川越style「善太郎」 シンプルな美しさ 二人で作る優しいパン | 「小江戸川越STYLE」

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「時が人を結ぶまち川越」
川越のヒト・コト・モノ、川越物語りメディア、小江戸川越STYLE。
川越の現場で様々なまちづくり活動にも従事しています。
「小江戸川越STYLE」代表:石川真

 

店内に入るとちょうどシナモンロールが焼き上がったばかり、

甘く香ばしい香りを辺り一面に漂わせていました。
いつも土曜日に焼くこのパンは、

すでに何人もの方が予約を入れ取り置かれていた。ファンが多いパンなのです。
土曜日に焼くといっても毎週ではなく、二週間に一度の土曜日、

つまり月に二度ほどお店にお目見えするパンで、
シナモンロールとミルクフランスが週替わりで登場します。
次の土曜日に来ればミルクフランスに出会うことができ、

半分に割った間にミルクバタークリームがたっぷり挟まれた豊潤なパンが迎えてくれる。
ミルクフランスには、オレンジピールを散りばめたオレンジクリームも揃えています。

 

焼き上がったシナモンロールはすぐに切り分けられ、ラッピングされて陳列されていきました。

 

 

 

切り分けるとさらに、
「あともう少しで食パンが焼き上がります」
窯の中を覗き見ると、茶色く色付いたパンが先ほどから香ばしい香りを店内に放ち始めていました。
パンが焼き上がる瞬間は毎回ドキドキワクワクする。

善太郎にやって来るとそのLIVE感も味わえて、
つい一緒になって、美味しくパンが焼き上がりますように、なんて心の中で手を合わせていたりして。
静かな店内に二人の言葉が交差する。
「食パン、あと何分?」
「あと2分ですよ」
言葉少ないながらも二人の言葉のやり取りには、

必要最小限であり必要なことは全て含まれているようなやり取りだった。
食パンの焼き上がりまで、あと2分。

 

ここ善太郎さんも、川越パンマルシェに出店するお店です。

 

第1回目から参加し、今年で4回目の出店となりパンマルシェには欠かせない存在。

そぎ落として残る洗練さ。シンプルな美しさ。

善太郎のお店の様子を、二人の様子を、伝えます。

 

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

 

川越には個人で頑張る小さなパン屋さんが多いです。

どのお店も素材にこだわり、手仕事にこだわり、

美味しいパンを焼こうと、日々試行錯誤しながらパン作りに向かっています。

 

人通りが多い場所だけでなく、細道の先、こんなところにパン屋さんが!と発見するような、ひっそりとあるお店も多く、中でも善太郎さんは住宅街にしっくり溶け込むようにしてそこにある。

松江町郵便局の裏、住宅街を縫う細道に静かにあります。

5月、入口の横には、最盛期を迎えたモッコウバラが咲き誇っていました。









オープン以来8年、地域の方に親しまれてきたお店は、
「うちは半径500メートルが商圏ですから(笑)」と笑顔で語る善太郎の二人。
パンの香りが風に乗って周辺を包み、

香りに引き寄せられるようにお店にやって来たと話す人が普通にいるほど、
地域に近くて地域に生きているお店です。

毎回川越パンマルシェでは、いつもあっという間に完売する善太郎のパンは、
普段なかなかお店に買いに行けない、という方が蔵里で買い求めているのもあるかもしれません。

(2014年川越パンマルシェより)

 

善太郎さんに、今年のパンマルシェに向けた意気込みを伺います。

 

ー善太郎さんは、第一回目の川越パンマルシェから出店していますね。
「出店の声をかけていただいてありがたかったですよ。

 

ただ一回目の時はどれだけの方が来られるか分からず、

あっという間に完売してしまったという苦い思い出があります」

ーそれで会場が蔵里になった二回目からは、

出来る限り目一杯パンを焼いて出品するようになったんですね。
「それでも多くは焼けなかったのですが。。。二回目の時は準備から始まって、

二日間徹夜のような状態でそのままパンマルシェに臨みました。

広場にたくさんの人が来られているなと思って、『パンマルシェ凄いなあ』と思っていたら、

それがうちのブースに並ぶ列だと知ってびっくりしました」

ー確かにあの時は、お客様に『善太郎のブースはどこですか?』と頻繁に聞かれたのを覚えています。
「普段お店に行けないという方が蔵里で買い求めようとしていたんでしょうね。

せっかく並んでいただいた方にはパンを届けたい思いですが、

ただ、焼ける絶対量はあるのでそこは申し訳ないと思います」

 

ー今年はどんなパンを出品する予定ですか??
「今年出品するパンはお店で提供しているのが基本ですね。

 

