三矢の訓え篇『邂逅物語』②奴隷死魔が消滅するまで | HEVENSLOST/軍神の遺言

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オタクという名の崇拝者です、
そして愚痴などを呟き、叫び、
日々を生きる糧としたいです。

筒香烈火はつごうしろの外見を整える。食事、水分、衣服。20代目門番捜索と立ち上がろうとしても、

「はらへった」

つごうしろが空腹を伝える。

「さっき食べたばかりだろ」(もはや介護)

「たべもののみもの!」

アビス魔界から少し離れた所に集落があり2人は滞在している。

「そんな若さで子育てとは大変ですね」

「母親はおらんのですか、奥方はもう」

筒香烈火は返答しない。24歳という年齢の人間という外見、連れているつごうしろは外見が人間ならば2歳程。

「行くぞ、早くしないと」

つごうしろを立たせる筒香烈火、再び唖然。せっかく交換させた衣服が排泄物で再び汚れている。

「はらへった」

「いいから行くぞ、お前の全部の罪をなくす、昔のよしみというだけで俺も手を貸している、勘違いするな」

つごうしろは食事と排泄を学習した人型概念であり、破壊神シヴァによる行動の経緯もあり、概念としても人間としても既に死亡扱いが妥当とされているが概念としての死は完全消滅。人の形を保てている事はつごうしろがまだ生きて居る証拠。

ぶうう。つごうしろはおならをした。

「ぶふっ」

普通の人間ならばなかなか他人の前で平然としない恥を感じる行動、つごうしろはそればかりとなり、公衆の面前で排泄行為、食事を要求するだけの存在となっている。周囲の者達から嘲笑され、筒香烈火は屈辱的な思考を抱いている。『足手まとい』『役立たず』というような嘲笑、罵倒表現を一番に嫌悪する思考をしている。つごうしろが彼にとってそのような表現をされる元凶だが、

「早く行くぞ」

とつごうしろの手を引っ張る。

「うひひひへへふ」

「4番門扉再稼働をさせて真白を戻せば戻る」

かなりの距離を徒歩で移動、筒香烈火とつごうしろは見知った場所へとたどり着いた。

「神話世界だ」

筒香烈火は思考している。

「ラーに頼めば何とかなる」

 

現神話世界入口とされる大きな門の前。閉ざされている門を筒香烈火が叩く。

「ラーに用事がある、開けてくれ!」

返答はない。

「少し待つか、夜になるし、休憩がてら」

筒香烈火が門前に座り込む。つごうしろはうろうろと歩き回り再び排泄行為。衣服は再び元の状態。集落で風呂を借り体を洗うとしてもその家の者から文句。

「どうしてくれるのよ、使い物にならなくなっちゃったじゃない!!」

蛆虫が成虫になりつごうしろの頭髪の中に卵を産み付け、洗い流した際にその家の風呂場を汚してしまった。筒香烈火はその家の者に金を支払い、事態は収まっていた。

「…4番門扉再稼働、それだけだ」

「おい」

「何だよ」

「たべもののみもの」

「食べたり飲んだりするから排泄回数が多くなるんだ、さっき食べたばかりだ、俺は何も食べる暇がないってのに」(もはややばい介護)

「たべもののみもの!」

「いい加減にしろよ、我慢できないのか!」(もうやめて欲しい介護)

「ちっ、クソアマ」

「真白、今の自分がどんななのか分かってるか、その身長でその体重ってどうなんだ、もう少し世間体を気にしろ、恥ずかしくねえのか」

 

筒香烈火は思考を変換させている2日目。

「魔界をもう出られた、真白はもう自由だ、4番門扉再稼働もさせる、でも罰する者がいなければ罪ともされない」

つごうしろはぐうすかと眠っている。途中でぼりぼりと身体を掻きむしりながら、

「もにゅもにゅ」

快適な眠りを貪る。筒香烈火はそんなつごうしろを背負い歩き出す。

筒香烈火はほぼ半日という時間をかけある場所に辿り着いた。彼にとっては見知らぬ場所。その入口にいた1人に筒香烈火は話し掛ける。

「ここに空き家とかあるか」

その者が振り返る。

「ああ、とうとうここまで逃亡を果たせたわけか、悪魔人間」

筒香烈火はその者を知らない。

「おーいリヴァ、マジでここまで来てたー」

 

「さっすが風神、方向性も計算出来るとは」

「…お前」

「いつもお仕事御苦労様と有給休暇を貰ったんでな、第2班と交代時期をずらしてもらってプチ旅行だ、俺のコンタクトの受け取りと飛行石を買いに来たんだよ」

「…魔界からの追っ手、」

筒香烈火が後ずさりをする。

「俺も随分と眼鏡問題で苦労しててさ、二度も志津史に騙されたことがあったんだよな、俺の眼鏡がその中にありますー、そう言われて夢中で素手を突っ込んだ先がトイレだよ、そして感謝をされたわけ、トイレの詰まりが直りましたありがとうございます、…俺の手はどうなんだよ、眼鏡は結局ないわけよ、その日俺は眼鏡を実は自分の頭にしていたという事実、静華には認知症かよと罵られるし、烏丸にはただ一言、ご苦労さんでした、なあ俺の手はどうなんだよ」

