第56話 空耳
ある時、團室に時の團長の同級生が訪ねて参りました。幹部席に通され、学食からコーヒーの出前を取り寄せ、歓談に耽っております。
この同級生氏、学ランとジャージ、後は羽織袴しか衣料がない團室の中にあって、かなり洒落た服装をしておりまして、私服には興味がない團員でさえ「お洒落な人やなあ」と恐れ入っている始末であります。後で知ったところによれば、商社系の関西財閥の御子息とのことで、團員一同、得心致しておりました。
さて、二人の会話はどうも今度、共通の知り合いを訪ねる相談をしている流れでありまして、日程調整に話が進んでおります。
「お前は来週水曜日は何処におる予定や?」
と團長が同級生氏に尋ねると
「その日はサイパンやわ」
と答えます。実は同級生氏は趣味であるスキューバダイビングに凝っておりまして、大学でもサークルを結成し、同好の士を集め活動していたのであります。
「ほお、それは奇遇や。ワシも来週の火曜がサイパンやねん」
と驚く團長。
「えっ!?團長も?結構、長いん?」
同級生氏もまさかのまさか、應援團長が同好の士と知り、キャリアを尋ねます。
「そうやなあ、最初から数えたらもう半年にもなるか、、、」
と指を折って歳月を数えます。

「お前は来週水曜日は何処におる予定や?」
と團長が同級生氏に尋ねると
「その日はサイパンやわ」
と答えます。実は同級生氏は趣味であるスキューバダイビングに凝っておりまして、大学でもサークルを結成し、同好の士を集め活動していたのであります。
「ほお、それは奇遇や。ワシも来週の火曜がサイパンやねん」
と驚く團長。
「えっ!?團長も?結構、長いん?」
同級生氏もまさかのまさか、應援團長が同好の士と知り、キャリアを尋ねます。
「そうやなあ、最初から数えたらもう半年にもなるか、、、」
と指を折って歳月を数えます。

益々、驚く同級生氏。幹部やお客様の飲み物やタバコ等のお世話をすべく、傍らで侍っております下級生團員も、無表情が良しとされているのですが、この時ばかりは驚いた表情をしております。
ところが
「ふーん、水曜日か、、、神戸?大阪?」
と意図を掴みかねる質問を團長が発したところから話はおかしな方向へ向かいます。まだ関西国際空港も神戸空港もない当時、関西の空の玄関口は伊丹の一択であります。しかも神戸と大阪の中間に位置する伊丹を、大阪とか神戸とか呼ぶ習慣はありません。
「ふーん、水曜日か、、、神戸?大阪?」
と意図を掴みかねる質問を團長が発したところから話はおかしな方向へ向かいます。まだ関西国際空港も神戸空港もない当時、関西の空の玄関口は伊丹の一択であります。しかも神戸と大阪の中間に位置する伊丹を、大阪とか神戸とか呼ぶ習慣はありません。
同級生氏も何とか意図を掴もうと思い
「うん、伊丹やわ」
と答えると、團長の表情が俄かに曇り
「何や、カサイか、、、」
「うん、伊丹やわ」
と答えると、團長の表情が俄かに曇り
「何や、カサイか、、、」
などと呟いたりしております。カサイ??神戸市の西に明石市を挟んで加古川市、高砂市がありその北方に加西市があります。その海もない加西とダイビングが何の関係があるのだろうとその場にいる誰もが理解不能に陥りました。
何と團長氏、サイパンを裁判と聞き間違えていたのであります。やんごとなき事情で囚われの身になっていたOB先輩の裁判の傍聴に神戸地方裁判所に通っておりまして、判決次第によっては大阪高等裁判所に舞台が移るかも、という局面だったのでありまして、サイパンと聞き、真っ先にその事が頭に浮かんだという訳であります。
謎のカサイとは加西ではなく家裁、つまり家庭裁判所でありまして、伊丹市にある神戸家庭裁判所伊丹支部の事だと理解していたのであります。
團長がダイビングなんてなあ、と誰も口にはしないものの、そう思って笑いをこらえつつも胸を撫でおろしたことでありましょう。
甲南大學應援團OB会
八代目甲雄会広報委員会