ノットヘブンジャム? Ⅵ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。









『ずっと? 長いな。蛇みてえだな。飽きねえ?』



あきれ顔で―けれど少々楽しそうに―つぶやいた、広峰蒼の言葉を思い出し。

―確かに、昼夜問わずずっと抱き合って絡み合ってたんだから、言い得て妙だよな。でも生卵丸飲みって…、広峰、あんたは、つくづくいいセンスしてるよ、

と。自分達二人を、長い時間をかけて交わる蛇に例えた同期の言葉の選択に、素直に納得しながら吹き出し。次に。

"会社"に電話をかけて、ワザワザ広峰蒼に部屋の様子を見に来させた、山下ヒナ―恋人・吉乃夏美の親友であり、かつ、彼女に深く心酔し長い間片想いしている、見た目可愛らしい肉食小動物―の真意を想像する。

おそらく、彼女は。

自身が、吉乃夏美に与えた情報―災いの種―によって、危険極まりない事態―、つまり痴情のもつれによる惨劇―無理心中でも呼び起こしてしまったのではないか、と危惧したに違いない。

なぜなら、彼女が吉乃夏美に与えた情報は。半分嘘であり、半分真実であったからだ。



『私、この前見たの。友達と歩いてたら、たまたま、週末の金曜日に、圭樹さんが女の子と二人で腕組んで街、歩いてるの。
仲良さそうに、腕組んで。もたれあって。女の子…、遠目だったから顔までよく見れなかったけど、全然背が高くなくて。髪、短くて。ポッチャリしてて。なんか、なっちゃんと正反対の感じの子だった。
楽しそうに笑いながらビジネスホテルっぽいとこに入ってって、それからは、―、分かんない。どうなったのか。私も見張ってたワケじゃないから。
でも、あの親しげな感じ。仲のいいカップルにしか見えなかった―』




確かに、女の子と二人並んで歩いた。しかし、それは"会社"の社員で。しかも、彼女の"昇格試験"としての仕事のサポートで。それに相手は、女の子、ではない。パッと見、若く見えるが、小さな孫のいる妙齢の立派な女性だったのである。

数日前。吉乃夏美の疑念の始まりとなり、また彼女を悩ませる原因の一つとなった、圭樹春海の"仕事"の正体―彼が勤める"会社"は。

実のところ、社会の隠れた悪を―アンダーな世界からの告発や依頼により―"罰する"=殺人を業務業態―商売―ビジネスとしている、ワールドワイドな規模で繁盛している"会社"で。ちなみに、圭樹春海と吉乃夏美の部屋にある冷蔵庫に保管されているおびただしいばかりの数のストロベリージャムは、彼が"仕事"をこなした数だけ蓄えられてきたモノなのである。

話を元に戻そう。

腕を組んで歩いていた、この女性"社員"と圭樹春海は。ターゲットが潜むビジネスホテルに潜入しやすいよう、カップルを装おっていただけに過ぎず。彼女が演技のため、少し顔を寄せてきた瞬間があったから、ワイシャツにリップが触れたのは、この時だったのかもしれない。

残念な事に。このおり、彼女の"任務"は、失敗したが。つい先日の金曜日。圭樹春海のサポートもあり、つつがなく完了した。

ターゲットは指名手配中の大量殺人犯。数年間、姿形を変えながら、殺人の凶行を続けていた残虐な男。"告発"により、圭樹春海らの"会社"から念入りに調査され、罪を認定されたのだ。




"…行…明なんだって。十以上を数…渡って差別…てた容…、ってメチャクチャ…、じゃん"



"…逃亡中の指名手配犯がまだ逃げてて行方不明なんだって。十人以上を数年に渡って無差別に殺した容疑…、ってメチャクチャ凶悪犯じゃん"




同日―金曜日の夜。何気に圭樹春海が、テレビから流れるニュースに耳を傾けながら、吉乃夏美に語って聞かせていた犯罪者の話は、実はその男の事で。彼は"目には目を、歯には歯を"―自身が犯した罪に酷似した行為で粛清される―古代の法典の罰則通り、"処理"された。

よって、ニュースにあったように、彼が行方不明なのは。逃亡した事による結果論ではなく、その日の午後、―懸命に(欠勤して部屋で休んでいた吉乃夏美に、連絡や見舞いの電話が出来なくなるほど)動き続けた圭樹春海らの働きにより"処理"されて行方不明―この世界から、いなくなったためだ。