ギガンテスは眼鏡問答となるとそればかりという会話をし続けるアビス4。

「長らく隻眼巨人として生きてきたからヒトガタになってもいいと言われて、なってみたら隻眼じゃなくて両目なわけ、嬉しいよな?もう非番の日に長時間でテレビ、読書、音楽鑑賞、ゲーム、自ずと視力が低下して不自由生活第二弾突入、眼鏡使用生活の始まりだ。アビス魔界でも一応、1年に1回身体検査を行うようになって高身長とかは別にいい、元々が隻眼巨人だから。だが視力検査をとなるともはや普通自動車第一種運転免許すら裸眼で取得できないだろうというレベルのド近眼となっていた。知ってるか、眼鏡使用と免許証に記載されるそうだ。しかしコンタクトというものがあるとリヴァが教えてくれてさ、ソフトとハード、どちらがいいかという問題に直面したものの、相談をした結果、ワンデイタイプのソフトがいいのではとなった。眼病予防にもなるという話で、目を洗う洗浄剤も同時に購入することになり、その取扱い店舗がこの神國にあると聞いてな、有給休暇も貰えたしアビス魔界からあまり外に出たことが無い、それで幼馴染のリヴァとプチ旅行を兼ねて俺はコンタクトと飛行石を買いに来たとなるんだな」

筒香烈火は逃げ道を捜している。

「無駄だと思うぞ、どこまで逃げても」

ギガンテスが眼鏡をくいっと上げる。

「風神が呪詛を刻んである、居場所が我々に筒抜けだ、監視塔番の烏丸が君達が歩いて行った方向性から恐らくこの時間にここまでたどり着くだろうと計算してあった、ラッキーだったな」

筒香烈火は敢えて返答をしない。

「もう後半日しかないのに無理だろうよ、今此処で俺とリヴァが君達をどうにかしなくてもアビス魔界から追手がどこまでも来る、殺してしまった相手を生きた状態で返す、奪ってしまった生命をどう相手に返すと言えるんだ?馬鹿じゃねえの」

「門番は歴史はやり直せる」

「俺もアビス魔界の門番なんだがね」

「別だ、その門番ならやり直せる、全部なかったことにできる、やり直しがきく、その門番を今捜してる」

「ちなみにその門番とやらは、君のその考えに同意してくれるのか?賛同してくれるのか?その門番とやらは君の望みを叶えてくれるのか?」

「俺にとって家族同然の奴だ」

「そうか、親身になってくれる相手なのか、それでその相手を今捜しているというわけか、それでここまで歩いてきたというわけか」

「そうだ」

ギガンテスが腕組みをする。

「それさ、方向が真逆だと俺は思うんだが?頭大丈夫?」

筒香烈火は苦笑している。

「それはお前の考えだろ」

「いや、確かに俺の考えの1つでもあるんだが、本当に真逆だというだけで、君を親身になって望みを叶えてくれる方からどんどん自分から遠ざかっているから、という指摘でもあるんだが」

「遺体が見つかってない」

「ん?遺体?」

「その門番は死んだと嘘を吐いた奴がいる、でも遺体が見つかっていない、どこかで生きている」

「どうにも話が噛み合わないな、君はどういう思考をしているんだろうか、会話が成り立たない」

「お前が馬鹿で愚かなだけだ」

「まあいいや、俺は今入国許可の審査待ちをしているだけだし、神國はかなり徹底しているよな、アビス魔界は入口をアビス魔界王の結界防御、それを突破してきた侵入者を烏丸、そしてその日の門番が最初に相手するんだが、悪魔人間であってもやはり半分が人間だから入口結界で気絶したんだろうし、後半日、外の空気を吸って残された余生をその奴隷に有意義なものとして与えるといい」

その時、入国審査を終えた彼の幼馴染という女性が走って来る。

「おーいギガ、ついでに飛行石が売っている店まで聞き出せたぞ」

「おおーついに俺はあの子をこの両手で受け止める事ができるんだな」

「それとだ、コンタクトなんだがワンデイもいいが2ウィークもいいと情報を得たぞ」

「え、何それ」

「管理を怠らなければワンデイより少々安価で手に入るらしい、それとだな、そのコンタクトも眼鏡同様最初に視力検査をするそうだ、簡易的検査だからそうは時間が掛からないとさ」

「…リヴァ、俺は眼鏡すら管理を怠ってしまうんだぞ、ワンデイって使い捨てなんだろ、1日使ったら1日の終わりに捨てる、そこに管理を全く必要としないじゃないか、ここにコンタクトを置いています、そう場所を指定しておけば簡単じゃないか」

