの為に、何かしてやれることはないか………?
裁判までは、まだまだ時間がある。
考えた結果、【嘆願書】を募ることにした。書面は、共同作業所の職員が作成してくれた。それを仲間に配り、協力をお願いした。

嘆願書に【法的効力が無い】と言うことは、百も承知だった。でも、何もせずに【その日】を待つよりマシだと思っていたし、裁判官だって人間だ。思いが通じないはずはないと思っていた。
多くの方々が、手伝ってくれた。多くの人々が、署名してくれた。
そして総勢、1500名以上の名前を連ねた嘆願書を持って、裁判所に向かった。

まさか、こんな俺が【こんな形】で、裁判所を訪れることになろうとは………。

同時に、レコーディングも再開した。メンバーがいるうちに、出来るかぎり進めておきたかったし、完成は、出所するまで待つつもりだった。

そして、判決の日………。
求刑3年に対して【禁固7ヶ月】と言う、極めて温情的な判決だった。弁護士の話では、1500名以上の嘆願書は、この街では異例で、たとえ法的効力が無くても、裁判官も考慮せざるを得なかった、と。

俺は【諦めない】と言うことが、いかにすごい力を待つのか、改めて知った。
嘆願書を集めている期間、毎週日曜日には美雪と2人で、片道3時間半の道のりを走り、被害者遺族のもとへ謝罪に行った。
そして、LIVEに招待し、メンバーとも和解が成立した。


この一件の、すべてのことが解決し、一段落した俺は、彼女と2人で祝杯をあげた。

『本当にお疲れ様。よかったね。』

『うん。ありがとう。なぁ、結婚せんか?』

俺自身、なんでそんなことを言ったのか、さっぱり解らない。でも何故か【結婚】と言う言葉を、口に出してしまった。まったく、ムードのかけらもない、無神経なタイミングだ。

『ありがとう。CDが出来て、ツアーとか出るようになってからでいいよ。』

彼女は、どこまでも【俺の夢】を大切にしてくれた。

翌日、俺は金髪頭のままで、彼女の両親に挨拶に行った。


俺を見た、美雪の御両親の目は、文字通り《皿》になっていた……(笑)