川越style『2016年1月10日「南大塚餅つき踊り」』後編 西福寺~菅原神社 | 「小江戸川越STYLE」

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2016年1月10日、川越の南大塚、16号線沿いにある西福寺で行われた

南大塚餅つき踊り「新春餅つき大会」。

12時半から始まった餅つき踊りは、

南大塚の男たちによってや中学生たちによって無事に計3回行われ、

ついた餅はきな粉餅にして来場者に振る舞われました。

(2016年1月10日「南大塚餅つき踊り」前編 西福寺~菅原神社

http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-11748610711.html

あの現場の躍動感が少しでも伝わっていたら幸いです。

そして、朝からの準備の様子を通して、

この行事が地域で受け継がれ、大事にされている舞台裏を感じてもらおうともしました。

地域で支えている模様、親子3世代で行事に参加している姿など、様々な人間模様がありました。

今年もたくさんの方に見てもらい、ほっと胸を撫で下ろす南大塚餅つき踊り保存会の面々。

いや、しかし、つかの間気を緩めた表情もすぐに真剣な眼差しに変わる。

最後の仕上げ、大仕事が待っていたのだった。

来場者がきな粉餅を味わっている一方で、

臼に紅白の綱を括りつけ、西福寺入口に向けてピンと真っ直ぐ伸ばしていった。

餅つき踊りは、計4回のうち3回は本堂前で行い、

最後の4回目は通称「引き摺り餅」と呼ばれるもので、

西福寺から隣にある菅原神社まで臼を綱が引き摺っていき、神社に奉納するんです。

もともとの餅つき踊りがそうであったように、現代でも、

最後は菅原神社まで引き摺っていくことは踏襲しています。

臼を引き擦っていく前には、子どもたちに餅つき体験をしてもらうのも恒例で、
「ほら、ついてごらん!」と見に来ていた子どもたちに杵を渡してついてもらった。




この時が生まれた初めてお餅をついたという子もいたでしょう。

記憶の片隅に、杵を振った感触、ついた餅の柔らかさが残りますように。。。

引き摺り餅、最後のもち米5キロが蒸かされて臼に投入されると、

まずは6人の男たちによって、「ならし」「ねり」「つぶし」の工程を経るのは今までと同じ。

 

いよいよ、張られた綱を南大塚の人たちが手に取る。

 

地域の人にとっては最後の引き摺り餅はもう広く知られているもので、

「さあ、引き摺っていこう!」すぐに綱先まで人で埋まっていった。

引き摺り餅の部分は、餅つき踊り保存会に入っている、いない、関係なく、

地域の人が参加できるもの。

南大塚には山車も神輿もないけれど、餅つき踊りがある。

臼をみんなで引き摺っていくことで地域が一つになる。

綱を手に取り臼をみんなで引き擦っていく光景は、

さながら、川越まつりの時の山車曳行のようで、

両者のスケール感は全然違いますが、

しかし、南大塚の人にとってはそのような意識はある。

(その証拠に、綱を引いている時に、

川越まつりの「ソーレー!」「ソーレー!」という掛け声が聴こえてくるんです!)

 

「よし、それじゃあ、ゆっくり進んでいこう!」
保存会の一人が綱先に向かって声を張り上げると、

 

この時を待ってましたとばかりに、子どもから大人まで、二本の紅白の綱をギュッと握りしめ、

じりじりと、臼が動き始めていった。いや、南大塚が動いていった。

 

 


西福寺本堂前から、ズズズ、と臼が引き擦られる音が聞こえる。

「もっとゆっくり!速いよ!」

「ストップ!ストップ!」

保存会から声が上がる、

みな手に力が入って速く引っ張ろうとしてしまうのは毎年のこと。

なぜゆっくり進まねばならないのかというと、

臼を引きずりながらも、餅をついているからなんです。

速く進んでしまうと餅をつきにくく、それに合わせようと杵を振り下ろすと危険です。

以前は引き摺り餅は大人がつく場面も多くありましたが、

近年は始めから中学生に任せていて、

ゆっくりのスピードでないとタイミングが難しい。

 

臼が本堂前から離れていき、山門の坂を乗り越えていった。


 

狭い参道をゆっくり進み、人がすし詰め状態になっている中でも、

その時も・・・中学生たちは、餅から目を離さず、「1、2、3」と順番に餅とつき続けていた。

地域の中学生が餅をつき、その餅を地域の人が綱で引き摺っている、

俯瞰して見下ろした時のこの、なんという素敵な光景。

 

