いつからだろう……。
《夢》を追いかけて生きてきたのに、《夢》に追いかけられているように、感じて生きるようになったのは……。

レギュラーのLIVEの、お客さんの数もまばらになり、支配人の機嫌も悪くなってきた。会話もしづらい状態だ。
支配人が、メンバーに当たることはない。すべては《リーダー》である、俺の責任だから。

TV番組も、1クールで終了。有線放送で、曲が流れているだけ。レギュラーのLIVEは、週3回はある。精神的には、限界に近い。

人に会うのが、とても苦しい。《パニック障害》と《不安神経症》の合併症から《鬱病》になってしまった。
薬を飲みながら、LIVEを続ける日々。すべてを投げ出したくなる。でも、唄い続けるしかない。

ある日のLIVEを境に、メンバーとの《亀裂》を感じはじめた。どの曲をやっても《熱》を感じない。まるで、小手先でプレイしているようなメンバー。  やればやるほど《隔たり》を感じる。
実際、俺達の間に《絆》は無くなりかけてる。
それが、どうしようもない《現実》だった。

『LIVE、しばらく休もうかなぁ……。』

帰宅して、ポツンと一言。

『うん。しばらく、ゆっくりしたら?』

優しい言葉。その言葉と、息子の笑顔だけが、唯一の救いだった。

メンバーと言っても、所詮は人間関係。テクニックが上がったメンバーには、もう俺の存在は、必要ないのかもしれない。しかし今、メンバーを失えば、LIVEを続けることはできない。リハーサルも、適当になってしまってる。でも、メンバーが悪いわけじゃない。俺が、病気にさえならなければ、こんなことにはならなかったと思う。


新しい年が明けた。
俺は、新たな決意をした。今年こそ《病気を克服する》と。

しかし、年明け早々にメンバーの1人が、他のバンドと揉め事を起こした。その処理に、東奔西走する。そのうち今度は、仲が良かったLIVEのお客さんまでが、揉め事を持ち込んできた。
その処理にあたる。

すり減る神経。見えなくなる《道》。
景色が歪む。望んだこととは、まったく違う景色………。

俺は、何がしたいんだ?
何処に向かってる?
何処に行けばいい?
まったく判らない。

薬は、徐々にキツい物になっていった。
医者は、《音楽を中断するか、メンバーから離れること》を、俺に勧めた。先ずはそこからしか、病気を克服することができないと………。

この頃は既に、心は壊れていたのかもしれない。
度重なる悲劇………。
どうして、こんなにも続くのか……。
しかし、そんな考えは、亡くなった人達への《冒涜》だと思った。ただ、耐えるしかない、悲しみも苦しみも。

しんどくても、レギュラーのLIVEだけは、やり続けなきゃな……。それが《生きがい》のはずだろ?  それが《夢》だったんだろ?  休んじゃいけない。やり続けなきゃ……。

心配する美雪。でも、行かなきゃ。メンバーが待ってる。少ないけど、楽しみにしてくれてる、お客さんがいるから……。

LIVEの終了直後、強烈な吐き気に襲われた。外へ出て、吐いた。
俺は徐々に、身体が壊れていってるようだ。
でも、ここで終われない。《約束》だから。
俺が、俺自身と交わした《約束》だから。俺が、美雪と交わした《約束》だから……。

メンバーはもう、俺が《御荷物》のようだ。だから、打ち上げは少しだけ参加して、すぐに帰宅の道へ。

マネージャーの亜美も、妙に心配する。

『法太さん、姉さんから色々と聞いてますけど、病気、大丈夫なんですか?  メンバーは、気にしてないみたいですけど……。』

『気にしてもらっても、どうなるものでもないしなぁ。』

『でも、病気を理解してもらうのも、大事なんじゃないんですか?』

『…………。』

帰宅して、また吐いた。
心配する美雪を制止して、横になった。

翌朝、車でぶらっと出かけ、近くの丘に車を停めた。外は、小雨が降っていた。
曲が浮かんできたので、いつも持ち歩いてるノートに、書き始めた。

《浮かれた夢が覚めた朝は  いつも何かが欠けてるのさ  小雨のせいでもなかろうが  まるで抜け殻みたいさ  》

ブリキの兵隊……。こんな状態でも、《曲》は生まれる。いや、こんな状態だからこそ、生まれたのかもしれない。

心配する美雪。それに応えてやれない俺。
そんな俺の姿こそ、錆びついた《ブリキの兵隊》そのものだった。


身も心も、ボロボロになりかけていた。
今夜は、病気も少し、落ち着いた状態だ。俺自身、良いLIVEができそうだ。
やっぱりLIVEは、きちんとしたい。たとえ、病気であっても……。

新しいお客さんが来ていた。彼は、車椅子に乗っていた。
俺は、その彼の前で、全力で唄った。

打ち上げの席で、彼が俺に近寄ってきた。
話を聞いた。まだ、30代半ば前。脳梗塞で、車椅子生活になったと……。
でも、《元気になりたい》と………。
彼は言った。

『僕の病気、治りますか?』

と。俺は、間髪入れずに答えた。

『大丈夫!絶対に良くなるよ!』

と。
誰か、俺にも同じことを言って欲しい心境だ。しかし、目の前の彼を、励まさずにはいられなかった。

『ありがとうございます!来週も、遊びに来ます!』
『ありがとう!待ってるよ!』

そう言って、彼と別れた。


帰って、美雪にその話をした。

『彼、嬉しかったやろね。法太君も、早く治るといいね。』

嬉しかった。口には出さないけど、美雪も、生活が大変だろうに……。ごめんなぁ……こんな俺で………。


翌週のLIVE。
リハーサルも終わり、楽屋で横になっていると、マネージャーの亜美が、慌てて俺の携帯電話を持って来た。

『法太さん!姉さん (美雪) からです!大変です!』

『もしもし?    えっ !? ………』

言葉が止まった。
あの、車椅子の彼が《自殺をした》と………。

先週のLIVEの後日、病院の診察に行き、LIVEを観たこと、自分もリハビリを頑張って、歩けるようになりたいと、医者に話したところ、《キミは歩けるようになることは難しい》と、否定されたことを、苦にしてとのことだった………。


何でだ?  一体何が、俺をここまで追い込む?
何でここまで、多くの《若者達の死》に遭遇しないといけない?
一体これは、何の《暗示》なんだ?


俺は、気が狂いそうだった。
その夜のLIVEは、映画の撮影の帰りとかで、何故か《志賀勝さん》が来ていた。
よりによってまた、なんでこんな夜に……。

LIVEが終わった後、志賀勝さんから、《CDを買いたい》と言われ、手渡した。少し、手が震えていた。

『兄ちゃん、そないに緊張せんでもええがな。』

志賀勝さんに緊張なんてしてない。病気のせい。それと、亡くなった彼への《深い悲しみ》からだ………。

もう、俺自身、《壊れかけ》だった。