「そうだったな、ギガはどうにも物の管理が苦手だしすぐに騙されるからな、志津史に二度も騙されてトイレに手を突っ込んだんだろ、考えてもみろ、ギガの眼鏡がトイレの中にあるか?そのトイレってどこだったか思い出せよ、ギガが使うトイレってそこじゃないだろ」

「あ、そうそう、俺が使うトイレは別だ、志津史もかなりの策士だな、トイレの詰まりを俺に素手で直させるとは、その俺の手はどうなんだよ」

「その子を受け止めるには相応しくないだろうよ」

「がびーん」

2人の会話が長引きそう、筒香烈火が逃亡を謀る。

「アクアゾーン」

リヴァイアサンが片手を向ける。すぐに筒香烈火の首から上部分に水の塊が発生する。

「リヴァ、それだと窒息するぞ、悪魔人間が」

「烏丸の言葉を忘れたのか、こやつは詐欺逃亡中だ、志津史が奴隷回収をあと半日で実行するんだろ、それのちょっとした手伝いだよ」

「そういやこの悪魔人間と俺、会話が全然成り立たなくて困ってたんだよ」

「どんな会話だよ」

「やり直せるとか、そういう親身になってくれる門番さんがいるとか、その門番さんとやらが望みを叶えてくれる程に親身になってくれるのは家族同然だからとか、でもほら方向が真逆だっていう話をしたんだよ、捜してるわけだろ?死亡したと嘘を吐かれたとか、遺体が見つかってないからどこかで生きて居るとか、ナニコレ」

「確かに真逆の方向だな」

「でも捜してここに来てる、確定だよな」

「ああ確定だな」

「とりあえずさ、会話が出来なくなるからあの水をぽいっと」

「そうだな、しゃあねえ」

窒息寸前の筒香烈火が倒れこむ。

「げほ、げほ、」

「なあ君、アビス魔界に戻るつもりないよな」

「げほ、げほ、」

「戻らないつもりだったよな?このまま逃亡だよな?俺はアビス4、ギガンテスだ、アビス魔界の門番第1班、勘違いをしてもらっては困る」

「ああもう日が暮れて来た」

「あ、お店がしまっちゃう?」

「風神と雷神のように速く走れないからな、移動に時間が掛かり過ぎた、観光はまた別日にして今はギガのコンタクト、それと飛行石だ、もうあと少しで追手が来る、我々が何をせずともよかろう、捨て置けという奴隷シマだ、しかし不可解だな、何故悪魔人間は奴隷シマを庇護するかだ」

「俺なら分かるぞ、今にも死んでしまいそうな可哀想な仔犬や仔猫を助けたいという小さなお子さんがよくいるだろうアビス魔界にも。だが家ではペットは飼えません、元々捨ててあった場所に返して来なさい、そう母親に言われて致し方なく元々の場所に捨ててくるしかないというあれだ」

 

入国審査官という男性が入口で勤務をしている。ひとまず休憩する場所を、そう考えた筒香烈火がそこへ向かう。

「今日はここで休むぞ真白」

「入国審査となります」

「入国審査?」

「身体チェック、所持品検査を行います。氏名、職業、年齢をお聞きして審査官が入国可能か判断するだけです。2名でよろしいですね」

筒香烈火が応じる。

「では氏名、職業、年齢を」

「筒香烈火、職業は…今は無職、年齢は24です」

「ではそちらの方、氏名、職業、年齢を」

つごうしろからの返答はない。

「氏名、職業、年齢を」

「筒香真白、職業は真偽論者、年齢は19です」

「申し訳ありませんがご本人の口からお聞きしないとなりません、個人情報の徹底管理をしております、代理返答は受け付けません」

「真白、名前、」

「はらへった」

「真白、名前だよ名前」

「たべもののみもの」

男性から溜息が漏れる。

「構いませんよ」

「なら行くか」

「入国は許可されません、お引き取りを」

「どういうことだ」

「その方が原因で我が国に疫病がもたらされる危険性が見受けられます、身体チェックも所持品検査も行う必要性が無いと判断しました、入国は許可されません」

筒香烈火が息を吐く。

「1つ聞きたいんだけど」

「入国許可しない理由は申し上げました」

「あんたの名前」

「名前ですか」

「訴えるんで」

「どういうことでしょうか」

「自由に出入りできない国とかあるか、金ならある」

「その方に入国許可した結果、疫病が我が国に蔓延してしまう危険性があるというだけです、先んじてそれを回避する事が我々入国審査官の仕事です、入国審査で許可が出れば代金を支払う義務がありません、しかし危機回避の為、我々が入国拒否とする事は我が国で規律として定められております」

「俺は名前を聞いてるんだよ」

男性が致し方なくと返答する。

「阿佐日向と申します」

「かなり若いよな、いくつ」

「1402歳です」

(阿佐地神湖龍と阿佐湖神龍夫妻の息子さんです)

