私には恋愛経験がない。
人に恋した経験がない。
別に恥ずかしいとも情けないとも思わない。
若い頃は恥ずかしい、情けないと思っていたろうか?
いや、世間の手前、恥ずかしいふり、情けないふりをしていただけか。
ただ、悔しい気持ちはある。
自分でも恋愛はできたのではないか。
やっておくべきだったのではないか。
明らかな恋愛経験、デートやラブレター、プレゼントなどの経験はない。
ただ、「恋の思い出」らしきものならある。
小学生の頃だ。
仲の良い女の子がいた。
小柄で華奢な体型の女の子。
顔もほっそりしていて、目鼻も小さく、やさしい顔立ちをしていた。
自分にやさしくしてくれたのはその子ぐらいだった。
その子は私のことを「コンニャクみたいな男の子」と言った。
私は彼女のことを「玉子みたいに可愛い子」と言った。
担任の先生は「おでんじゃないか」と笑った。
先生は微笑ましいかカップル。
恋の芽生えとでも思ったかもしれない。
だが、私には自分の言葉の意味がまったくわかっていなかったのだ。
ただ、雰囲気に流されて、それらしい言葉を口にしただけ。
彼女との再会はまったく偶然だった。
十数年後、東京の街角で。
私は当時大学を中退し、某新興宗教団体に所属していた。
奉仕活動の一環としてビラ配りをしていたところ、彼女と再会した。
彼女は驚くほど変わっていなかった。
彼女は再会の喜びを表現した後、
私の手にしたビラの束を怪訝そうに見て
「○○さん、バイト?」と尋ねた。
私はモゴモゴと否定の言葉を発した。
ビラを手渡そうとはしなかった。
それがよくないものだとわかっていたのだ。
彼女はなにかを感じたのか無言で立ち去った。
彼女とはその後会っていない。
いまだに悔やむ。
なぜ、せめて彼女の連絡先を聞いておかなかったのか。
(私の連絡先を教えることはできなかった。当時宗教団体の寮にいたし、携帯もない時代だった)
いや、そのとき彼女とともに立ち去ってもよかったのだ。
結局その後逃亡することになった。
あのとき、彼女と行動を共にしていたら、その後どうなっていただろう。