リクルートの入社式は、驚くべきことに日本武道館で開かれました。
全国でどれだけの新入社員がいたのかは知りませんが、会場はほぼ満員でした。
そのあと近くのホテルに移動して、大広間でパーティーが行われました。
江副社長(当時)のスピーチが終わり、壇上から降りてきたときに、私は自分の目を疑うシーンを見たの
でした。
何と十名以上の新入社員が江副社長を取り囲み、胴上げを始めたのでした。
(これは新興宗教の教祖みたいだな)と私は思いました。
私は入社前に、リクルートの事業内容は頭に入れていましたが、企業風土はよく知りませんでした。
なので、胴上げの光景を見て、もしかしたら私はやばい会社に入ってしまったのかもしれないという一抹
の不安が頭をよぎりました。
その後、当時マラソンで有名だった金哲彦選手と挨拶をかわしました。
自分も在日なんですと興奮気味に話したことをよく覚えています。
その後、東京近郊で、1週間ほど座学中心の新人研修を行いました。
いつ辞令をもらったかは忘れましたが、私の部署は大阪支社関西情報ネットワーク部であることはわか
っていました。
しかしどの課になるのかは、大阪での研修が終わってから決まるとのことでした。
大阪での新人研修も前半は私たち技術系と営業系が一緒に座学を行いました。
しかし、後半は「コンピュータ用メガネ販売キャンペーン」というものでした。
個々人には大阪市内の各地域を決められ、その中にある会社に飛び込み営業をかけ、コンピュータ用
メガネを販売するというもので、メガネが売れなくてもその会社の高い役職者の名刺をもらえればポイン
トが加算されるという地獄のようなイベントでした。
特に技術として入社している私たちにとっては、なぜ飛び込み営業をしなければならないのかが合点が
いきませんでした。
生まれてから営業すらしたことがなかった上に、飛び込みというので、当然尻込みしてしまいました。
さらにそのイベントを2日間にかけて行うというのですから、やる前から嫌でたまりませんでした。
イベント1日目。
一人ですので怠けようと思えば、できないことはないのですが、せめて名刺くらいは持って帰らないと先
輩から怒られると思いました。
ですからもうダメもとで、やるしかないと腹をくくりました。
「リクルートの姜と申します。ただいま新人研修の一環として、コンピュータ用メガネの販売を行っていま
す。もしよろしければ一度メガネを見てもらえないでしょうか?」
この文句をこれだと思った会社の窓口でしゃべって回りました。
「リクルートさんもこんなこと、よく新人にさせるもんやね」という好意的な反応もあれば、「今忙しいから
帰って帰って」という冷たい反応もありました。
メガネに何の興味も持ってもらえなくても、何とか上役の名刺をゲットせねばということで、「課長さんや
部長さんの名刺をいただくわけにはいきませんでしょうか?」という無理なお願いもしました。
1日目がやっと終わりましたが、メガネに興味すら持ってもらうことができませんでしたし、下っ端の人の
名刺しかもらえませんでした。
2日目もめげずに頑張って会社に飛び込んでいきましたが、やはりうまくいきませんでした。
昼過ぎに、珍味を販売している会社に飛び込みました。
その時に出てきた年配の方が、何とメガネに興味を持ってくれたのでした。
「○○さん、ちょっと来て。これコンピュータ用のメガネだって。一度試してみたら?」と言ってくれたので
した。
呼ばれた事務の女性が私からメガネを受け取って、コンピュータの席に座って見え具合を確かめていま
した。
「課長、この眼鏡をかけると、少し見え方がソフトな感じです」と言うじゃありませんか。
私の心の中には(これはもしかして!)という思いが急速に広がりました。
課長さんは、私に「君、これいくら?」と尋ねてきました。
私は「2000円のところ、特別に1500円にさせてもらいます」と言いました。
すると課長さんは、「よし、買ってあげよう」と言ってくれたのでした。
ガッツポーズをとりながら、その会社を後にし、近くの公衆電話から会社に「メガネ売れました」という報告を
したのでした。
結局、その後は名刺を獲得するのがやっとで、会社へと戻りました。
オフィスのフロアに入ると、「姜君、メガネ売上おめでとう!」と書かれた大きな黄色の短冊が、天井から垂
れ下がっていました。
私はそれを見て、(うわっ!体育会系!)と思ったのでした。
















