脳梗塞や脳出血の患者さんの中で一番辛いのは、「利き手が痲痺」して使えなくなることだと考えられています。先ず困るのが食事。箸を使うことが出来ないからです。
私は食事介助を受けながら、箸を使うような難しい・細かな動きの訓練を早期に始めるべきだと考えます。しかし「無理に箸を使う必要は無い」と考えるリハビリテーション医療関係者が多いようです。
・食べられれば箸ではなくて、フォークでもスプーンでも良いのではないか。
・食事は箸で食べなければならない、なんて法律も無い。
・自分に合った道具を見つけ出し、食事時間を愉しめばいいのだ。
・それは決してみっとも無い事でも、恥ずかしい事でもない。
・生活を楽しんで生きられる方が、ずっと大切だ。
私にはこのような考えは理解できません。しかし、もっと理解できないのは「利き手を諦めて利き手交換をすべきである」と主張することです。
利き手が痲痺した患者も、リハビリで元に戻りたいはずです。箸を使いたいはずです。でも空腹には耐えられない。だから、左手でも痲痺の右手でもいい、スプーンでも何でも良いから食べようとするのだと思います。だとすれば「手づかみで食事」させれば良いのです。
施設や病院や自宅だけで暮らすのならそれで良いかもしれません。しかし、社会復帰するためには、健常者に出来るだけ近づく方が良いのです。
私達には生きた手があるのです。ただ動かせないだけなのです。この手を見捨てることは出来ないのです。
私は利き手ではない左手が痲痺しましたから、ある意味では楽だったかもしれません。それは食事だけではなく、日常生活の殆どが右手だけの片手動作で可能だったからです。
しかし、そのために痲痺の左手の訓練が疎かになる危険性があったのです。私だけではなく療法士にもです。
現実に、退院後も左手痲痺で使えない人も多数おられます。日常生活は、右手の片手動作です。
右手痲痺の人は利き手交換で左手の片手動作で日常生活を送る人が多い。
つまり左右どちらの手が痲痺しても、両手を使えるようになる人は少ないと言うことです。
リハビリテーション医療には、痲痺手を回復させるノーハウは無いのでしょうか。
そんなことはありません。
早期から、痲痺手を訓練したり訓練させれば、ある程度は動くようになるのです。
あとは実際の生活で、昔のように両手を使うようにさせるのです。それが回復期リハビリテーション病棟の存在意義のはずです。病棟そのものが日常生活の場なのですから。
退院後は、自宅や外の世界で「両手使い」を実践することで、発病前に出来るだけ近づけるのが退院後のリハビリテーションです。
回復期リハビリテーション病棟では、杖が必要でも歩けるように指導する。
ある程度手が動くようになれば、退院後は実生活で腕を磨く指導を行う。
これが麻痺手のリハビリテーションではないでしょうか。