食パンは生食、ネジ生、胡麻食パン、ブリオッシュの食パン、金の食パンなど

何種類か持っていく予定です。あとはあんパンとかコロッケパン、

子どもからお年寄りまで食べられるふんわり3兄弟ももちろん出品します。

5月31日に向けて、もう今からどういう手順で作業していくか、

タイムスケジュールを組み立て始めているんです」

ーパンマルシェでは、なんとお客さんが販売のお手伝いをしてくれているそうですね。
「そうなんです。普段お店に来ていただいているお客様が、

毎回4、5人パンマルシェで販売を手伝ってくれているんです。ありがたいことです」

 

ー最後に善太郎さんがこんな言葉を残していました。
「パンマルシェが続いていけば川越でパンがもっと広まって、

 

若い人たちが川越でパン屋を始めるということも出てくるのではないかと思います」

 

川越がパンで盛り上がるといいですね。

 

いつも温かく迎えてくれる善太郎さん。

穏やかな二人の連携から生まれるパンたちは、二人の人柄のように優しいパンです。

 

お店に伺ったのがお昼過ぎの時間、

 

この日のこの時間、焼き上がったばかりだったのが、シナモンロールだったのです。

善太郎の焼き立てパンを食べるなら、ぜひこのくらいの時間で。

日によって変わりますが、パンの焼き上がりは12時過ぎくらいから。

 

水木金土の週4日営業の善太郎さんは、

いつも同じパンが並んでるわけではなく、曜日によってパンが変わります。

水曜日はバケットやライ麦パンなどのハード系、ブリオッシュの食パンなど、
木曜日はメロンパン、バターロールのようなプチリッチ、

ベーグル、胡麻食パン、バターケーキのような金の山食パン、
金曜日はあんパン、コロッケパン、カレーパン、バンズパン、
土曜日は、食パン、ふんわり3兄弟、チーズケーキ、それとシナモンロールとミルクフランスが週替わりで。

 

と聞いていて、曜日ごとに作るパンの顔ぶれが、去年と全く変わっていないことに気付いた。
もっと言うと、コロッケパンはずっと形変わらず小判型で、

 

ふんわり3兄弟はずっと変わらないふんわりな3兄弟だし、
去年と、いや、その前からも、最初から変わっていない。

 

この一年でパン作りで変えた部分はあるのですか??という問いにも、

 

 

「いや、特に変わっていないですよ。既にあるパンの派生品を作ったりはしていますが、

 

お店を始めた時から、こうだと思って固めたパン作りは基本の部分はもう変えようがないです」
と話します。

 

二人で丁寧に作られるパンは、決して多くはありませんが、
けれどどのパンにも、そのパンでないと、というファンがいる。
中にはオープン以来何年も何年も同じパンしか買わないという方もざらにいて、

 

買う方のこだわりも年季が入っています。


他のお店では、お店に行ってから並んだパンたちを見て選ぶのがあると思いますが、
善太郎にやって来る方の大部分は、
「『あの』パンを買いに行く」
「あれを食べたいから何曜日に行く」など、
始めから目的のパンを思い描いている方が多い。

 

食パンでもいろんな種類を焼いていますが、
「生食じゃないと」、
「ブリオッシュの食パンの食感が好き」、
「金の食パンは朝食に欠かせない」、など
好きな食パンがある方はずっとそれのみというパターンが多いそう。

 

善太郎のあんパンが食べたいから、金曜日に出かけるといったように、
その日にそこに行かないと食べられないパンは、お出かけのワクワクを高めてくれるよう。

 

この時も、

 

店内に貼られた週替わりバターケーキの提供予定表をじっと見ていた方が、
「紅茶バターケーキが食べたいから、今度の木曜日に来よう」なんて呟いていた。
あの食パン、あのコロッケパン、あのバターケーキ、
人それぞれの、善太郎の、あのパン。
善太郎のパンが深く生活に入り込んでいるから、
なくてはならないお店、と応援する地域の方は多く、支えられている。

 

曜日によって変わるパンの中で、やはり食パンは人気。

 

 

この土曜日の食パンは、2種類を焼いていました。

牛乳で生地をこねた『ネジ生』、
もう一つはヨーグルトとバターを加えた『生食』。

食パンの焼き上がり時間は時季によって変わりつつも基本は25分。
静寂が増していく中香りだけはどんどん濃厚に漂って、
「ビーー!」

ついに、窯が焼き上がりを知らせるブザーを鳴らした。
この日もきっかり25分焼かれた食パンが、次々と窯から出されていきます。
湯気を立ち上がらせ、艶やかな色合いをまとった焼きたての食パンが、並べらていく。




