ベンチャー・キャピタリストの困難で楽しい毎日 -5ページ目

3月15日に光文社新書様から「宇宙ベンチャーの時代 -経営の視点で読む宇宙開発-」を出版します。

 3月15日に光文社新書様から「宇宙ベンチャーの時代 -経営の視点で読む宇宙開発-」を出版します。

 

 本書は2つの目的で書いています。

 

 宇宙ベンチャーの報道が増えていますが、一般の皆さんにとっては未だに半信半疑なことと思われます。皆さんが抱く素朴な疑問に一定の答えを出すのが、本書の目的の一つ目です。

 

 二つ目の目的は、なぜ米国において民間宇宙産業が急に立ち現れたのか、その理由を探ることです。

 

 本社は、JAXAエンジニアの後藤大亮氏と共著で執筆中です。私も彼も、文系理系のあらゆる分野に興味を持ち、これまで世界の宇宙開発、なかでも宇宙ベンチャーの活躍に対して熱い議論を戦わせてきました。本書はこの熱い議論がベースになっています。

 

 副題にあるように、宇宙開発を経営視点から見つめた本です。例えば第七章では、ド赤字の宇宙ベンチャーに対してなぜ高い株価が付くのかについて、証券市場論のフレームワークを利用して簡易な算式を使いながら解説したつもりですので、本書に挙げられた事象について既に十分な知識をお待ちの理系の方でも新鮮な気持ちでお読みいただけると思います。(第七章は、昨年に私がJAXAで行った内部講演の内容をベースに書きましたが、この講演は、JAXAのエンジニアの方々に新鮮に受け止めていただけたようです。)

 

 もちろん、「数式なんて一切お断り!」というコテコテの文系人の方にも、楽しんでお読みいただける内容にしたつもりです。

 

 乞うご期待!

ゼレンスキー演説を味わう

 

 

 2022年も間もなくゆく年となります。今年一年、私にとって最も鮮烈だった事件はロシア軍のウクライナ侵攻であり、最も印象深かった人物はゼレンスキー大統領でした。(2021年は、尊敬するメルケル首相でした。)

 

 芸能界から出て政治の頂点まで上り詰めた人物は何人もいますが、ロシアのような大国と対峙してここまで戦い得た人物は稀有でしょう。正直、ロシアの侵攻直前には、彼が早々に他国に亡命してしまうシナリオを私も想起していました。プーチン大統領も同じような想定をしていたのではないでしょうか。

 

 私の印象が最初に変わったのは、2022年2月25日、侵攻の翌日、閣僚たちとニュース映像に写った大統領が発した次の言葉からです。

 

“We are here” (私たちはここにいる。)

 

 単純な言葉でしたが、この時はじめて「この男は本当に戦おうとしている。」と強く印象付けられました。同時に、ウクライナの人々は、大統領が国にとどまって閣僚たちと戦おうとしている姿を見て、さぞかし安心したことだろうとも推察しました。

 

 ここから言葉の力で世界を巻き込み、大国ロシアをきりきり舞いさせる彼の戦いが始まりました。

 

 3月1日には欧州議会で次のように演説し、全員総立ちの拍手を浴びました。

 

"We have a desire to see our children alive. I think it's a fair one."

(私たちの子供たちが生きながらえる姿を見届けたいのです。これが不当な望みと言えましょうか。)

 

“Do prove that you are with us. Do prove that you will not let us go. Do prove that you are indeed Europeans, and then life will win over death. And light will win over darkness.”

(私たちと供にあることを証明してください。私たちを行かせないことを証明してください。あなたたちは真の欧州人であることを証明してください。そうすれば、生は死に打ち勝ち、光は闇に打ち勝つでしょう。)

 

 続く3月23日には、日本の国会にビデオメッセージを送りました。

 

 「皆様はチェルノブイリ原発のことを御存じかと思います。ウクライナにある原子力発電所で、1986年に大きな爆発事故が発生した所です。(中略)2月24日には、この土地をロシア軍の装甲車が通りました。そして、大気中に放射性物質の塵を巻き上げました。力によって、また武器によってチェルノブイリ原発は制圧されてしまったのです。」

 

 「両国間の距離は遠く離れていますが、ウクライナ人と日本人は似通った価値観を有しています。同じように温かい心を持っているため、実際には距離が存在しないのです。両国の協力及びロシアへの更なる圧力によって、我々は平和を達成するでしょう。」

 

 彼の演説は、国ごとの事情に配慮した話題を盛り込むのが常です。日本の場合も、被爆国であるからこそ感じつ危機感んに訴えています。

 

 そして、この12月、米国を電撃訪問した彼は、議会で一世一代の演説をぶち上げました。

 

”This battle is not only for the territory, for this or another part of Europe. The battle is not only for life, freedom and security of Ukrainians or any other nation which Russia attempts to conquer. This struggle will define in what world our children and grandchildren will live, and then their children and grandchildren.”

