土曜日、ついにタクシー運転手を観ました。
映画の余韻があるうちに、書き留めておきたくてつらつらと綴っていたら、今日になってしまいました。。
一応結末までは書いてはいないものの、割とネタバレの内容になってしまったので、これから観る予定の方はご注意ください。。
ちなみに映画の上映時間までの間は、通訳ボランティアに出掛けていました。
今は自分の勉強のために、お金が出ない仕事でもやっています(勿論、内容が交通費くらいの報酬でもいいと思えるものかどうかはしっかり吟味して選んでいますが)。
このタクシー運転手は、1980年に韓国光州で起きた、軍隊による民主化運動弾圧事件を元にした映画です。
ソウルの個人タクシーの運転手、キム・マンソプは、妻を病気で亡くし11歳の一人娘と暮らしていますが、暮らしに余裕はなく、家賃も滞納状態。
未払いの家賃10万ウォンを工面する方法を考えていると、外国人を光州まで乗せていき、通行禁止の時間になるまでにソウルに戻ってくれば報酬は10万ウォン、という仕事が入ったという話を他の運転手が話すのを耳にし、マンソプはその仕事をちゃっかり横取りしてしまいます。
連日報道されるのは、光州で反社会的勢力の学生達が暴れ、軍人に死傷者が出ているという内容ばかりであったので、本当の光州の状況は知らずにマンソプはその外国人を乗せて光州に向かいます。
その外国人というのが、記者仲間が韓国の光州にいる知人と連絡が取れないと言うのを聞き、光州で取材をするため韓国へやって来たドイツ人記者、ピーター。
英語が小学生レベルのマンソプと、韓国語が全く分からないピーターですが、なんとか光州に辿り着き、軍人がずらりと並ぶ検問もどうにか適当な話でごまかして突破します。
人気がなくシャッターのしまった店が並び、民主化を訴える垂れ幕やメッセージで溢れる光州の町。
二人は、異様な雰囲気を感じます。
そこへ、民主化運動中の学生達が通りかかり、彼らに取材をしたいと車を停めさせて学生達に話し掛けるピーター。
その中に一人、唯一英語の出来る学生がいました。その学生、ク・ジェシクはこの出会いから、光州にいる間ピーターの通訳をすることになります。
ここまでは、まだまだ光州がどんな状況なのか、わかりません。
ですが間もなく、病院が大怪我をした人々でごった返し、集まって民主化を訴える運動を行っているところに軍が無差別に発砲し人々が逃げ惑う光景を目にして…
結末まで書いてしまうと長くなるので、この後の展開は本編で、としますが、序盤のヒューマンドラマ、コメディータッチの日常の雰囲気から、徐々に観客もマンソプと共に光州での惨事に巻き込まれ、何も知らなかった日々にはもう戻れなくなってしまうストーリー展開には、非常に引き込まれるものがありました。
韓国国内の事件のことということもあり、わたしはあまり詳しいことを知らなかったのですが、敢えて詳しく調べずにほとんどまっさらな状態で映画を観に行きました。
マンソプと同じ目線で、これから何が起きるんだろう、嫌な予感がする、という緊迫感の中で観ることが出来たので、個人的にはむしろ良かったです。
実際に事件が起きたのが、映画を観に行った前日の5/18なので、タイミングもちょうど良かった。。
劇中では、リュ・ジュニョル演じるク・ジェシクと、ユ・ヘジン演じるファン・テソルが非常に印象的でした。
光州入りした日の晩、マンソプとピーター、ジェシクの3人が、テソルの家にお邪魔してみんなで夜ご飯を食べて楽しく談笑するシーンは、思い出すだけで胸が締め付けられます…
民主主義を守るために、武器を持たず、言葉だけで闘った、何の罪もない一般市民達。
その人達に対して何故あんなことが出来たのか、本当に不思議でなりません。
武器を持たない人達を武力で押さえつけるというのは、あまりにも酷く、それはあまりにも信じられない光景で、観ている間涙を流すこともできず、映画が終わってからもしばらく言葉が出ませんでした。震えが止まりませんでした。
これがフィクションであればどんなに良かったか。
実話であるという事実に、ただ愕然とします。
わたしがどうしても、この映画本当に良かったよ、おすすめだよ、と言えないのは、これが実際にあったあまりにも悲しい事件であり、決して涙を流すための物語ではないからです。
そんな美談として扱ってはならない内容だからです。
それでも、本当にスケジュールを無理くり調整してお金を払って観た価値があると断言できるし、観て良かったと心底思います。
光州事件のことをよく知らない方も、知っている方も、絶対に観る価値のある映画であることに間違いはありません。
役者さん達の演技、本当に素晴らしいです。
劇中特に、人質にとられ銃を向けられた時のリュ・ジュニョルの演技は、本当に臨場感があり、息を飲むばかりでした。
そして、人情に厚すぎる、光州のタクシー運転手のおじさん達。彼らの心の温かさが画面を通してでも十分すぎる程伝わって、光州からマンソプがピーターを連れてソウルに帰るシーンでは、つらくてつらくて映像を直視できませんでした。
また、マンソプが一度早朝にソウルへ帰った時、交差点で涙を流したかと思うと、決心したようにタクシーをUターンさせ、光州へ戻るシーンも印象的です。
その直前の場面でマンソプは、助手席に置かれた、娘のために奮発して買った新品の可愛らしい靴を手に取り、きっと喜ぶだろうな、と呟きます。その、優しくて、でも困惑したような、悲しそうな、自分に何かを言い聞かせるような、いろいろな感情が混ざった表情と声色に、これは光州に戻るな、と直感しました。
あのシーンは、娘にとってのたった一人の親としての自分と、もう知ってしまったからには見殺しに出来ず、仕事を全うすべきと考えるタクシー運転手としての自分との、葛藤がよく表されていました。
光州からソウルへ帰る際の検問所で、ソウルナンバーのプレートがトランクにあるのを見つけたのに見逃してやり、その直後外国人を通すなという指令が入った時も追いかけず、かと言って追いかける他の軍人達を止めることもせず、ただ前を見据えて立つ軍人さんの演技も、とても印象的でした。
ほとんど台詞がないにも関わらず、その佇まいから、心の葛藤がひしひしと伝わってきたのです。
実際にあったこと、実在の人物を演じるのは、非常に難しさの伴うことだと思います。事実、マンソプを演じたソン・ガンホは、一度オファーを断っているようですね。慎重になる気持ちはとても分かります。
ですが本当に、ソン・ガンホをはじめとする全ての役者さん達が素晴らしく、一人一人の思いもとても伝わる作品でした。
長々と語ってしまいましたが、これは本当に価値のある作品なので、韓国映画に興味がない方も、一度観てみて欲しいなと思います。
光州には2回程行ったことがありますが、タクシーの運転手さんのみならず、みんなとても親切だったのが印象的です。その頃は全くこの事件の全容を知らなかったけど、この映画を観てもう一度足を運びたくなりました。
きっと、景色が違って見えるはず。
今度時間のある時に、年明けに観に行った殺人者の記憶法と、大好きなビューティーインサイドも記事にしたいなあ。
果たして実現するのか。。(笑)