【解説】ずっと深刻だった水原千鶴の葛藤 | 恋心、お借りします

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【解説】ずっと深刻だった千鶴の葛藤

 

はいどーもっ。かのかり楽しんでますか?

 

今回は、映画製作中の千鶴の恋のお話です。

 

映画製作が始まると、千鶴が和也のことが好きなんだという分かるシーンが増えてきます。八重森さんの「付き合っちゃえは良いのに」に赤面したり(106話)、瑠夏ちゃんのカレーに嫉妬したり(111話)、小百合おばあちゃんに和也のことについて相談したり(112話)。和也と二人きりの撮影旅行では「好きじゃなくもない」と言った自分を思い出し、パニックになってしまいましたね(133話)。恥ずかしがり屋のこの子は、めちゃめちゃ緊張したと思います。

 

和也と同じく千鶴もまた彼に恋をします。少しわかりにくいですが、11巻86話、和也と千鶴の合同誕生に、千鶴は和也に恋していたんだと気づきました(【解説】超重要回 水原千鶴が「私 和也が好き」と気づいた瞬間!)。まぁ、その前から自覚してないだけで、和也のことはめちゃめちゃ好きですけどね、この子は(笑)。その後、自分の夢の実現、映画製作を通してさらに和也に惹かれていったんですね。

 

ふたりが相思相愛であれば、どちらかが告白すればふたりは恋人になることができます。でも、ふたりはなかなか告白しようとはしませんでした。和也が千鶴を好きなのに踏み出せなかった理由は、分かりやすく描かれてる一方、千鶴がなぜ踏み出そうとしなかったのか分からない、そう思いませんか。

 

しかしその理由がなければ、千鶴は和也を好きだと思った瞬間に、告白して恋人になろうとするはずなので、どこかで千鶴が和也に告白できないワケが描かれているはずなんです。そうでなければ、物語として成立しません。

 

勇気が出ないから?仕事が忙しいから?レンタル彼女のプライド?

そこには、もっと深刻なワケがありました。

 

 

 

  ずっと深刻だった千鶴の葛藤

 

千鶴は和也にクリスマスプレゼントを渡した後(32話)、「ハッキリさせたいことがある」と言って、こう切り出します。

 

あなた 私のこと スキ?

 

 

 

◆恋愛感情ナシの”協定” 32話

千鶴は和也が「好きじゃねぇよ」と答えると、「だよね!」と即答。情をわかす(恋愛する)気などさらさらないと言って、二人の関係は、恋愛感情ナシの協力関係であると決めてしまいます。そうして、あくまでも千鶴は和也が本物の恋人をつくるのを応援する立場なんだと言ってしまったわけです。詳しくは「レンタル彼女と客の協定」へ

 

ふたりの間で恋愛はしない あってはならない

私は彼の恋を応援する立場

 

千鶴は、この協定に従って和也は私を好きにならない、そう本気で考えているんです。

 

自分だけがこの協定を破って、彼に恋をしていると思っているんです。

 

それが描かれたのが八重森さんとの言い争いです(121, 122話)。

 

 

 

  千鶴が好きと伝えられないワケ

 

122話「師匠は女として水原さんのことが好きなんス」と八重森さんが告白すると千鶴は、

 

言ってたわ はっきり 好きじゃないって

第一 レンタル彼女に本気になるほど馬鹿な人じゃないわ

 

◆言ってたわ はっきり 好きじゃないって 122話

 

◆第一 レンタル彼女に本気になるほど馬鹿な人じゃないわ 122話

 

いやいや、この世に舞い降りた圧倒的”姫”水原千鶴が、和也ほどのスペックの男を魅了できないなんて、そんなこと思うはずがない。そう思いますよね、私も思ってました。この言葉は、八重森の口撃をかわす嘘なんだと、理屈を並べているんだと。

 

でも、千鶴はそうではなかった。

 

そのあと、和也との恋人関係の象徴である指輪を見て、「あー もうッ」と千鶴は悩みます。八重森さんから「和也は私のことが好き」と聞いて、”和也は私が好きなんだ”と思ったなら、悩まないですよね。”やっぱり和也も私のこと好きなんだ、恋人になろうね(笑顔)”のはずです。もしくは、恋人になった二人を想像して恥ずかしくなり、顔を真っ赤にするとか。

 

 

◆あー もうッ 122話

 

私が和也を勝手に好きなっているだけ

彼は私を好きなってくれない

 

そう思ってるから悩し、うまくいかないって気持ちが溢れてしまいます。本当は、恋人関係でも何でもないのに、和おばあさんの大切な指輪を受け取ってしまった。「どうしたらいいの、コレ???」って感じでしょう。

 

 

 

情をわかす気はさらさら無いの

好きじゃねえよ…

”本物の彼女”を作るとかがベストね

 