焼き上がりを見守っていた別のお客さんも、「わあ、綺麗ですね」と思わず声を漏らしていた。
この日は湿度が低いこともあって、パンを袋に入れてすぐに閉じていく。
パンを美味しく食べるためには、「水分が命ですよ」と話し、水分管理には細心の注意を怠りません。
作業の手は休まることなく、
次のパン、ゴマのバンズをリレーのように受け渡し、窯に入れていきます。
それは翌日に開催する善太郎のGWのイベント、cafeイベントで使うバンズパンなのでした。



年に一度のお楽しみ、善太郎によるGWの感謝祭は、イベントのみ提供する限定メニューがお目見えし、毎年どんなものが出るのか楽しみにされている方も多い。
「このゴマのバンズを使用するのですが、

一つはチキンコールスロー、もう一つは・・・来てビックリしてみてください」
と微笑みながら、秘密の種明かしは明日来てのお楽しみ。

今年はどんな発想のパンが生まれるのでしょう。

 

ある月の水曜日。この曜日はハード系やブリオッシュの食パンを焼く日。

 

窯の中からジューという音が聞こえてくる。

生地が中に入れられてから20分近く。

すでに香ばしい香りが漏れて辺りに充満しています。

きっかり21分でした。窯から出されたブリオッシュはふっくらとして、

耳を澄ますとパチパチと音を立てています。

一つ、またひとつと焼きたてのブリオッシュが並べられていきました。

 

 


パンは、美しい、そして、可愛らしい。

この形に行き着くまでの経緯をご主人は、

「ブリオッシュはお菓子のイメージがあるけれど、

しっかり食べてもらいたいなと思って、この形にしたんです」

と話します。

そして女将さんが、

「このブリオッシュ、生で食べると口の中で溶けちゃうんですよ。

次の日にトーストしても美味しいですよ」

と言葉を添えます。

さらに、「綺麗に作りますよね~」と独り言のように呟きながら、

ご主人が焼いたブリオッシュを次々と並べていきます。

 

中は、シフォンケーキよりもさらに黄色く、うっとりする色合い。


ブリオッシュでこだわるのは、
「柔らかいことと切れがいいこと。なにより食感がいいこと」

 

さらにパンは次々と焼き上がり、ハード系の美しいパンたちが焼き上がります。

レーズンブール。

バケットの生地にレーズンを入れたもの。


全粒粉を使ったノアレザン。

全粒粉にくるみとぶどうを入れたものです。



全粒粉を使ったフィグノア。

全粒粉にいちじくとくるみを入れたものです。

 

食パンは曜日ごとにさまざまなものが登場する中で、

この日はハード系食パンも焼かれていました。



窯の前で焼き上がりを見守る女将さん。

ご主人が生地を作り、女将さんが焼く、二人三脚で善太郎のパンは焼き上がっています。
ブリオッシュは21分、ハード系食パンはさらに時間をかけて焼き、45分。

濃厚な香りが立ちこみ始め、またパチパチ弾ける音が聞こえてきます。

ハード系食パンがついに焼き上がりました。


シンプルに、小麦粉と塩と水から出来上がったハード系食パン。
善太郎のパンは見ていて飽きない姿で、ずっと見ていたくなる佇まい。

見て、嗅いで、触って、噛み締め、味わって、五感で楽しみたくなるパンでした。


シンプルなパンは、パンの本来を思わせる。
「丸い」という形も数千年の時を経て辿り着いたものであろうし、
シンプルには実は奥の深い歴史が詰まってる。
「蕎麦作りやお米炊くのと一緒ですよ。

パンだって本質は粉に水入れてこねて焼くだけなんですから」

素材を『切る』という行為も、
「細く切る、太く切る、薄く切るで素材が全く別物に変わっていくもの、
時を経て丸に収まったパンはやっぱりその形に意味がある、
さまざまな形にするよりも、パンをシンプルに味わってもらいたい」と話す。

 

パンは、自然の造形物ような佇まいが

 

すべて人の手で作られているということに感動します。人と自然が織り成す芸術品のよう。




プチパンは、レーズンにシナモンシュガーにチェダーチーズ。

 

善太郎はパン一つひとつにこだわり、7、8種類を使い分けている小麦粉は、
それぞれ風味も味も違うもの。
パンによって粉の配合を変え、それぞれの個性を際立つようにする。

ある粉はもちもち感が強く、ある粉はパサパサ感が強い、

それをどうブレンドし、

「ターゲット」と呼ぶ自身の理想のパンに近づけることができるか。

そのために日夜試行錯誤を続けています。

 

「すべてのパンは、味も食感も風味も変えています」

 

パンは小麦粉が命。
小麦粉が良くないと、どう技術を駆使しても香ばしい豊かな風味は出にくい。
土地によって小麦の風味は変わり、同じ土地でもその年の気候によっても変わる。

