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【登場人物】
 土井さん  社長
 三島さん  専務
 片山さん  部長・元某大手通信会社部長
 宮川君   営業マンからの転職
 畑野君   弱電技術者からの転職
 小林君   自宅の商店のお手伝いからの転職
 金田君   奥さんの実家稼業からの転職
 藤原君   引きこもりからの脱出
 
M社 .. N社案件の窓口になってくれている会社。
 宇和さん  M社部長
 
 
※2006年~2009年の出来事です。
※登場人物の名前、会社名などは全て仮名です。実際の名前とは異なります。
 
 
退職に向け、事務所で色々と調べ物や準備をする。
 
隠れてコソコソ調べ物をしたり、
三島さんを捕まえて、それとなく話を聞きだしたり、
M社の宇和さんに協力を仰いだり..
 
体調不良を理由に有休をとり、労働基準監督署に行って“痕跡”も残した。
知らない事や分からない事が沢山あるので、色々と相談にも乗ってもらった。
 
表面では暇を装いつつ、内面ではドタバタと慌ただしい日々。
そんな日々を送り、調べ物はひと通り終わった。
こそこそと作っていた引継ぎ資料も完成。
 
全ての準備が整った日、久し振りに、昼休み公園会合に参加した。
 
金田:
 あれ?うずらさん、ここに来るのは久し振りですね。
 なんかあったんですか?
 
僕:
 たまにはいいかな?と思ってね。
 
黙って彼らの話を聞いていると、相変わらず愚痴の言い合い。
それでストレス発散になってるのなら、それでもいい。
 
僕:
 で、皆結局どうするの?
 
みんな口々に
 
 ここに居ても未来はない
 早めに転職した方が良いと思っている
 
などと言うけど、それに向かって具体的に動いている人はいない。
相変わらずだな..
聞いていると、だんだん呆れてくる。
 
僕:
 悪いけど、僕は近々辞めるよ?
 
動揺が広がる。
みんな一様に驚いている。
 
マジっすか!?と聞かれるので、マジっすよ!と答える。
 
小林:
 本当に辞めるんですね..
 うずらさんは辞めないと思ってました。
 
僕:
 あれ?この前、そのうち辞めるって、言ってなかったっけ?
 ここに居ても未来はないし、できる事は全部やったし..
 三島さんにも社長にも、給料が止まるのは3ヵ月が限界って言ってるしね。
 今月給料が出なければ、もうダメ。さよなら。
 
宮川:
 うずらさん居なくなったら、俺らどうしたら良いんですか..
 
僕:
 しらないよ。
 この先は、それぞれ自分で考えて、自分で動かないと、
 誰も助けてくれないよ?
 
 転職するもよし、会社に残って運命を共にするもよし。
 まぁ、この先も、会社は何も変わらないと思うけどね。
 
宮川:
 うずらさんは、辞めた後どうするんですか?
 会社興したりしないんですか?
 
僕:
 会社興す気は無いよ。
 
金田:
 うずらさんなら、どこかから声掛かってるんじゃないですか?
 
M社から誘われている事は、内緒にしている。
うっかり社長の耳に入ると面倒な事になるし、どうせ
 
 「俺も..」
 
と言われるのが関の山なので、彼らに話すつもりはない。
 
僕:
 ないない。
 サッサと失業給付受けて、次を探す感じかな。
 
宮川:
 じゃあ、次の仕事が決まったら、僕らを引っ張って下さいよ。
 
僕:
 中途で入った、どこの馬の骨とも知れない新人に、そんな力あると思う?
 
宮川:
 じゃあ待ちますので、力が付いたら引っ張って下さい。
 
僕:
 それまで、うちの会社は持たないって。
 
どこまでも人任せ。
人に敷いてもらったレールを走るのは、楽で良いだろうけど、
思うようにいかないと、レールを敷いた人に責任を擦り付け始める..
 
彼らの受け入れ先探すのを止めて、本当に良かったと思う。
 
僕:
 貰ってない給料どうするの?
 取り戻したいのなら、具体的な方法を教えるけど、知りたい?
 色々調べたので、資料付きで教えるよ?
 
金田:
 うずらさんはどうするんですか?
 
僕:
 もちろん請求するよ?
 泣き寝入りする気は、全くないんでね。
 未払金をチャラにするほど、恩義も思い入れも、何もないしね。
 
みんな忘れていたようだけど、僕はあの日の事を..
あの日以降、散々踏みつけられ、否定連れ続けた日々の事を、忘れない。
 
僕:
 みんなには悪いけど、僕が未払金を請求したら、
 皆の給料がますます厳しくなると思うし、最悪会社を畳むかも知れん。
 その時のためにも、色々と考えといた方が良いよ。
 
その後、話を聞きたいと言ってきた人は、誰も居なかった。
まだ会社にいるの?と聞くと、みんな早々に辞めるつもりは無いらしい。
 
この人達は、給料が止まり、仕事の依頼があっても断る会社が、
そんなに良いのだろうか..
 
社長は決して悪い人ではない。
気も器も小さく、ちょっと神経質だけど、気のいいおじさん。
行動は伴わないけど、親分肌な所があり、
 
 「社長!」
 
と慕い、持ち上げると可愛がってくれ、
にこにこと機嫌よく笑い、大きな夢を語り、
 
 「君には期待しているよ!」
 
と持ち上げてくれる。
 
皆が慕うのも分からなくはないけど..
 

裏表が激しく、この人の“裏側”がどんな人なのか、散々見てきたはず。

社長としての資質や、経営手腕が無い事を、よくよく分かっているはず。

この会社に未来が無い事も、皆分かっていると言う..

 

それでもここが良いと言うのなら、僕にはもう何も言う事はない。
 
 
メンバーに話した以上、長居は禁物。
誰かが社長に「うずらが辞める」と、告げ口する可能性が高い。
 
次回社長が出てきたその日に、退職の意を伝える事にして、
妻にもその話をした。
 
そして..
 
締め日まで、あと2日に迫った日、社長が出勤してきた。
普通にみんなに挨拶をして、社長室に入って行く..
 
後を追うように、僕は社長室に向かった。
 
 
 
 
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