【 黄金の一味 】
原題は【 Gli uomini d’oro 】
2020年9月18日~22日 の日程にて奈良市内のサテライト会場、
EVANCE CASTLE HALL にて、19日の公開が日本初上映となった。
以下、この作品を選定し、日本での配給、翻訳、字幕製作と、ビッグタイトルでは無いものの、小粒でもしっかりと味のあるイタリア映画を日本に紹介する事で定評のある京都ドーナッツクラブさんの働きかけで叶った今回の上映。
同クラブブログより紹介文を引用↓。
『2019年に公開されたヴィンチェンツォ・アルフィエーリ監督の長編第二作『黄金の一味』は、1996年にトリノで実際に起こった現金略奪事件を題材にしたノワール映画だ。』
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真面目に働く気などさらさらなく、郵便局の仕事を早期退職し、憧れのコスタリカで余生を遊んで暮らすことを夢見ていた伊達男メローニ。
彼の同僚で極めて勤勉、常々やる気の無いメローニを疎ましく思っているザーゴ、そして作品後半でようやく出てくる我らがエドアルド・レオの演じる謎の男ウルフ。
物語は伊達男メローニを中心としてザーゴと彼らの家族関係、早期退職で予定していた悠々自適の生活が国内の政情不安で泡と消え、いよいよ一発逆転を企まないと自分の未来は真っ暗だと強行作戦に出始めることになるパート、
第一章 『プレイボーイ』
銀行強盗計画の遂行で物語が大きく動くことになる
第二章 『ハンター』
そして謎の男、ウルフとは何者なのか、彼がこの銀行強盗にどうかかわる事になるのか、そして彼らの運命は、とクライマックスを迎える
第三章 『オオカミ』
の三つに分かれている。
準備段階の2章までは割とダラダラとした展開。昨日のレイトショー上がりの身としては正直辛かったので、三章で俄然スピード感を増して展開していく、ようになる感じ!面白くなる!?と思ったんだけど、正直ノワールものとして、また実話に基づく話として、この犯罪自体が正直スケールの非常に小さなものであった事で取り立てて目を見張るような場面は現れないまま終わってしまった感じでした。
主人公たちが特別人に秀でた能力や技術があるわけでもなく、そもそもこの計画も長年の経験から組み立てられた割にはかなり杜撰なもので、これ3つに分けるほど内容の濃いものではなくて、内容があまりにも薄いから3つに分けて多角的な視点を持たせることでなんとなく厚みのある物語に見せようとしたんだけど強盗当日の数時間にフォーカスした内容に結局大きな拡がりは見られず、3つの視点から練り合わせた効果は思いのほか薄かったな、、、というのが率直な印象でした。
ソフトクリームのように上昇していくのではなく、排水溝に水が流れるように下ってしまった、というような。。。
そしてまた、劇中で生き埋めになった2人が普通に生きていたラストも正直よく分からなかったw
『ハ?なんで?なんじゃコレ?』
と。
イタリア映画にありがちな、今時そんなシーン要らんって、となる少々ゲスで不必要な濡れ場も少し鼻についたりと。
ヴィンチェンツォ・アルフィエーリ監督、意識高い感じはしたんですが、今回はさすがにちょっと空振りに終わったんじゃないかなという。
ただ、『ロングデイズ・ジャーニー』を意識したようなカットの多用や、どこかで観たようではあるけれどなかなかにテクニカルな構成に挑戦するその意気込み、良い脚本と編集パートナーを得る事が出来ればいつか秀逸な作品を仕上げてくるのではないでしょうか。その期待は今後の作品に置いておきたいと思います。
◇◇◇◇◇◇【上映後ティーチイン】◇◇◇◇◇◇◇
上映後、この作品を上映するきっかけにもなった京都ドーナッツクラブ代表であり、関西を代表するスーパーDJ、野村雅夫氏のティーチインに、まさかの加藤雅也氏がサプライズ登壇!!
客席後方から加藤氏が現れると会場にはどよめきが。
以下、全ての会話では無く、私が気になったコメントを抜粋しながらの記録を記載。↓
加藤雅也氏(以後<加>):『サムイサムイ!え?映画が寒いってゆうたんちゃうよw、それにしてもなんやねんコレ!って映画がたまにある』
『事実に基づく、って映画で最後にどうなったのか分からなかったら普通怒るけど、実話ベースだから、僕は結構こういうの好きよ』
ボロカスに酷評したのかと思ったら結局は優しくフォローに回るVIPに
野村雅夫氏(以後<まちゃお>):『追い返されるのかと思いましたよ!』
会場笑。
全開のなら国際映画祭2018からは2回目の参加となる加藤氏。
加:『なら国際映画祭にこの手の作品は今まで無かった』
まちゃお:『場違いじゃなかったでしょうか?大丈夫でしょうか?河瀬さんに怒られませんかね』
会場笑。
まちゃお:『買い付けの場でもある東京国際映画祭が今年は無くなってしまって、という事は来年劇場公開する作品の選定が出来ないという事。来年のことを考えると非常に心配していました』
加:『ファンタスティック映画祭ってのが昔にあって、ゴールオブザデッドって作品なんかのように、絶対に一般受けはしない作品でもみんなで楽しむ、という喜びが映画館には詰まっている』
『同じような題材のものであっても、製作する国によって全然違うエッセンスになる作品がよくある。僕は奈良で、奈良のエッセンスを加えた作品を作っていきたい』
『こんなに素晴らしい場所で素晴らしい映画祭があるのに、奈良の人は宣伝しないのか?って』
以上僅かな記録ですが、加藤さんの映画、映画祭に対する熱い想い、そして野村雅夫氏の配給元ならではの想い、イタリア映画を日本に紹介する自身のルーツからも来るであろう使命感のようなものを感じるコメントの抜粋でした。
奈良は非常に美しい大自然があり、歴史も、文化も国内でもトップクラスに詰まった場所。でありながら、この映画祭が加藤さんが言われたようにもう一つ大きなムーブメントにならないのは、やはり大きな企業による厚いバックアップが受けられないこと、奈良の中心部から映画館がなくなってしまったように奈良県民はあまり映画に興味が無い可能性が高い事、『奈良に美味いものなし』なんてうわさがあるくらい、奈良にはあまり美味しいお店、おしゃれな場所が少ない事、新幹線の駅が無いので交通の便が悪いことなど、多くの部分で国際都市、文化都市として京都に後れを取ってしまっているのは否めない。
ただ、河瀨直美監督がその知名度を惜しみなく使って、自らもそこに住み、文化を発信し、交流し、映画をこの地で撮り続ける事で間違いなくすこしずつではありますが変わってきた感覚があります。
今年はコロナ禍によって残念ながら大きなムーブメントにはなりえませんでしたが、幸いこの映画祭は2年ごと。2022年にはコロナ禍も克服し、さらにメジャーに、さらに大きな盛り上がりを持って開催されるのではないでしょうか。
と、近くの自治体に住みながらこの映画祭に参加したことで改めて多くの事に、新しいお店、ランドマークに気が付いた身として期待しています。自身の上映作品の為、河瀬監督がこのティーチインに参加されなかったのが心残りでしたが、加藤さんの言われていたように、今までなら国際映画祭にはなかったイタリア映画、というジャンルの参加による多様性の向上、より良い映画祭になっていくなという温かい確信を持てた一日でした。