 

「今年は凄く風味が良かったけれど、
次の年は少し違うものだった、そういうのはよくあることなんです」

 

それぞれの小麦の味を見極め、極上のブレンド珈琲のごとく、
小麦の微妙なブレンド加減を突き詰めていきます。

それを20時間前後という、長時間発酵で味わい深い生地にしていきます。

 


ご主人は自分では、満足いくパンはなかなか出来ないと話し、
「毎日格闘してますよ」

笑顔でさらっと話します。

自身が理想のパンとして頭の中に描いたターゲットは、

実現しようと努力してもなかなか思い通りに近づけない。
というより、本当に満足いくパンは「今まで一度も焼けていない」と振り返る。


「もう少しこうならないかな」

 

必ずどこかに改善点があり、その妥協しない姿勢はまさに求道者のよう。

 

善太郎の金曜日。

 

金曜日は コロッケパン、カレーパン、あんパン、バンズパン、食パンの日です。



 

川越style

 

並んでいる光景がそのままアート。全粒粉パンは味わい深くて、ずっと噛みしめていたくなる味です。

上、最後のコロッケパンは、単に惣菜パンというより、

「コロッケとパンの料理」のように感じられる佇まい。

コロッケを挟むのではなく、中にコロッケを包みこんでいます。

 

まるで料理を思わせる発想の善太郎のパンは、
やはり料理の影響は色濃く出ているのかもしれない。
善太郎の宮本さんは、鴻巣市で料理教室の講師を今もしていて、講師歴はすでに20年。
奥様も別の料理教室で教えているという、料理教室御夫婦なのです。
飲食店で働いていた歴も長く、その時からお店でパンは焼いていて、
パンに特化したお店として、善太郎をオープン。

 

パン作りは、

「どちらかというと、料理を作っている感覚があります」と話します。

 

善太郎の土曜日。冒頭のシナモンロールや

ちぎりパンの「ふんわり3兄弟」が焼かれる曜日。

ふんわり3兄弟は、3つ繋がっていて、柔らかな口溶けのパンです。




このパンは、テーブルロールとして、アメリカでは日常的に食べられているお母さんの味。

優しい味で、懐かしさも感じさせます。

 

このパンが誕生した話しが面白くて、

「もともとこのパンは、別の用途で使おうと作り始めたパンなんですけど、

見かけたお客さんに『欲しい』と言われて売ることにしたんです」

その佇まいに、家庭的な温かさを感じた方は多かったんでしょう。

「それで販売するようになって、

いつの間にかうちの定番になっていました(笑)」

 

善太郎のパンはいつでも優しい。

 

この佇まいは、作り手の優しさなんだろうなと思います。

 

女将さん「ほんと、あんなにこだわらなくてもね~。

 

美味しくするためには妥協しませんからね」

静かに作業するご主人の横で、ぼやきつつも温かい。

今以上に種類を増やそうとすると、今ある他のパンが作れなくなる、
だから今あるのがベストなパン。

 

パン美味しかったです!と女将さんに言うと、

 

「本当に?ありがとう!」

あんなにこだわって・・・とぼやきを言いつつも、

「美味しいもの作ろうとすると、数作れないですからね。そういう事なんです」

 

毎回川越パンマルシェでは、大人気のパン、

 

パンマルシェが終わった後も、ぜひお店に訪れてみてください。


 

「善太郎」

川越市松江町1-10-7

水木金土営業

11:00~19:00(焼き上がりはお昼過ぎから。予約可)

 

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

 

そして最後に。善太郎のGWの恒例行事といえば、

「善太郎cafeイベント」です。

年に一度、お店の外にテーブルと椅子を出し、

この日だけの特別メニューを提供する小さなイベントを開催しています。



(以前登場した特製バーガー)

 

2015年も5月3日、4日に開催され、

 

 

温かい陽光を浴び、涼しい風が通り抜ける中、限定パンが登場しました。
そう、あの時焼いていたゴマのバンズパンは、この日のために用意していたのです♪

今年は、チキンコールスローともう一つ。

「来てからのお楽しみ」と言っていたメニューが・・・


ナポリタンバーガーでした!

バンズの底を深くくり抜いて、底にたっぷりとナポリタンが詰め込まれボリューム満点。

いつも思うことですが、

普段の顔触れにも加えて欲しいと願っても、

そこは、「イベントだけのお楽しみ」と、一年に一度、それも最初で最後のメニューを提供しています。

 

この時も女将さんは、

 

「こんなにこだわってどうするのかしらね~」と言いつつ、

そしてやっぱり、

「美味しかった?ありがとう!」

嬉しそうに話していました。

 

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