24歳、19歳としている筒香烈火、つごうしろからするとかなり高齢という彼を前に論争が始まっている。入国審査場で問題発生、連絡を受けた方が走って来る。

「何がどうなっている?入国審査時間も終わるぞ」

「この方々を入国拒否としたんだが納得をされないんだ」

「あなた方の氏名、出身はどちらですか」

「人に名前を聞く前に名前を名乗るのは常識だよな」

筒香烈火による指摘で彼もまた名前を名乗ることとなる。

「阿佐高千穂、よろしいか」

「ここで何を?」

「どういう質問であろうか」

「随分と偉そうな態度なんで」

「名は阿佐高千穂、現神國王立軍中佐、齢1402だ」

(阿佐地神湖龍と阿佐湖神龍夫妻の息子さん、日向の双子の弟)

「家族は」

「逆に質問をさせて頂く、入国希望の理由だ」

「相手に失礼だとも分からないのかよ」

「日向、封鎖だ」

「了解、これより3分後に入口封鎖を致します、それまでにお引き取り願えない場合、

我が国の法律の下に刑罰を受けて頂きます」

「どうせまともな親じゃないんだろう、親の顔が見てみたいもんだ」

「我々の両親は別な場所で警察本部に所属しておりますが、まともではない職業でしょうか、あなたは無職です、そしてそちらの方は危機をもたらす危険性のある方です」

「どうせ大したことない警察だ」

「父は警察本部の特殊任務課所属の警部、母は同じく警察本部刑事課で主任書記官をしております、法整備が進んでいる世界だと聞いております」

「日向、お前は何でもかんでも喋り過ぎだ、仕事に支障が出る」

3分後。

「中佐、この2名ですか」

「ああ、入国審査不許可、警告しても尚居座っている」

「追放か、連行かとなると」

「疫病蔓延危機回避の為だ、追放処分でいい、頼む」

「了解」

2人を取り囲む現神國王立軍の部隊が銃器を構える。

「両手を頭の上へ上げろ、そのまま外へ出ろ」

「ここは客に失礼だな」

その時。

「どうも失礼しました~」

ギガンテスとリヴァイアサンの2人組がにこやかに挨拶をして通り過ぎている。

「やったぞ、俺はとうとうあの子をこの手で受け止められるんだ」

「コンタクトも買えたからな、眼鏡としばらく併用だとはすげえな」

「仕方ないだろ、ドライアイだと言われてしまったし」

「付ける外す、の練習でかなりの時間をかけていたな」

「指を目に突っ込むなんて恐ろしいだろ、やってみそ」

その2名を見た筒香烈火。

「俺達はあの2人の付き添いだ、帰るようだから帰る」

つごうしろを連れ2人の後を追うようにと外に出る。

「中佐、片方は浮浪者ですか」

「鼻が腐るかと思ったが、日向もよく耐えたな」

「入国審査場で名前を逆に質問されたのは初めてだった」

「先の2名は」

「アビス魔界からの来訪者で、四魔貴族という職業、噂通りの実力者だとは見てはいたんだ」

「アビス魔界、父の同胞とされる方に出身とされる方がおられた筈」

「閻魔火焔地獄が実家という龍族の方だ、お兄さんと妹さんがという」

「アビス魔界の四魔貴族の2名の付き添い?詐欺師か」

「疫病蔓延の危機回避できた、次はない」

「監視カメラに記録が残っている、ブラックリストに記載しておく」

 

「指をこう、目に突っ込むんだ、そしてぐいっとだ、恐ろしいな、眼鏡の不自由生活、コンタクトの恐怖生活、天秤にかけた場合どうしたらいいものかと俺は心底悩み始めている」

「仕方ないだろう、長らく不自由だった人生を謳歌した結果がド近眼、自業自得だ」

「でも目薬か、…これも目を開けたまま二滴垂らすという事だったな、一日に3回も」

「それくらいは耐えるべきだ、本来の職務を思い出せ」

「アビス4だ」

「ああそうそう、レーシックという手術があるとも言ってただろう眼科医が、眼鏡もコンタクトも必要がなくなるとかあれでいいんじゃないか」

「おお、眼鏡もコンタクトも卒業か、おいしい話だ」

「我々の受け取っている報酬で簡単に受けられる代金だったぞ」

「素敵な話、泣きそうだよ」

そこで2人が足を止める。

「我々を尾行してくるとアビス魔界へ一直線だぞ、約束は果たせたのか?」

リヴァイアサン、ギガンテスが振り返る。

「何の話だ」

「リヴァ、このままアビス魔界に連れ帰ると追手も出さずに簡単に回収できる」

「少し話をさせてくれ」

リヴァイアサンが前にと出る。

「郷間志津史相手に君たちは約束したそうではないか、そこの奴隷シマが殺害した逢坂桐蔭とルドラ=シヴァの2名を生きた状態で返すと。猶予とされた2日がもうすぐ終わるが、その約束を果たせたのか」