「押せよな押せ押せ下関までも 押せばな港が、なんでもちかくなる
ハア ヤレ押せそれ押せ
押せよな押せおさなきゃ行かぬ押してな気をやるななんでも筏乗り
ハア ヤレ押せそれ押せ
餅はな練れたがコネ取りやどこだ コネ取りやな勝手の方で何でもつまみ喰い
ハア ヤレ押せそれ押せ」

 

 

山門を出る時に止まって、餅をつく。

 

ポイントに来ては止まって、集中して餅をつく、そしてまた進み始める。

山門を出た臼は、大事な箇所に差し掛かりました。

ここからはさらに緊張感が高まる、周りで見守る保存会の男たちの声も上ずります。

「16号出たぞ!気をつけて!」

中学生は一心不乱に餅をつき続ける、どんな状況でも餅をつくことは止めてはならないのだ。

「1、2、3!」餅をつく音、臼が引き擦られる音、

「もっとゆっくり行こう!」大声が飛び交う。

境内から視界がパッと開き、みなの頭上に青空が広がった。

車が激しく行き交う国道16号に出たのだ。

引き摺り餅、最難関ポイントにやって来ました。


 

 

西福寺から菅原神社まで行くためには、16号線沿いを進まなければならない。

そのために、大人一人分くらいの狭いガードレールの内側を、

地域の人がぎゅうぎゅう詰めになりながら綱を曳き、

臼が引き擦られ、その間も餅をつき続け前に進む。

伝統行事というと、お寺や神社の境内で行われることがほとんどで、

外の道を進んだとしても田舎道だったりして、

その行事の背景としてマッチしているものが多いですが、

餅つき踊りの背景にあるのは、近代のある意味象徴のような、国道。

これを背景にして、必死の形相で餅をつき続けるというギャップがまたいいのです。

 

前方を見上げれば歩道橋から見下ろす人、信号待ちの車からも見つめられる。

 

じりじりと臼は引き摺られ、いよいよ、菅原神社の鳥居が見えてきた。

この鳥居が見えてくると、毎回のことながらほっとするような気持ちになる。

ほんの数十メートルほどの距離ですが、ホームに帰ってきたような懐かしい感覚に浸ります。

菅原神社前の交差点、歩道橋の袂で、

「ここで6テコできるか?6テコやってみろ!」と保存会の大人が促すと、

中学生6人が入り乱れて杵を振り上げる。

この場所の6テコも、以前は大人たちが魅せていましたが、

(2014年南大塚餅つき踊りより。菅原神社前6テコ)

今は中学生に託して経験させている。



 

神社の鳥居をくぐり臼は参道を真っ直ぐ進んでいく。

 

「もう少しで神社だ!」地域の人の綱を引く手に力が入る。

保存会がもうずっと、

「もっとゆっくりでいいよ!」を大声を張り上げていた。

「ソーレー!」「ソーレー!」




 

 

 

神社の社務所を越え、菅原神社まで来ると、最後の持ちつき踊りを魅せました。

 

最後の総仕上げ、残りわずかとなった力を振り絞り、男たちの最後の踊りに熱がこもる。

 

 



最後に「あげづき」をして、南大塚餅つき踊り、全ての工程を終えました。

あれだけ、ダイナミックに舞い、激しく杵を振り下ろし、振り回し続けて、

怪我なく無事に終わったことがなによりでした。

 

振り返れば、餅つき踊りはやはり大人のつき手は、

 

何年、何十年と関わっている関係で、

タイミングを合わせようとしなくても「あうん」の呼吸でつく様が見事でした。

その、あうんの呼吸感を味わうのが伝統芸能を観る者としての楽しみであり、

華麗な6テコに、細かい技を入れていく様子、

伝統芸能はまさに経験を積み重ねた芸そのものです。

あの6テコの様子は、美しい旋律の音楽のよう、と感じるのはおそらく自分だけでしょうが。。。

 

今年の演技も素晴らしいと思いましたが、

 

「もっと練習積んでいかないとね」

とまだまだ納得してない表情の餅つき踊り保存会の面々。

地域の行事を守っていくのは大変なことですが、

また男たちの躍動する姿を楽しみにしています。

川越のイベントなどで見る機会があったら、じっくり見入ってください♪

 

「南大塚餅つき踊り」

 

西福寺~菅原神社

毎年1月成人式の前日か同日の日曜日。12時半~

 

 




 

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