ふたりの関係をハッキリさせたあの日、千鶴自身が「情をわかす(恋愛する)気などさらさらない」と言ってしまったこと、和也本人から「好きじゃねぇ」と言われたこと、そして彼の恋を応援すると約束したことが、恋に気づいた後になって千鶴の心に刺さってしまっているんですね。

 

 

 

  和也にとって私はただの協力者

 

さらに、自分の恋心に気づいた誕生日会の後(86話)(【解説】超重要回 水原千鶴が「私 和也が好き」と気づいた瞬間!)、小百合おばあちゃんの命が残り少ないことが分かります。ふたりの関係が嘘だと言おうという和也。恋人関係を続けたい千鶴は、「おばあちゃんに”別れる”って言いたくない」とお願いします。しかし、そこで返ってきた返事が…

 

◆付き合ってないだろ…?俺たち… 91話

 

付き合ってないだろ…?俺たち…

 

そこで千鶴に突き付けられたのは

 

和也にとって 私はただ協力者 恋人でもなんでもない

 

という事実です(もちろん千鶴の目線ではそう見えるという意味です)。

 

その後も、ことあるごとに「別れる」と言おう、嘘だと明かそうと和也に言われます。この人が私のこと好きだなんて、さすがに思えないんじゃないでしょうか。

 

 

 

「彼女お借りします」のストーリーを理解する上でもっとも大事なのが「レンタル彼女と客」という関係性を正しく理解することだと思っています。千鶴と和也の二人はデートをしているように見えますが、やっていることはビジネスなんですね。それは二人とも良く分かってるはずです。

 

もちろん、制服デートや励ましデートを見ても分かるように、デートのときふたりは凄く楽しんでます。もしこの人が本当の恋人だったらいいのにと、千鶴も和也と同じように心の深い部分では願っているはずです。でも、和也からしたら、自分がお金を払ったから(つまり、自分と一緒にいたいからではなく、仕事だから)千鶴は嘘の恋人役を演じてくれるし、自分とデートをしてくれていると思ってしまっている。千鶴も、和也が好きだと言ってるのは、「私」でなはく「レンタル彼女水原千鶴」というサービスで、彼が求めているのは、家族の前での恋人役やデートの練習相手、恋の相談役、娯楽の提供だと思ってしまっているんですね。まさか、彼が自分のことが好きでレンタルを続けてくれるとは思ってないんですよ。

 

ふたりがレンタル彼女と客という関係だからこそ、千鶴は和也の気持ちに気づくことができなかったんですね。

 

 

◆”恋心”ってもっと別のものでしょ?(121)

 

”恋心”ってもっと別のものでしょ?

 

千鶴にとってレンタル彼女は、お客の恋を応援するただのサービス業。彼が慕ってくれてるのは、レンタル彼女としての私、女優としての私。そういって千鶴は、和也が自分のことを好きである可能性を否定します。

 

クラウドファンディングによる映画製作によって自分の夢を繋ぎ止めてくれた和也には、千鶴は感謝しかありません。これまで女優として、くじけそうなときに助けてもらいました。ちゃんとした人だからこそ、”本物の彼女を作る”という約束に、彼が真剣に向き合っていないはずがない、大切な人だからこそ、私も彼の気持ちを一番に考えないといけない、そう思い込んでしまってもおかしくはありません。

 

 

私が和也を勝手に好きなっているだけ

彼は私を好きなってくれない

 

ツンデレな千鶴は普段和也に対して理屈ばかり並べていたので、それに隠れてしまって気づきにくいですが、コレが千鶴の本心で、千鶴が前に進めないワケなんですね。和也と同じように千鶴も、好きな人の本心に気づけずすれ違ってしまっていたんです。

 

実際、このときは映画製作に忙しく、和也との恋を進める余裕はない時期です。でも、千鶴が嘘を本物に変えたいと願ったとき一番の問題が、”和也は自分のことを何とも思っていない”だったわけです。

 

 

 

  いくら恋人になりたいと願っても…

 

少し落ち着いて、水原千鶴の立場で彼女の気持ちを考えてみましょう。千鶴は、ふたりの間では恋愛はしないと決めて、和也の恋を応援すると約束しました。

 

好きじゃない 友達でいましょう

好きじゃない 上司と部下でいましょう

好きじゃない 先輩と後輩でいましょう

 

○○ちゃんには、僕の恋を応援して欲しい

××くんには、私の恋を応援して欲しい

 

好きな人や片思いの人にこう言われて、それでもその人が自分のことを好きだと思えるでしょうか、、、。

 

いや、普通に無理ですよね。きっとその人の気持ちは自分じゃない誰かに向いていて、その人が素敵に見えれば見えるほど、きっといい人を見つるんだと思ってしまいます。いくら優しくされても、それは仕事だから、彼(彼女)が優しい人だからと思ってしまいますね。私(僕)なんて見てないんだと思ってしまいます。

 

”恋心”ってもっと別のものでしょ?