「2日?」

「郷間志津史が筒香烈火にそう告げたと聞いている、証人も多数いる」

「そんな話なかったぞ」

「俺は聞いていたぞ、烏丸も、勿論志津史も、君が人質にとしたあの子も、風神と雷神も、あの場に居た全員が猶予は2日だと聞いていたが」

「悪魔は信用できねえな」

筒香烈火の返答に2名が沈黙する。

ギガンテスとリヴァイアサンが背を向ける。筒香烈火もつごうしろを連れ真逆の方向へ歩き出す。

「なあリヴァ、これお土産、風神と雷神喜ぶかね」

「最近あの2人組はそれが好物だったからな、喜ぶだろうよ」

「前もあの二人、派遣要請とかで出掛けて行った先でお土産くれたじゃん、何だっけ、いっぱいのお菓子」

「あれは例の萬屋店舗で購入したと聞いたぞ」

「…そうか」

その2人の元へ走り寄る者がいる。

「たべもののみもの!」

「真白!!」

「よこせ!よこせ!」

沈黙する2人。ギガンテスがお土産を頭上にと持ち上げ歩き出す。それをどうしても奪いたいつごうしろがギガンテスにつきまとう。

「う、ぶ、ぶへ、ぶへっくし!!」

その時花粉症というギガンテスがくしゃみ。鼻の穴から詰めていた綿が吹っ飛ぶ。

「ふ、ふがああああ!!!!」

ギガンテス、走り出す。

「ん?どうしたんだよ?」

リヴァイアサンも追いかけるように走る。その後をつごうしろが必死に走り追いつこうとしている。その後を筒香烈火が焦燥という顔で追いかけている。

「う、うわ、うわあああ、やだ、やだ、ついてくんなあ!!」

「たべ、たべも、の!!」

「ひうあっ、うあっ、く、くんな、来るなー!!」

食べ物に執着し過ぎているつごうしろが本気を出してギガンテスを追いかける。実はギガンテスは元々隻眼の巨人、足が致命的に遅い。

「どうしたんだよギガ」

普通に追いついている幼馴染のリヴァイアサン。

「く、く、くっさ、くっさいの!!」

「は?あー、綿が吹っ飛んだしな」

「やばい!病気もらっちゃうぞ!!知らんかった!!やばいやばいやばいやばい!!」

「どれ、どんなだよ」

リヴァイアサンも花粉症。ちょいと体験、鼻の中に詰めていた綿を取り出してみる。

「う、うげほおおおおおおおっ!!」

「な、なあ!!やばいだろ!!どうすんだよー!!ついてくるよあいつー!!!」

「そ、そのお土産を、うげええええっ」

「だ、駄目だ、これは!これは風神と!雷神に!!うあああああああ!!!!」

「やべえ、は、吐き気で戦えないうっげええええええ!!」

恐らくつごうしろが人生で一番本気を出して走っているという場面。リヴァイアサン単独なら振り切れるものの幼馴染のギガンテスの脚の遅さに合わせている為、簡単にとめたくそ本気で走って追いかけているつごうしろも何とかついていける。筒香烈火が追い付きつごうしろを止めるも、

「はなせクソガキ!!」

それすら振り払いつごうしろ、本気でギガンテスとリヴァイアサンを追いかける。食欲旺盛、低身長肥満児という外見ながらつごうしろが本気で走っている。

 

「おんやまあ、奴隷自ら回収せずともお戻りですがな」

視力が尋常ではない烏間烏丸、かなりまだ遠方という場所を見ている。

「ギガンテスさん、超必死」

ギガンテスの悲鳴、それを耳にしたというアビス4第2班、戸隠風神とアエノ=トールが目線を上げる。

「うわあああああああああああああああ!!やだやだああああああ!!!」

「うぐぇえええげえええええっ」

ギガンテス、リヴァイアサンの2名が入口結界内へ入りぐったりと地面に突っ伏した。

「2日が過ぎた」

郷間志津史がアビス魔界入口結界外に出る。つごうしろが動きを止める。

「くそ、せっかく、魔界から出られたのに、」

つごうしろ、筒香烈火に郷間志津史が近づいていく。

「約束は果たせたか」

筒香烈火が間合いを取りながら対応する。

「2日とか聞いてなかったぞ」

「貴様達に何が出来たか話してみろ」

筒香烈火からの返答はない。

「現神國迄行ったのか、何も果たせずアビス魔界へ戻ってきた」

「くそ、」

「奴隷死魔を引き渡せ」

「真白は奴隷なんかじゃない」

「奴隷死魔を引き渡せ」

「耳が聞こえないのかよ」

「貴様が人質として差し出した者は既に解放した」

筒香烈火が苦笑する。

「悪魔もあいつを特別待遇か」

「何が言いたい」

郷間志津史の横に、頼成隆景が歩いてくる。

「お前が真白の代わりに奴隷とやらになればいい」

「俺がですか」

「真白は創造神、真偽論を使える、全世界の王だ」

「戯言は終わったか?」

郷間志津史が尋ねる。

「話が違うんじゃねえか」

ギガンテスが立ち上がる。

「逢坂桐蔭とルドラ=シヴァの2名を生きた状態で返す、奴隷をアビス魔界から解放させる為、逃亡幇助の為の虚言だ、死者を愚弄するばかりか我々アビス魔界住人をも貴様らは愚弄するのか」