タンをカットされた死体は今頃、海中深く沈み。その内腐乱死体として、体内にたまったガスの浮力で一通の―胸元に携帯した瓶に詰められた―"罪を悔いた自殺の遺書"ともども浮上してくる。"会社"によって調査し尽くされた男の過去、人格、トラウマ等から推測される犯罪への動機―赤裸々な内面―が書かれていて。いずれ、内容は世間にそこはかとなくもれ、死してなお、面白おかしく暴かれる。その時こそが、この殺人者―罪の蛮行を自ら悔い改めようとしなかった救いようのない男―の本当の"終わり"―社会的制裁による断罪―の始まりである。

ところで。凶悪なターゲットを仕留めた事により、女性社員は来月から課長になる。彼女をサポートした圭樹春海も、働きを認められ、ほどなくして係長への昇格試験を受ける予定だ。

春から初夏にかけては昇格人事が、世間のどこでも頻繁に行われているのかもしれない。

さて、山下ヒナだが。

彼女の恐ろしさの"真骨頂"は、その、見たままの真実と推測の嘘を絶妙に織り混ぜて、本当の事としてもっともらしく触れ回るところにある。

全くの嘘なら、とことん否定して相手にしなければいい。真実ならば、これまた事実なのでそれに基づいて作戦や言い訳を考えればいい。

けれど、嘘と真実が織り混ぜられていては、対処のしようがない。何が嘘で何が真実が分からなくなるため、話に説得力がなくなってしまうのだ。

彼女は圭樹春海が女と連れ立って歩く姿を目撃し、ここぞとばかり、汚点と思われた部分を吉乃夏美に―吹き込んだ―進言したに違いない。それによって二人の間に、疑惑と言い争いが起き、(彼女にとって)最上の結果として別れればいい、とまで考えていたのは明白だ。

夫婦漫才だの、仲が良くていつもシンクロしてる二人だよね、などと羨みながらも。いつだって、その二人が別れるのを、あの小動物は―自称ドM、その実ドSの圭樹春海同様―肉食獣のごとき鋭い視線で見つめ、狙っているのである。

現に。吉乃夏美は、山下ヒナの忠告―"進言"を聞いて愛情が曲がり、冷静さがブレた。ブレて青ざめた。

だが、山下ヒナの誤算は。愛してやまない片想いの相手、吉乃夏美が。恋人である圭樹春海を山下ヒナが推測する以上に愛し、必要としていた事実で。

だから。山下ヒナの"進言"を聞いて、吉乃夏美は絶望した。愛されている自信を失い、代わりに疑心暗鬼となり弱り、熱を出して、体調を崩した。体調を崩して会社を休んだ。

そんな裏事情を知らなかった圭樹春海は。吉乃夏美からの―彼女自身、不調の理由が分からず、そう思い込もうとしていた―言葉通り、体調不良は連夜の英会話レッスンで疲れたから、ただの知恵熱だよ、との言い訳を聞き入れた。




『今夜は何を食べますか?』

『材料はあります。でも料理するのがダルいです』

『俺も』

『私も(me too)』

「…同じ答かあ。俺ら、どちらかが料理好きだったら、もっとナイスカップルになれるのに…。ねえ、吉乃さん?」

「圭樹くん、もっと教えて。圭樹くんの教えてくれる英会話レッスン、例文が日常的で笑えて楽しくて覚えやすい~…」

「―吉乃さん。今は日本語禁止タイムですよ? 要望も全部英語で言って下さい。小説なら、登場人物の吹き出しが英語『』、日本語「」に変わってるレベルだよ?」

「圭樹くんだって、さっきから日本語ばっかりのくせに―。ほら、今だって…、圭樹くん、明日も早く帰ってこられそうだったら、レッスンして―」




―って。よく笑って、頑張って発音して…。あんなに楽しそうにレッスンしてたのに。吉乃さん、ストレス感じてたのか、意外だな…、




などと不思議、かつ、わずかな寂しさも感じていたのだが。それは、やはり違っていて。

吉乃夏美の口から、彼女の不調の本当の理由を聞いて、圭樹春海はようやく納得出来た。

全ては、山下ヒナから受けた―進言―告げ口―嘘と真実が入り乱れた巧妙な密告―、それら全てのショックのあまりの出来事だったのである。








to be continued