第一 レンタル彼女に本気になるほど馬鹿な人じゃないわ

 

千鶴はそういう感覚で、この言葉を言っているんでしょうね。

 

 

 

和也が千鶴を好きなのに踏み出せない理由は、利用規約違反、協定違反だからですね。恋愛感情があってプライベートな関係を求めていると千鶴にバレてしまったら、レンタルさせてもらえず、嘘の恋人を続けてもらえなくなる(なごみおばあちゃんに嘘をだと話さないといけなくなります)。それに、千鶴とは恋愛感情なしの協力関係という約束なのに、それを破るんですから、自分の信頼は地の底、人として嫌われて当然。だから、和也はなかなか千鶴に好きだと伝えられないし、何か理由がないと会うことさえできないんです。

 

千鶴も、和也と同じだったんです。和也は自分のことなんて何とも思っていない、ならデートに誘うことすらできません。恋心を隠しながら、レンタル彼女と客という関係で繋がっていくしかないんですね。

 

 

 

  すれ違うふたつの恋

 

千鶴は和也のことを好きなんだと気づき(86話)、恋人になりたいと願い始めました(112話)。詳しくは、水原千鶴の恋物語 13-18巻・前編 理解度③

 

しかし、そのあとも千鶴は、この”恋愛感情のない”協定に従って、和也の前では、一切好きの気持ちを出しません。

 

まぁ、もともと素直に気持ちを出せるタイプの子でなくて、そっけない態度をとったりツンケンしてしまったりしてますが。

 

彼が私を好きではないなら、レンタル彼女として協定を守り抜くしかない立場であることは間違いない。それとない好きアピールや理由なく会うこともダメ。

 

デートの時は、おいしいものを食べたり、好きな映画を見たりすれば、とびきりの笑顔を見せてくれます。でも、和也と手をつないだとき、ハグをしたとき、好きという気持ちがバレてしまわないように、”いつも通りの水原”を演じ続けます。そうやってレンタル彼女の立場で、彼と誰かの恋を応援するのです。そして、本当は和也も千鶴を好きだということに全く気づかないのです。

 

 

◆どうなの?るかちゃんとは 138話

和也とふたりっきりの撮影旅行。和也の恋の行方は気になるものの、あくまで彼の恋を応援する立場。ここで描かれたのは、相思相愛のふたりのすれ違いでした。和也のいう「心から好きだって思える人」が自分だということに全く気づけません。

 

 

◆励ましデート 映画館 159話

”彼女”としてできる範囲で和也に近づきますが、”好き”という表情は一切出しません。オーダー通り、”和也が好きではないはずの”水原千鶴を守ります。

 

 

◆これなら ”本当の彼女”ができる日も 近いかもっ 163話

小百合おばあちゃんを亡くして、死んでしまいそうなくらい寂しいときに傍にいてくれた和也。本音では、和也に頼りたいし、”本当の彼氏だったらどんなにいいだろう”と思っているはずです。

 

うーんそうだな

相手の気持ちを考えてくれてるっていうか

うんきっと 女子なら皆 嬉しいよ

これなら ”本当の彼女”ができる日も 近いかもっ

 

私の事を考えてくれてありがとうと言う気持ちも、素敵な彼氏だったよという思いも、レンタル彼女として、こういう言い方しかできないんです。和也の恋を応援するよ、としか言えないんです。

 

そうやって、ずっと好きだという気持ちを隠し通しているわけです。

 

 

 

  希望を与えた言葉

 

しかし、19巻164話、あの伝説ともいえる神回。

 

 

 

 

◆俺の理想の彼女はさ… 164話

 

俺の理想の彼女はさ…

 

和也は辛そうにする千鶴を見て、「いつも励ましてくれて、笑顔が最高に可愛くて、大切な人だから今は泣いてほしい。それが理想の彼女だから。」、そう彼女に伝えました。

 

この言葉は、大きな悲しみを抱えた千鶴を救っただけではありませんでした。

 

そのたった一言が、和也は私を好きなってくれないと悩んでいた千鶴に、どう映ったのかよく考えてみてください。

 

分かりますね?

 

 

 

今日千鶴が告白に踏み出せないワケを知った方は、改めてかのかりを読んでみてはどうでしょうか。きっと今まで気づけなかった水原千鶴を見つけられるはずです。

 

水原千鶴の視点で振り返る「彼女、お借りします」レビュー&解説「水原千鶴の恋物語」を是非ご覧ください。

 

ではまた次の記事で。