警察官が自らに向けて拳銃の引き金を引いたのは、上司の度重なるパワーハラスメントが原因だった。警視庁蒲田署で2月、拳銃自殺した同署地域課の男性巡査長=当時(44)=が自殺前日、上司だった同課係長の男性警部補(52)から辞職するよう迫られていたことが発覚した。警部補は周囲から「仕事熱心」と評価されており、巡査長を含む約10人の部下にパワハラを繰り返していたことは見過ごされていた。「指導」というには度を超えた振る舞いと、巡査長が遺書で残した決死の訴えとは-。
■「許せない」…遺書で実名告発、両親に相談も
前日からの雪が降り積もったままの2月15日。東京都大田区の蒲田署1階男子トイレの個室内で午後2時45分ごろ、巡査長が頭から血を流して倒れているのを同僚が発見した。巡査長は病院に搬送されたが、ほぼ即死状態で、間もなく死亡が確認された。
巡査長はこの日午後2時半から交番で勤務する予定だった。署内で制服に着替え、1階の拳銃保管庫で自分の拳銃を取り出し、銃弾を込めた後、トイレに向かって自ら拳銃で頭を撃ち抜いたようだ。巡査長のそばに拳銃とともに置かれていた遺書には、衝撃の告白がつづられていた。
「こんなに仕事がいやになったのは初めて」
遺書は両親にあてられたもので、上司の警部補の実名を挙げて「許せない」とも記されていた。
警視庁の監察部門が確認したところ、警部補が数日前、巡査長を含む数人に対して、職務質問による実績が上がっていないことを責め、「1年間見てきたが、おまえらは駄目だ。身の振り方を考えて家族に相談しろ」と辞職を強要する暴言を繰り返していたことが発覚した。
警部補は前日の14日にも、「家族に身の振り方を相談してきたのか」と追及を強めた。巡査長が同じ日に実家を訪れ、両親に「実は上司からパワハラを受けている」と告白。心配する両親に「自分で何とかする」と話していたことも明らかになった。
■「仕事熱心」の評価…被害者は約10人、休職者も
確かに、警部補が蒲田署地域課の統括係長となった平成24年9月以降、係の検挙実績は上がっていた。
それだけに「仕事熱心」という評価を受けていたが、実績を挙げられない部下には指導が厳しいという一面もあった。警視庁幹部は「自殺した巡査長だけが狙い撃ちされたのではない」と打ち明ける。
蒲田署でのパワハラが始まったのは、昨年春ごろ。「被害者」は確認できただけでも約10人に上る。電話をすぐに取らなかった新人は、ジュースの紙パックを口が開いた状態で投げつけられ、「お前は警察官に向いていない」と怒鳴られたという。
勤務表を間違って記載した別の部下はその紙を破り捨てられ、紙を拾おうとしたしたら頭をたたかれた。50代の警部補は仕事の覚えが悪いとして、「降格を申し出ろ」などと迫まられた。昨年11月には、部下の1人が警部補のパワハラが原因で休職に追い込まれたという。
警視庁は巡査長の自殺の原因がパワハラだったと判断。ほかの部下への人格否定や辞職強要の言動もパワハラにあたると認め、4月21日に警部補を減給100分の10(3カ月)の懲戒処分とした。
警部補は「パワハラの認識はなかった。責任を痛感している」と話し、巡査部長への降格を申し出た上で、「係員の個性を把握した上で指導するべきだった。適正な範囲を超えていた」と後悔の弁を並べているという。
■同僚のパワハラも認定…類似事案も
統括係長だった警部補の圧力は、部下の係長だった40代の警部補にも波及。部下数人から始末書を受け取る際、末尾に「今後、同じことをすれば辞職します」と書かせていた。
この警部補は「統括係長の前に係長が並ばされて怒鳴られたことがあった。部下がきちんとしていないと、自分が怒られるので厳しくあたってしまった」と釈明しているといい、警視庁からパワハラと認定され、訓戒処分を受けた。
また、一連のパワハラを見過ごしていた署幹部も監督責任を問われ、当時の地域課長(54)が訓戒、署長(58)ら7人が口頭厳重注意の処分を受けた。
警察社会のパワハラをめぐっては、大阪府警で上司からのパワハラやいじめを受けた四条畷署刑事課の男性巡査長が昨年自殺していたことが今年3月に発覚し、上司ら4人が懲戒処分を受けるなど、類似事案が後を絶たない。
神奈川県警OBの小川泰平氏は「職務怠慢が人命に関わることもあるので、警察社会に厳しい指導が残っていることは事実」とした上で、「自殺に追い込んだのなら、よほど度を超えた指導だったのだろう。指導とパワハラは違う。それは本人が一番分かっていると思う」と指摘する。
処分前日の4月20日には、蒲田署長が巡査長の実家を訪れ、両親ら遺族を前に謝罪した。上司のパワハラが原因だったことを告げると、両親らは切実にこう訴えたという。
「こんなパワハラが今後二度と起こらないようにしてほしい」
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