日が傾き始めた17時。開場時間から店内に人が続々とやって来て、思い思いの席に着く。
奥の落ち着いた席、ガラス張りのテラス席、
腰を落ち着けてまずは一杯ドリンクをオーダー。これから始まる演奏の期待が高まる。
2015年2月1日に行われたのが、マリンバとピアノによる名曲コンサート
能瀬礼子さん、関谷比呂美さんという二人の女性演奏家による演奏
「ハートフルクラシック~愛を奏でる~」でした。17時開場、18時開演。
会場となったミルキーウェイブは、一番街から道をまっすぐ北に進んだ志多町にあるお店で、
川越の中でも特に老舗に数えられる洋食屋さん。
老舗と呼ばれるくらい歴史がありながら、店内の雰囲気は
今でも洗練されたスタイリッシュさを失わない若々しさがある。
おそらく多くの人が、このお店が1978年オープンと聞いたら驚くのではないでしょうか。
ミルキーウェイブは今年で37年目になるお店でありながら、
知らないで入った人が、最近のお店?と錯覚するような雰囲気が流れている。
それはなにより、マスターの昔から変わらない熱があり、
オープン以来、そしてもちろん今でも、一人でミルキーウェイブの洋食を作り続けています。
また、普段からここで演奏される音が店内中に染み込んで、独特の雰囲気を作り上げているようで、
ミルキーウェイブといえば、ジャズ、プロの演奏も行われている張り詰めた緊張感が
この洗練さを保つことに繋がっているようだった。
同じ年を重ねるにしても、
くたびれて古臭くならない、カッコ良く年を重ねている、そんなお店がミルキーウェイブでもある。
このお店のことは以前記事にしたことがありますが、
『「ミルキーウェイブ そこは町医者のように・・・」
http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-11586965014.html 』
久しぶりに会ったマスターは相変わらず健在で、
そのピンと筋の通った熱意は変わりようがないほどまったく変わっていなかった。
この日は演奏会のために厨房のみならず、天井の照明の確認などでずっと動き回っていました。
以前来た時から、ここで行われる生演奏を聴きに来たいと願っていましたが、
タイミングが合ってようやくその機会に恵まれました。
それも、クラシック。ミルキーウェイブでクラシックというのは、一瞬うん?と思わせましたが、
いや、あの雰囲気で聴くクラシックも絶対気持ち良いもののはず、と期待していました。
開場から開演までは一時間という長めの時間がとられていた。
演奏の前にドリンクを飲み、食事をし、というゆったりした時を過ごしてもらいたいとの意図があったでしょう。
この日に合わせたメニューは、これぞミルキーウェイブという料理、
ナポリタンやミートソースといったスパゲッティに、
ピラフ、ドリア、グラタン、ハンバーグ、ピッツァなど
昔から食べ慣れた安心の洋食が用意されていた。
そしてこの日も、店内を埋めたお客さん全ての料理をマスターが作り上げていた。
店内には、クラシックファン、音楽ファン、はたまた
演奏があることを今日知ってやって来た方などさまざまな方がいて、
食事をしながら演奏が始まるまでの和やかな時間を過ごしていた。
今回の演奏会の二人は、川越で活動するクラシック演奏者です。
マリンバの能瀬礼子さんは、川越市出身。
武蔵野高等学校音楽科及び武蔵野音楽大学卒業、同大学院修了。
ピアノの関谷比呂美さんは、川越市出身。
武蔵野音楽大学卒業。
二人は川越の第一中学校の先輩、後輩という関係になる。
ピアニストである関谷さんは、中学三年間は打楽器の練習に励んでいて、中学二年生までは
「第一中は吹奏楽が凄く盛んで、関東大会に出場して金賞をとるような学校でした」
という強豪校だったと語る。
三年に進学した時に、新たに入部してきた一年生が能瀬さんで、同じ打楽器に打ち込む仲間でした。
高校時代は進路が分かれましたが、武蔵野音大の食堂で中学以来の偶然の再開を果たし、
社会人になってからも再び偶然の出会いに恵まれ今に続く関係になっている。
二人を含めたメンバーでこれまで蔵里で演奏会を開き、
二人だけの演奏となると今回が初めてのことになります。
店内では食事と会話を楽しむ人で穏やかな雰囲気に。
気がついたら満席となっていて、観客は開演時間を今か今かと待ち構えていました。
クラシックの演奏なら、川越でいろんな会場がありますが、
今回このミルキーウェイブにした理由は、二人の挨拶の中にありました。
「クラシック音楽はCMやドラマ等でも頻繁に使われて何気なく耳にしているものですが、
『聴きに行く』となると、どうしても敷居が高く思われ親しみづらいと言われます。
その理由のひとつは場所にあるのではないか、と考え、ホールではなく
このようなレストランで気軽に楽しんでいただこうと企画しました。
