ノットヘブンジャム? Ⅴ | 。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

。゜・アボカド・。゜の小説&写真ブログ アボカリン☆ のお団子ケーキティータイム♪

アボカド、お茶、藤井風ちゃん、書き物が好きです。お話(オリジナルの小説)、etc.書かせていただいています☆お団子やクッキー、ケーキ片手にお読みいただければ、幸いです。








一瞬、とても優しく目尻をゆるめて笑った後、真顔になって、腕に力を込め直した圭樹春海と。

ソファからずり落ち、上下入れ替わりながら、抱き合ったまま。吉乃夏美との―二人は寝室に転がり込み。真っ暗闇の中。

雨だれと。無秩序な感情の波に溺れるように。抱擁を重ねた。










時間は経ち。

日曜日、午前。

降り続ける雨の中。圭樹春海の携帯電話と自室のインターフォンが同時に鳴り響き。

玄関ドアを開けると。

そこにいたのは、いかにも勤務中と言う風貌の長身の男―オーダーメイドの青みがかったグレーのスーツに着心地の良さそうなワイシャツ、ネクタイはクールビズ仕様の同期の出世頭―、広峰蒼で。彼はいつもならば余裕しゃくしゃくの優男な笑顔を、今日に限って引きつらせ。

自身とは対照的な―裸の上半身に、とりあえずその辺りにあったクシャクシャのシャツを引っ掛け、慌ててはいたらしいくたびれたスウェットを身につけただけの―ボサボサ頭、黒縁眼鏡のレンズも指紋や埃がつきっぱなしの―だらしない姿で出てきた圭樹春海を、ため息混じりに見つめ。

悪態をつく。

「何だ、お前? そのルーズなヒデえカッコ。ヒゲも剃らねえで、ボーボーじゃねえか?」

「ずっと家にいたから。外出してないからさ。身だしなみに気を使う必要ねえだろ?」

「"会社"から急な呼び出しがあったら、どうすんだ?」

「仕事用の携帯は、今みたいにちゃんとチェックしてるから。突然呼ばれたって慌てず騒がず、キッチリ用意していくさ」

「…とにかく。いついかなる時でも対応出来るように、しとけ。お前はだらしなくても気にならないんだろうが、夏美ちゃんが嫌がるだろ? 彼女は清潔好きなんだから。つか、彼女ここにいるのか?」

「いるよ。寝てるけど」

確かめさせてもらうぞ、と広峰蒼が靴を脱ぐのももどかしげに、部屋の中に押し入り。

遠慮もなく、二人の寝室のドアを開けた数秒後。

申し訳なさげに、すぐにドアを閉める。

その様子を後ろからついてきて眺めていた圭樹春海が、クスクスと笑った。

「どした、広峰? 何か確かめに入ってきたんじゃねえの? もういいのか?」

「いい。もう済んだ」

「…ゆっくり見ればいいのに」

「他人(ひと)の女がベッドで全裸になって寝てる姿見ても、つまらんだけだ。お前ら何日部屋にこもってヤってんだ?」

「金曜日の夜から」

同期の答を聞いて。ハハッ、と広峰蒼が思わず口元をゆるませて苦笑する。

「ずっと? 長いな。蛇みてえだな。飽きねえ?」

それに対し。うん。飽きないねえ、と。圭樹春海が即答する。

「好きなんだよ、俺。アレも夏美(女)も。それに、ケンカの後だったし」

「―なるほど、燃えるよな。それは分かるわ。
でも、たまには、健全に外でデートしろよ。映画観るとか、ショッピングとか」

「健全じゃん。雨が降る日は、外で濡れずに部屋で営む。カップルのあるべき姿じゃね?」

「…夏美ちゃんの友達に山下ヒナって子、いるだろ? あの子から"会社"に電話があって。夏美ちゃんの携帯が繋がらない、お前の携帯も。社宅のエントランスからお前の部屋を呼び出しても応答がない。土日は管理人も休日でいないから、誰にも訊ねる事が出来ない。
二人に何かあったんじゃないか、って心配して、たまらず夏美ちゃんから教えてもらってたホームページ見て、―警察に電話したら大騒ぎになるから、とりあえず"会社"―公表されてる、代表番号な―に連絡してきたらしい」

「そう言えば、何か部屋の呼び出し音が鳴ってたよーな…。気のせいかな、って無視ってた。私用の携帯の充電、忘れてたから、繋がんなかったんだな」

「ひどく心配してたらしいぞ。で、仕方なく、室長のお供で休日出勤してた俺が、様子を見に来た、ってワケだ」

「心配、ね…、ドSの小動物が。災いの種をまいといて何言ってんだか」

「んっ? 何か言ったか?」

「別に。それより、広峰? もう帰る? 帰るんなら、その前にメシ作って。材料は卵とか肉とか野菜あんだけど、すぐに食えるレトルトが病人食しかないから、俺、腹が減って腹が減って…」

…何で俺がお前のメシを作らなきゃなんねんだよ? お前ら蛇みたいなんだから、生卵丸飲みするか、配達でも頼めよ。私用携帯の充電が切れてるから、電話が出来ない、だって? まあ、いいよ、妙な展開になってなかったから安心したし。とりあえずメシはどっかの店に配達させるよ、と広峰蒼は苦笑いし。

最後に、「明日…、月曜日はちゃんと出勤しろよ。お前ら見てると、休みの日まで働いてんのが、情けなくなるわ」と。

部屋を後にして帰る。

それを見送り、寝室に戻り。怠惰な容貌―うつぶせの全裸―で眠っている吉乃夏美にシーツをかけようとした時。

ふと消えかけていた欲情の種火が、くすぶり始めるのを覚え。恋人の、その背中の白い肌に顔を寄せ、軽く唇を吸い付かせ、ツッ…と、舌を這わせると。



『ずっと? 長いな。蛇みてえだな。飽きねえ?』



あきれ顔で―けれど少々楽しそうに―つぶやいた、広峰蒼の言葉を思い出し。

―確かに、昼夜問わずずっと抱き合って絡み合ってたんだから、言い得て妙だよな。でも生卵丸飲みって…、広峰、あんたは、つくづくいいセンスしてるよ、と。

自分達二人を、長い時間をかけて交わる蛇に例えた同期の言葉の選択に、素直に納得しながら吹き出し。

次に。"会社"に電話をかけて、ワザワザ広峰蒼に部屋の様子を見に来させた、山下ヒナ―恋人・吉乃夏美の親友であり、かつ、彼女に深く心酔し長い間片想いしている、見た目可愛らしい肉食小動物―の真意を想像する。










to be continued