朝食を終えるとー
いつものようにお手伝いさんたちへ「Em đi đây」(行ってきます)と
声をかけ、バンに乗り込んだ。
バンはいつものようにバイクの群れに紛れながら、
ホン・ハー通りを後にする。
窓の外には、少しずつ見慣れてきたホーチミンの景色が流れていく。
その風景に、昨日トゥイちゃんと一緒に走ったときの光景が重なった。

タントアン工場ー
“Is Kitazawa-san off today?”
“Hôm nay anh Kitazawa có nghỉ không?”
工場に着くと、北沢さんが来ていないことで、
エンジニアからワーカーまで、あちこちから質問攻めにあった。
みんな、本気で北沢さんのことを心配しているらしい。
もちろん当の本人は、飲み屋のお姉さんと食事に行ったせいで腹を壊し、
今日は寝込んで休んでいる。
それにしても、ちょっとだけうらやましかった。
僕より半年早くベトナム工場に来ただけで、
こんなにみんなに気にかけてもらえるなんて。
ついでに、僕が髪を切ったことにも妙に反応されたけれど……。
工場長「後藤君、今月と来月のオーダー表だ」
後藤:……はい、ありがとうございます。
(そ、そうだ。早く仕事で“関心”…いや、“感心”してもらえるように頑張らなくちゃ)
僕はオーダー表を受け取ると、
そのままエンジニアたちと生産計画を立てるために関連メンバーを集め始めた。
ちょうどそのとき――
Tú「Mr. Gotou! Are you free tonight?」
トゥさんが声をかけてきた。
Tú「We’d like to have a welcome party for you tonight. OK?」
どうやら今夜、トゥさんのグループが僕の歓迎会を開いてくれるらしい。
これは素直にうれしかった。
正直、日本人スタッフに歓迎されるより、現地スタッフに歓迎されるほうが
何倍もうれしい。
後藤:……Yes, OK!
週明けの月曜からってどうなんだろう――と一瞬は思ったけれど、
今夜もその先も特に予定はない。
だから気持ちよく引き受けた。
後藤:あ、トゥさんさん、ちょっと、あの工場長に、、え~と、許可を…I'll go… tell the factory manager …and get the dinner canceled and …approved.
Tú「…I want you to really enjoy some delicious Vietnamese food.」
後藤:ベトナムズフード?
Tú「Yes, very, very delicious!」
その瞬間、腹痛で休んでいる北沢さんの顔が頭をよぎった。
(帰りに総務のタムさんから薬、もらっておかないとな。正露丸あるかな…)
こう見えて、僕の胃袋はけっこうデリケートなのだ。