ギガンテスが結界外に出る。

「我々はアビス魔界門番、アビス4、四魔貴族、戦場は門前だ、来い」

ギガンテスが筒香烈火と奴隷シマの手を掴む。(ギガンテスは脚は遅いけれど馬鹿力)

「く、そ、」

ずるずると引き摺られる筒香烈火、奴隷シマ。

「ありま、どんがらがっしゃーん」

烏間烏丸が見ている。入口結界に引き摺られ衝突、筒香烈火と奴隷シマが気絶した。

「我々を愚弄しおった愚者共、4人で片づけるぞ」

リヴァイアサンが鼻の穴に綿を詰め込んだ後、気絶中2名を冷酷に見下ろしている。

 

『対ギガンテス戦』

アビス4、四魔貴族の4人が門前で筒香烈火、奴隷シマとの戦闘を開始する。

「おい」

気絶している筒香烈火の顔をギガンテスが叩いている。

「朝だ、起きろ、起床時間だ」

入口結界に激突した衝撃で気絶中の相手の『起床』を促している。

「おい、起きろ」

ギガンテスの手がその頭髪を掴み『起床』を促している。

「激痛プレゼントを直に感じ取って貰わねえとせっかくの贈答品が台無しだろ、俺からの感謝の気持ちが伝わらねえだろ、無視してんじゃねえ」

舌打ち、そして呟かれる言葉。

「くっそつまんね、何だこいつ、使えねえな全く」

その一言に反応した筒香烈火が『起床』する。

「ようやっとお目覚めか、気分は爽快か」

「…俺を馬鹿にしたな」

「使えると証明出来なかったじゃねえか、己の才が如何程底辺以下か自ら証明してくれただろが、其の礼をしようってんだ、せっかくの俺からの感謝の贈答品を受け取ってくれよな?」

直後、筒香烈火が吹っ飛ばされる。

「利点が最初から此方に無い事は気付いておったが、気付かせてくれた礼を受け取ってくれよな」

アビス魔界門横の壁に身体がめり込む。

「く、」

「ああよかった、痛かったかよ」

ギガンテスが拳を、脚をと振りかざしている。

「痛かったら右手を挙げて返事してくれ、俺は貴様の痛みが理解出来ん、痛かったら右手を挙げて返事を続けてくれな」

その『右手』をギガンテスが集中的に殴り蹴り飛ばしている。

「あれ、返事がないな、痛くないのか、ならばもう少しレベルを上げないといかん」

筒香烈火は沈黙した。

「リヴァ、歯医者さんで前に言われたんだよ、痛かったら右手を挙げてくれって」

「痛かったんかよ」

「うん、奥歯が虫歯だったんだ、治療するのに2週間かかるって言われて、あのキーンって音が怖かったな、麻酔してもらってなかったら俺は何度も右手を挙げてたと思うんだよね、でも何度か右手を挙げてたんだよね」

筒香烈火VSギガンテス戦、終了。

 

『対リヴァイアサン戦』

「志津史、これはお前の奴隷だろ、どうすればいいんだ」

彼から返答はない。しかし逆に返答する者がいる。

「ふあ、うあああ、」

筒香烈火が沈黙した場面を前にした奴隷シマが恐怖のあまり、腰を抜かし奇声を発している。

「なあ奴隷シマ、1つ質問に答えてくれないか」

尚も奇声を止めない奴隷シマ、恐怖の度合いが異次元となり再び失禁をしている。

「奴隷シマ、お前は何歳なんだ?」

「今更ですかいなリヴァイアサンさん」

「だってほれ概念なわけだろ?アビス魔界の我々と別個な存在だろ?実年齢を知りたいなとさ、ちょいとした好奇心だ、ちなみにあっちの悪魔人間は24歳だって言ってたんだけどさ、悪魔と人間の半々で24歳だろ?悪魔とすれば赤子だ、人間とすれば成人してる24歳だ、でもこいつは概念だろ?概念て年齢とかあんのかなーっと」

「人型概念の年齢は、精神年齢が実年齢と同等です」

頼成隆景が説明している。

「つーことは成程、以前概念だっつー2人組を通していた時と同一人物だと全然思えなかったんだよな、へえ」

「思考、意識が低下すると外見に反映されるだけです」

「どーりでちびデブガキンチョに成長してるなと思って見てたんだよな、背が縮む成長か、ふうん」

おーい、とリヴァイアサンが烏丸に声を掛ける。

「体重計あるかー?」

「なんなんですかね、リヴァイアサンさんの好奇心てのは」

がくがくとし動けずにいる奴隷シマをリヴァイアサンが体重計に乗せる。

「うお、すげえぞ」

「今現在彼は身長96センチです」

「96センチで体重が80キロかいな」

「人間では2歳未満の肥満児です」

「ほおお、このまま成長を続けると立派な力士になれるな、あ、駄目だ、身長が縮む成長だろ、だが体重は増える成長、将来の夢が限られてくる未来無し2歳児、それが概念だったのか」

