第21話「良い返事にご用心」
かつての我が團では返事にお馴染みの「押忍」を使用しておりました。「おい、○○」と呼ばれれば「押忍」、「おーい、何か飲み物、買って来てくれー」と命じられれば「押忍」、何か指導を受けても返事は「押忍」、早い話、何でも発言の頭は「押忍」で始まるのであります。
たった二文字のこの返事でありますが、やはり個人差があります。オスのスの発音が歯から空気が漏れる様な感じでは、息と共に気合が抜けていく様でよろしくありません。また自分に都合の悪い事を問われ「オ~ス?」と疑問系になったり「オス…」と尻すぼみになったりするのは論外でありましょう。
しかし各学年には必ず胆にズシリと響くような「押忍!」で返事する者がおります。学内屈指の古い建物である学友会館の中の團室の壁にヒビが入るのでは?と思ってしまう程の響きなのであります。
意外ではありますが、こういう手合いに要注意人物が多いのであります。例えば團室で幹部が「おーい、1回生、誰かタバコを買って来てくれ」とお使いを頼んだとします。真っ先に元気な「押忍!」と共に立ち上がり、任務遂行に駆け出すのはこの手合いなのでございます。ところが程なくしますと、團室のドアの外の上級生からは見えない場所から同期を手招きし「○○先輩は何のタバコを吸ってはったっけ?」と買うべき物が分からないまま飛び出した事が忽ち露見するのであります。
またある時は合宿で「メシ、用意しとけ」との指示に、時間帯やシチュエーションを考えれば分かりそうなものではありますが、何故か宿舎の旅館の女将に頼み込んだ後、再び指示を出した上級生の部屋をノック、「押忍!大変、お待たせ致しました!」と恭しく捧げ持って来たのがミシンだったりするのであります。「このダボ!ワシが合宿先でミシンをコトコト踏むんか!」と雷を落とされる事になります。
もっともこの手合いは打たれ強さも兼ね備えている事が多く、後で同期に「あれは全自動タイプやからコトコト踏む必要はない筈なんやが…」と見当違いな疑問に苦しんでいたりするのであります。
良い返事は難事の兆候、さりとて毎回がこの調子という訳ではありませんので、上級生はいかに下級生に目を配り、各人の適性をしっかり把握する事が如何に大切かという事でありましょう。やはり應援團に限らず返事は良いに越したはありません。
八代目甲南大學應援團OB会広報委員会