キクチの肩が冷えていないかと

薄掛けの上から両手で抱くようにさすった


少し熱いようにも感じる 幼い弟をそのまま抱き抱えるつもりが


キクチは今度は僕の腕を避けるように横を向き

しゃくりあげを必死で抑えようとしている


咳が漏れないように自分の腕で口を覆っていた


「どれほどの喧嘩をしたのだ?タケリと」


「けんかじゃない 母さまと兄さまに僕は

 ついて行けないと言われただけ」


背けているキクチの目の端から涙が溢れ出るのが見えた


「タケリは…

 イエン家に行くことになったのか?」

「母さまがタケリ兄だけを連れて

 イエンに帰るんだ

   僕は…いらないんだ」


そんなはずはない


イトナ様はむしろ身体の弱いキクチの方に

いつも心をくだいている


本当にキクチだけを手放すというなら

それだけの事情があるに違いない


「母さまには何かお考えがあるのだ 心配ない

 こんな所で泣いてるだけでは

 何も知れはしないぞ  


 今日はもう遅いがイトナ様のお考えは

 必ず僕も聞いておこう


 とにかく今は部屋へ戻ろう 

 今日は中央の方にいつものお医者様も来ていて

 おまえのことを心配してたのだぞ


 とにかく戻ろう」


キクチはアヘキの発作を起こしてしまうと本当に死んでしまうのではないかと思うほどの苦しみを見せる 最近はそんなことはないが

今もそれ程には見えないけれど早く母親の元へ戻らせなければと思った

イトナ様は発作が起きた場合のことを心得ておいでだから


なおもキクチは屋敷に戻るのを嫌そうにしていたが僕が肩を抱き抱えて立たせると おずおずと歩を進めた


「タケリ兄は将来キフネ兄さまの助役と

 なるためにイエンで鍛錬して千壽家で

 勉強して立派な助役になるんだって


 センジュ様とイジリ伯父のように

 いっしょに力を合わせて郷のための仕事を

 するんだって


 それは僕には無理なことだから

 タケリ兄とは一緒に行けないんだ」


キクチはまたも泣き出して歩みを止めてしまう


「なにを言ってる

 おまえはまだ小さいんだからタケリのように

 後々のことを決められてなくても

 仕方がないじゃないか

 

 タケリが決めることでもない

 

 あいつの言うことは気にするな

 あいつは自分の将来の考えを言っただけだ」


僕はもうキクチを抱きかかえて半ば引きずるように入側縁に向かった


タケリは座敷の中へ隠れてしまったようで

イトナ様だけが両腕を伸ばして待っていた


イトナ様はキクチを抱き留め

僕に何度も頷いてみせている


その目に涙が溢れているのが薄闇の中でもわかった