また、バレンタインが近いこともあり、後半は恋や愛をテーマにしてプログラムを組みました。
寒さを吹き飛ばすような温かいものが皆様の心に灯るよう、
気持ちを込めて演奏しますので、最後までゆっくりお楽しみください」
なぜ、会場としてこのお店にしようと辿り着いたのかというと、
能瀬さんの個人的な想いが大きいのだという。
能瀬さんがかつて会社勤めをしていた時、
昼ご飯によく立ち寄ってホッとした時間を過ごしていたのが、ミルキーウェイブだった。
何を食べても美味しいが、来る度に毎回のように頼んでいたのが、オムライスだったと振り返ります。
「一人で来ても気兼ねなく居られるのが安心しました。それとバナナジュースもオススメなんです」
とミルキーウェイブの魅力を語る。
かつて武蔵野音大に通っていた頃、江古田に学生が通う喫茶店があって
そこのバナナジュースかミルキーウェイブのバナナジュースか、と
それぞれに思い出の込もったバナジュー。
ミルキーウェイブで以前クラシックコンサートを開催し、響きがとても良かったので
「いつかまたここでやりたい」と胸に秘め続け、この日また実現しました。
店内で食事する光景が落ち着いてきた18時。ハートフルクラシック~愛を奏でる~が始まりました。
プログラムは、前半が
♪チャルダシュ(モンティ)
♪主よ、人の望みの喜びよ(バッハ)
♪アヴェマリア(バッハ、グノー)
♪組曲「スペイン」より 2.タンゴ(アルベニス)
♪「わが祖国」より モルダウ
二人のアンサンブルはもちろん、それぞれのソロも披露し、観客を魅了しました。
曲間には曲にまつわる背景などの話しがあり、イメージがさらに広がります。
後半が、
♪歌劇「フィガロの結婚」より 恋とはどんなもの?(モーツァルト)
♪愛の夢(リスト)
♪歌劇「カルメン」より ハバネラ~恋は野の鳥~(ビゼー)
♪愛の賛歌(モノー)
アンコールは♪歌劇「トゥーランドット」から誰も寝てはならぬ
アンコールが終わるとこの日一番の拍手が。
有名な曲からフィギュアスケートで聞き慣れた曲、クラシックをジャズ調にしたものまであり、
愛に溢れた一曲一曲に酔いしれ音に身を任せていた客席でした。特に愛の讃歌は感動的だった。
お店の空間との相性もよく、音の響きが最高でした。
ジャズだけでなくクラシックも素敵なコンサートになることをまた証明したミルキーウェイブです。
マリンバを熱演した能瀬さんは、昨年から
「おとむすび」という音楽の団体を立ち上げて、
クラシックの裾野を広げ、クラシックを身近なものにしようと動き出しています。
『おとむすび』とは。
「演奏会に行ったらご近所の方に会い、お互いに音楽が好きという共通点が見つかって
仲良くなりました』・・・ある時、お客様から寄せられた声がきっかけになり、
音楽を通じて人のご縁をつなげたいとの想いから、
クラシック音楽を中心として企画団体を立ち上げました。
プロ・アマ問わずクラシック人口の多いこの地域で、
より多くの人々がクラシック音楽を身近に感じるようなまちづくりを目指します」
おとむすびとして、これまで蔵里で2回演奏会を開き、
N響団員のレクチャーといった企画を開催しています。
能瀬さんがおとむすびを通してクラシックの裾野を広げたいと思ったきっかけはいくつかあり、
これからオープンするウェスタ川越の存在、川越に素晴らしいホールができるので
市民に気軽に通ってもらいたいとの思いがあり、
そして、あるライブハウスとの出会いも大きいのだという。
それが鶴ヶ島にある、「鶴ヶ島ハレ」です。
お店の雰囲気、心意気、あのような空間が実現できたら、と話していました。
おとむすびの企画として、つい最近決定したのが
小江戸蔵里の野外広場でクラシックをメインとしたコンサートが決まりました。
「いろんな演奏者にステージに上がってもらいたいと思っています。家族で楽しめるイベントにしたい」
と意気込みを語る能瀬さん。
2015年4月26日(日)小江戸蔵里広場にて13:00~15:00
おとむすびと小江戸蔵里共催で音楽イベント開催。
蔵里の野外広場でクラシックのイベントが開かれるのは珍しい試み。
また、川越を愛し、楽器演奏を愛する有志が集まり
2015年4月5日(日)に川越市民会館大ホールにて、
「さよなら市民会館!&A.リード没後10年追悼コンサート」が開催されます。
閉館となる市民会館大ホールで、これが最後となる特大編成の吹奏楽をお送りする演奏会。
全ての曲をA.リード、80人以上の楽団による演奏で、
大ホールの幕を閉じるのにふさわしいビッグイベントになりそうです。
さらに能瀬さんは、年内開催予定のウェスタ川越での第九演奏の実行委員も努めている。
今年の川越は、音楽的に歴史の節目を迎えます。
2015年、市民会館大ホール閉館、ウェスタ川越オープン。
街にさらに音楽が響き渡るように、
大ホールに感謝を込めて、ウェスタ川越に期待を込めて、
音楽熱が高まる年になりそうです。