(この戦いは、領土のためだけではありません。この戦いは、ウクライナ人の生命や自由、安全のためだけでも、ロシアが征服を企てているほかの国々を守るためだけでもありません。私たちの子どもや孫、そしてその子孫が、これからどんな世界に生きていくかを決める戦いなのです。ウクライナとアメリカ、すべての人々にとって、民主主義が達成されるかどうかを、決める戦いなのです。)

 

”yesterday before coming here to Washington, D.C., I was at the front line in our Bakhmut.”

”Every inch of that land is soaked in blood; roaring guns sound every hour. Trenches in the Donbas change hands several times a day in fierce combat, and even hand fighting. But the Ukrainian Donbas stands.”

(皆さん、私はきのう、ワシントンへ出発する前に、バフムトの前線にいました。)

(土地のいたるところに血がしみこみ、絶え間なく銃声が響いています。厳しい戦闘の中、ドンバス地域の塹壕(ざんごう)は、1日の間に何回も、持ち主が(ウクライナとロシアとの間で)かわっています。)

 

”Your money is not charity. It’s an investment in the global security and democracy that we handle in the most responsible way.”

(皆さんの支援は慈善行為ではありません。私たちが最も責任ある方法で扱う、世界の安全保障と民主主義への投資なのです。)

 

 生々しい惨状を語りながら、米国をはじめとする先進国の価値観に訴える舌鋒は、すごぶる冴(さ)えていると感じました。

 

 そう、民主主義はおのずから成就するものではなく、努力して勝ち取り、努力して維持していかなければならないものです。そのためには、対岸の火事としてではなく、価値観を同じくする国家が団結してウクライナを支援する必要があります。

 

 年の瀬の最後に、民主主義の当事者意識の重要性について表明した、マルティン・ニーメラー氏の次の言葉を掲げましょう。

 

「ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は共産主義者ではなかったから。」

「社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった 私は社会民主主義者ではなかったから。」

「彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は労働組合員ではなかったから。」

「そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった。」

 

Slava Ukraini! (ウクライナに栄光あれ!)

 

 

 

 

 

Slava Ukraini. [Glory to Ukraine.]

「こちら北米航空宇宙防衛司令部。未確認飛行物体を発見!」

 

北米航空宇宙防衛司令部(North American Aerospace Defense Command: NORAD)は、核を含む弾道ミサイルの早期警戒を任務として、北米地域の航空・宇宙領域を24時間監視する軍事機関です。

 

1948年12月24日のことでした。早期警戒レーダー網が、北へと向かう未確認飛行物体をとらえたのです!

けたたましく警報が鳴り響き、警戒態勢にあった要員全員に緊張が走ります!

 

「未確認飛行物体を捉えたぞ!」叫び声に近い報告がスピーカーからこだまします。「高度4,300メートルを、北に向かって飛行中!」

 

「ミサイルか?航空機か?報告せよ!」

 

「いや、そのいずれとも違う。」

 

「では、一体何だというんだ。」

 

緊迫したやり取りの果てに担当官が報告したのは、果たして、

 

"one unidentified sleigh, powered by eight reindeer.” (未確認の橇(そり)だ。動力源は8匹のトナカイだ・・・。)

 

というわけで、ちょっと脚色しすぎましたが、これは実際にあった米国空軍のジョーク。未確認飛行物体の正体は、もちろんサンタクロースです。

 

NORADはれっきとした軍事機関ですが、毎年クリスマスになると、「NORAD Tracks Santa」と称して、サンタクロースの現在位置をリアルタイムに追跡して報告します。

 

そもそもは、百貨店のSears(シアーズ) が、サンタとお話しできる電話回線を敷設したところ、電話番号の印刷を間違えて、NORADの前身であるCONAD司令長官の電話番号にしてしまったことに起因しているとのことです。電話を受けた当時の大佐が、「サンタが北極から南下中。」と子供に報告したことがきっかけで、クリスマスの恒例行事になったとか。カタブツの軍事機関が、こんなに粋(イキ)な計らいを毎年しているところが、いかにもアメリカらしいと思いませんか?

 

現在では、「NORAD Tracks Santa」と検索してもらえれば、誰でもアプリをダウンロードして、サンタクロースの現在位置を確認することができます。私がキャプチャーした時は、イギリス北部をサンタさんが疾走しているところでした・・・。

 

 

あなたから メリークリスマス

私から メリークリスマス

サンタ・クロース イズ カミング トゥー タウン!

 

メリー・クリスマス!皆さん!

ispace社「Mission1」打ち上げ成功!

