とにかく、目の前に次々と運ばれてくる料理は、
どれも僕にとって初体験――

いや、初挑戦のものばかりだった。


今まで食べてきたベトナム料理とはまったく違う。
ここには、もう一つのローカルなベトナム料理があるのだ。
おいしいものもあれば、正直ちょっと微妙なものもある……。
それよりも、ここに集まってくれた18名みんなの、屈託のない笑顔。
料理はともかく、みんなのあたたかな気持ちで僕は満腹だった。

そう――

あれからどれくらい時間が過ぎたのだろう。
……覚えていない。


ブルルルルル……。
カブの音。まぶしいほどに照りつける朝日。
――気づけば翌朝になっていた。

歓迎会が終わったあとの記憶が、まったくない。
いったいどれだけ飲んだんだ。

頭が痛い。

……たしか、ふらついた足で店を出たんだよなぁ。
いや、それさえ覚えてない。

ベトナムビールを水みたいな感覚で飲んでしまったのがいけなかった。
意外どころか、かなりアルコールが回って…
そういえば……

トイレに向かう途中、総務のタムさんが心配そうに声をかけてくれた。


Tâm「All right?」(だいじょうぶ?)
後藤:……だいじょうぶ、だいじょうぶ〜。
あれ、タムさんも来てたんだっけ?
総務の子たちも途中から僕の歓迎会に参加してくれたんだ。


Tâm「All right?… Mr. Gotou… ダイジョウブデスカ?」


後藤:……やさしいね、タムさん。心配してくれて。
……ベトナムの人って、ほんと、みんなやさしいなぁ……。


Tâm「Ha……?」


後藤:……ハハ……やばいな、ちょっと飲みすぎたみたいだ。
……ん? なんか、いい匂いがしてきたね。


――ん?!
そうだ。あのとき、急に眠気と酔いがドッと襲ってきたんだ。
今、思い出してきた。


えっ?
……ってことは、寮に戻った記憶がない!


Tâm「All right?… Mr. Gotou…」


……オール・ライト?
……!!


Tâm「Good morning, Mr. Gotou…」


後藤:……タ、タムさん!?
ど、どうして……ホワイ……?


Tâm「What’s say…?」


……あ、やばい。
どうやら僕、タムさんの家にお邪魔してしまったらしい。
そうだ……歓迎会のあと、トゥさんたちと一緒に――
いや、待て。
覚えてない。ほんとに記憶がない。


つまり……タムさんの家で、そのまま寝込んじゃったってことか。


オール・ライトどころじゃない。
オール・ナイトになってしまった。


……まずい!!


   Chào anh…!(おはよう…!)


……はぁ?


Tâm「My mother… My father…」

 


タムさんが家族を紹介してくれている。
そこには、ベトナムの朝の香りをまとった台所があって、
お母さんとタオさんが朝食の準備をしながら、
不思議そうにこちらを見つめていた。