「2歳未満なので2歳と断言が出来ません、1歳11か月迄としてもいいと思います」

「へえ、私がそんくらいの時は海水浴を楽しんでた頃だな、ギガが溺死しかけてばかりという頃だ」

「あなたは何が気になっているんでしょうか」

「こいつに無い未来にこいつがどういう将来の夢を持っているかだな、概念がまずどうにも分からん、アビス魔界の者でもなれないと分かっていながら将来なりたいもの、そういう夢を持つ者が多くてな、志津史の兄の静華もサッカー選手になりたいとかだった、悪魔という我々でも持つ将来の夢を概念は持つのかなとちょいとな」

「常日頃から『概念はどうとも思わない』『概念に感情は不要だ』『概念は思考も不要だ』と言っていました」

「つーことは既に全てを諦めてしまっていたということか、成程」

リヴァイアサンがふむふむと奴隷シマを眺めまわしている。

「思考不要としているのに今も考えているのはどういう事なんだ?」

奴隷シマが恐怖を感じているのが周囲の者には明らかに分かっている。

「感情不要だとしているのに恐怖を感じているのはどういう事なんだ?」

好奇心旺盛なリヴァイアサンの問答が続く。

「成程、どうとも思わない、で全て完結するな。死にたくない、殺されたくないと考えて居る、其の事に恐怖を感じて居る、だが其れをどうとも思わない、となるのか」

リヴァイアサンが奴隷シマの前にしゃがみこむ。

「なあ、お前はどう死ぬんだ?」

その言葉は過去に筒香真白としていた彼がよく発していた言葉である。

「まあいい、もうどうでもよくなった。お前がどう死ぬのかは殺していく過程で知れるだろう、概念とは遺体が残らず塵になり風に吹かれて跡形もなく消え去るそうだしな、最初から其処に何も無かった、誰の記憶にも残らず、歴史に其の名も其の存在した記録さえ残らず消え去るだけだとか、ならば将来の夢も不要だな、思考不要だし、自分が完全消滅する事に対してもどうとも思わない、概念という生物は随分と自分の命をお粗末にとする愚者だったんだな」

リヴァイアサンが立ち上がる。

「風神、雷神、お前達の尊敬する師匠は斯様なお粗末な生物の食欲の為に命を落としたのだ、庇護する輩も居らん、ならばお前達がこやつを好きにすればよかろう、門番は私とギガが交代する、それとギガから後でいいもんが貰えるから少しは元気を出せよ」

 

『対戸隠風神+アエノ=トール戦』

2名の会話も言葉も発言も無い。奴隷シマが奇声を発しながら抗っている。奴隷シマは2名の体力強化の結果お披露目会として暴行を受けている。日頃からの鍛錬の成果が果たされている。煉獄閻魔の準備運動以上という暴行の嵐の中、奴隷シマの意識が遠のく。

奴隷シマが必死にと手を伸ばす。その先に沈黙している筒香烈火がいる。その手もアエノ=トールの脚に踏み潰された。

奴隷シマの命の灯が消えかけている。彼に手を差し伸べる者は其処に居なかった。

戸隠風神、アエノ=トールの2名が涙を流しながら戦闘をしている。

ギガンテスとリヴァイアサン、烏間烏丸、頼成隆景がその一部始終を見ている。

アエノ=トールがミョルニア、自分がかつておっしょー様と呼んでいた破壊神シヴァから譲渡された槌を振りかざす。静かな音のその場に一度だけ轟音が響き渡った。その音はアビス魔界の住人、全員の耳にも届いていた。

 

こうして、奴隷シマ、つごうしろ、かつて筒香真白という名前を名乗っていた人型概念は完全に消滅を果たした。その場に残ったものは彼が最期まで垂れ流していた汚物のみとなった。

 

『対郷間志津史戦』

筒香烈火が口から血を吐きながら正気を取り戻した。会話が聞こえている。

 

「そんでな、俺はこう、この角度だと思ったわけだ、空からあの子が墜ちて来る、今の俺ならあの彼よりあの子をもちっと受け止められると思っているんだ。あの子は悪に利用される手前で逃げる所だったんだ、自分の今の状況が全然分からない、でもこのままだと駄目だ、それだけで飛行船の外へ出た、そして足を滑らせて上空から堕ちてしまったんだ」

「ギガ、それはもう何度も聞いてるんだよ、その先だよ、受け止めた後だよ、最終的にどうなるんだよ、受け止める受け止めるばっかで先を知らねえんだよ」

「俺は働いている」

「どこでだよ」

「本当は俺じゃない、でも俺があの場にいるとなったら俺は働いている、まるで父親のような親方という男性の下でちょいとパシリ的にだが働いている、今夜も徹夜で仕事になりそうだからと街へ肉団子を買いに行かされる、まるでパシリだ」

「それで終わりか」

「終わらないよ!?やめてくれないか、そんなの全然まだまだ最初なんだよ!?ラストは天空にあるお城がぼろぼろと崩れて宇宙まで行ってしまう、それを見送ってから故郷へ帰るんだよ!」