 

 

日本時間2022年12月11日16:38、スペースX社のファルコン9に搭載されたispace社の月着陸船(ランダー)が、米国フロリダにあるケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。Ispace社のランダーは、打ち上げ47分後に切り離され、2023年4月の月着陸に向けて旅立ちました。姿勢制御、電力確保、通信ともに安定しているということで、順調な出だしにまずはひと安心です。

 

月開発ということでは、ほぼ時を同じくした12日午前2時40分頃(日本時間)、NASAが先月(11月16日日本時間15:48)打ち上げた有人月着陸船オリオンが地球へ無事帰還しました。今回は無人で月を周回して帰還しましたが、次回は有人で月を周回して帰還、2025年に予定されている3回目は、有人での月着陸が予定されています。

 

ここで鋭い方は気づくと思うのですが、オリオンは11月16日に打ち上げられ、わずか25日余りで月を周回して地球に帰還しました。対するispace社のHAKUTO-Rでは、4か月もかかって月に着陸する予定です。両者の行程には余りにも期間の差があることを不思議に思うのではないでしょうか?

 

この違いは、軌道選択の違いから来ています。NASAはオカネがあるので、直接月を目指すので期間を短くできるのに対し、ispace社は燃料を節約するために大きく迂回する軌道を選択しています。ispace社が選択したのは、一端月を通り過ぎて150万キロ先の宇宙空間まで達してから月に戻ってくるWSB軌道という特殊な軌道です。地球から月までの距離が38万キロですので、「迂回」という言葉では足りないほどの無茶苦茶な遠回りとなっています。150万キロ先の宇宙空間には、太陽と地球、月の重力が釣り合う領域(WSB:Weak Stability Boundary)があり、ほんのわずか燃料を吹かすだけで月の軌道に入ることができます。従って、時間がかかるデメリットを甘受できれば、燃料を節約してコストを安くあげるためには、WSB軌道を活用した方が得策という話になるわけです。

 

「遠回りした方が安くつく」というのは、地上の感覚からするとむしろ逆に感じるでしょう。しかし、宇宙では、地上の経験損苦が成り立たないことが頻繁に起ります。

 

ニュートン力学の第一法則である「慣性の法則」では、「外部から力がはたらかない状態では、静止している物体は静止し続け、動いている物体は等速直線運動を続ける。」とされています。宇宙空間に打ち上げられたランダーは、基本的には等速直線運動を続けようとしますが、実際には太陽と地球、月の重力が作用してWSBに導かれます。地球からWSBまでは、距離はすこぶる遠いわけですが、慣性の法則に則っれば燃料を使用する必要はありません。つまり、宇宙では、距離を稼ぐのに必ずしも燃料を必要としないのです。放っておけば、一度進みだした衛星は、重力の作用は受けますが進み続けます。コストに直結するのは、「距離」ではなく「燃料」なので、遠回りしても燃料をちょっとだけ吹かせば月の軌道に入ることができるWSB軌道は低燃費になるわけです。(ちなみに、宇宙空間における「距離」の概念は、地球や月が移動しているために、あまり意味を持たないことも多いです。)

 

月着陸まであと約4か月。重力天体への着陸は、はやぶさ2の着陸と比べても難しいはずなので、まだまだ気は抜けないところではありますが、まずは打ち上げ成功をお祝いしたいと思います。おめでとう!

桜咲くJAXA

 JAXAはコロナ期間中ずっと長い間、原則的に在宅勤務で仕事を進めています。客員の私など猶更(なおさら)で、プロボノ的な助言が主業務ですので、Web面談は行っても、つくば宇宙センターに出勤するのはごく稀(まれ)な日々が続いていました。

 

 けれども昨日は、久しぶりにJAXAつくばに出勤しました。ただでさえ構内の人影はまばらなのですが、昨日は一層人とすれ違う機会が少ないように感じました。

 

 でも、桜は満開でした。曇天で人影まばらな中でも、桜が満開に咲き誇っていると、何となく賑々(にぎにぎ)しく感じるのは不思議な感覚でした。

 

 

 帰りの手続き前に、久しぶりにJAXAの図書室に寄ってみました。いくつか物色したい資料があったのですが、あらためて、宇宙開発の歴史に関する文献、それも他所では決してお目にかかれない文献が多数収蔵されていることに感慨を覚えました。「他所では決してお目にかかれない文献」の極めつけのひとつとして、昔の研究員の方が手書きで書いた、「欧州宇宙機関」(ESA)設立の経緯に関するレポートを見つけました。ワープロなんてなかった時代、研究員の方がこつこつと手書きで書いたレポートで、幅15センチ以上の力作でした。手書き文字の行間に宇宙開発に向けた情熱が感じられて、胸が熱くなりました。

 

 2021年は一般の方々にとって、「民間宇宙ビジネス元年」に感じられたことでしょう。7月にブランソン氏が宇宙に飛び、そのすぐ後にベゾス氏が飛び、9月にはスペースXが民間人だけの軌道旅行「インスピレーション4」を実現し、ダメ押しとして、前澤さんが年末に国際宇宙ステーションから楽しいレポートを届けてくれました。

 

 我々専門的な知識を持つ者からすると、ここに至るまでに長い苦難奮闘の歴史があったわけですが、一般の方々がそれを知らなくても結構。人知れぬ努力の結果、いま新たな産業が花開こうとしているのですから。JAXAの桜も、心なしか祝福してくれていたように感じました。