母さまの選んだ羽織袴は島の海と空を
描いた青地に金の龍の刺繍が施された
煌びやかなもので僕は気恥ずかしい思いがした
10歳になるというのはそんなに大そうなことか
他の友人たちの誰も10になるといって騒いだりはしていない
僕だけにそんなめでたいことがあろうか
郷の人々も祭りの時の衣装を着たり楽器を持って集まって来ている
すでに舞い始めている者らも庭にいるようだ
「お客人たちも中央の間にお揃いですって
さあキフネ、参りましょ」
母さまに背を押されて少しばかり着飾った見目の良い女中2人を背後に従えるように僕と母さまはいつもはセンジュ様の相談の間として使われている中央の座敷に向かって渡り廊を進んだ
途中、庭のあちらこちらに郷の人たちがいて
"おめでとうございます"とか"ご立派です"とか
手を叩いたり振ったりしながら声をかけてくれた
顔見知りではない人が多かったので控えめに手を振り返して応えていたが、母さまが「いちいちよろしい、座敷にお待ちのお客様たちにしっかりご挨拶すればよいの」と何度も肩を押されて急がされた
庭に集まってくれた人々もお客人と思ったのに母さまには違うらしい
おそらく座敷に上がって頂いているのは母さまが招待した郷では名家となる家の方々だろう