「おい、肉団子はどうした、パシリをしていたんだろ、いきなり天空にって舞台がすっ飛んだぞ、何だそれ、パシリの親方と働いていた場所は空にあったのかよ」

「うわああああ、違う!親方と働いていたのは俺の地元!父親が死んだ、母親ももういない、孤独に細々と生きて居た俺!親方の下で働いていても手に入るのは僅かな金、食事内容だって食パン、そして卵、目玉焼きだ、質素な暮らしをしていた、そんな地元から離れ、伝説の天空にある城を目指し、監視なんかもしたり、そう、あの雲の中だ」

「結構な働き者だな、監視もかよ」

「実に実直で真面目で純粋な俺だ、いや俺じゃないんだ、でも俺だとしてだ、その女の子は実はそのお城の王女様、その血筋の者、末裔という感じの者だったんだ、あの子を利用しようとしていたボスも同じようにそういう血筋の者、嫌がるあの子を無理矢理に、…俺は泣いていた」

「親戚同士で結婚とか無理じゃねえのか」

「…どうなんだ?あのボスは途中で目を痛めてしまった、きっと目が不自由になった筈だ、まるで俺のようじゃないか!俺は長らくあのボスを悪だと信じていたが俺とそこで共通点が出たぞ親近感が湧いてきたぞ、実は俺はあのボスだったのか?あの子を受け止めるという使命を果たせず実はあの子を利用するというボスだったのか?俺が手にしたこの飛行石は俺がそのボスだったからなのか、俺は世界を滅ぼす神になりたかったあのボスだったのか」

そこで2人の会話は終わった。

「目が覚めたか、随分とお寝坊さんだな」

「そういやギガ、この悪魔人間の名前を知らんぞ」

「あれ、知らん?筒香烈火、人型思念だった時に俺達とバトルした相手。俺相手に4日も寝てたんだぞ、本当にアビス魔界王相手に2秒で圧勝とかしたんかね、疑問だな」

「ああそうそう、そういう名前だったか、すまん、いろいろあったからな」

「まあ俺もレーシックはやっぱ無理と決断していた時間が流れてしまっているしな、やだよな、目を見開いたままの手術だなんて恐ろしいこと極まりないね」

「ああ筒香烈火とやら、あいつもういねえから安心しろよ」

その言葉に筒香烈火が反応する。

「すげえよな、マジで人型概念て跡形もなく消え去るんだな、興味あったから知れてよかったよ、何だっけ、消滅だっけか?死亡じゃねえんだよな?消滅だっけ、あれ、どっちだっけ、まあどうでもいいけどな」

そこへ烏間烏丸が来る。

「お二人さん、ほれほれ、用事があったっしょ」

「あーあー、すっかりだ」

「筒香烈火とやら、後始末してくれ、あいつが消化する前にすげえ汚してたからよ、作って出したモノは残ってる、掃除しろ」

奴隷シマが最期に作って出したモノというのは彼が排泄した汚物。

「責任取れよー、ペットの糞は飼い主がゴミ袋に入れるんだ、アビス魔界門は神聖な場所だし、俺達アビス4が職務を全うする場、こんなに汚くされて被害を被ったのは俺達だ、飼い主ならペットを最期まで面倒見るのが当然だろ、そんくらいの常識はわきまえてんだよな?」

筒香烈火は思考している。

「出来るだけ早くな?動けるなら今すぐやってくれな」

「…どういう、ことだ」

「喋れるなら元気だな、なら今すぐ掃除だ掃除、掃除用具はここにはないんだよな、志津史と静華が管理してる関所1番のとこと23番んとこにあるわ、どっちからか持ってきて掃除な、早くだぞ」

めり込んでいる壁からどさっと筒香烈火が地面に倒れ込む。

「奴隷死魔の代替品、掃除用具は23番横から持ってこい」

「志津史、関所の方はどうしてんだ?こっからだと分からんの」

「俺管轄の1番から22番の方々はとてもいい方ばかりなので大丈夫だと言ってくれました」

「成程ねえ、前半の番人達って優しいよな」

「23番から44番の方々もとてもいい方ばかりです」

「そらよかったよかった」

郷間志津史が奴隷代替品という彼の髪を掴み上げる。

「ギガンテスさんとリヴァイアサンさん、風神さんと雷神さんの神聖な職務の場だ、徹底的に磨き上げろ。その後は分かるな」

せめてもの抵抗として郷間志津史の顔に筒香烈火が唾を吐く。

「真白をどうした」

「話せる体力が残っているなら掃除だ」

きしむような身体状況の筒香烈火が郷間志津史を睨みつけている。

「奴隷死魔代替品として貴様をアビス魔界の奴隷2号にすると判断が下った。初代奴隷が果たせていない職務を後継とし全うするだけだ。どうせこれも聞き逃すのだろう、どうしようもない奴等だな、概念と思念とやらは」

「…真白をどうした」

「消滅しただけだ」