2003年8月28日の天声人語から引用します。
だれがつくったのかわからない一編の短い詩が欧米や日本で静かに広がっている。愛する人を亡くした人が読んで涙し、また慰めを得る。そんな詩である。
英国では95年、BBCが放送して大きな反響を呼んだ。アイルランド共和軍(IRA)のテロで亡くなった24歳の青年が「ぼくが死んだときに開封してください」と両親に託していた封筒に、その詩が残されていた。
米国では去年の9月11日、前年の同時多発テロで亡くなった父親をしのんで11歳の少女が朗読した。米紙によるとすでに77年、映画監督ハワード・ホークスの葬儀で俳優のジョン・ウェインが朗読したという。87年、女優マリリン・モンローの25回忌にも朗読されたらしい。
日本では、95年に『あとに残された人へ 1000の風』(三五館)として出版された。最近では、作家で作詞・作曲家の新井満さんが曲をつけて、自分で歌うCD「千の風になって」を制作した。私家盤で、友人らに配っている。新井訳の1、2番を紹介する。
「私のお墓の前で 泣かないでください/そこに私はいません 眠ってなんかいません/千の風に/千の風になって/あの大きな空を/吹きわたっています」「秋には光になって 畑にふりそそぐ/冬はダイヤのように きらめく雪になる/朝は鳥になって あなたを目覚めさせる/夜は星になって あなたを見守る」
作者をめぐっては、19世紀末、米国に渡った英国人、30年代の米国人、米国先住民の伝承など諸説ある。いつどこで生まれたのかわからない、風のような詩だ。
自分は自分一人では生きていけず、もちろん存在もできないのです。
先祖代々、多くの命があったからこそ、今の自分がいます。
自分の命は限られていますが、生命は続いています。そんな連続性のなかに、今の自分が存在しています。
自分だけではない、人の命の尊さを、この詩は教えてくれています。
1000の風
この詩を自分の大切な人から、亡くなった時に受け取ったとしたら。
今日、こうして自分にこんなことを考えさせてくれたことに感謝します。