離為火
離、利貞。亨。畜牝牛吉。
○離は貞(ただ)しきに利し。亨(とお)る。牝牛(ひんぎゅう)を畜(やしな)えば吉。
離は正しきに麗(つ)きて明智を用いる時。常に正しきに麗きて明智を用いるがよい。
すらっと通る。牝牛(めうし)のように柔順の至りを尽くせば、幸を得る。
彖曰、離麗也。日月麗乎天。百穀草木麗乎土。重明以麗乎正。乃化成天下。柔麗乎中正、故亨。是以畜牝牛吉也。
○離は麗(つ)く也。日月(じつげつ)は天に麗(つ)く。百穀草木(ひゃっこくそうもく)は土に麗(つ)く。
重明(ちょうめい)にして以(もっ)て正に麗(つ)く。乃(すなわ)ち天下を化成(かせい)す。柔中、正(せい)に麗(つ)く、故に亨(とお)る。是(ここ)を以て牝牛(ひんぎゅう)を畜(たくわ)えば吉なるなり。
離は一陰が二陽に麗(つ)く。一陰は虚心、二陽は身体。明鏡(めいきょう)の如(ごと)く曇りのない心と健康な身体があるので、明德が発現する。
宇宙を司る元氣は天地に分かれ、天の氣は日月星辰(じつげつせいしん)に麗き、地(土)の氣は百穀草木(ひゃっこくそうもく)に麗く。
離は太陽。日日に新たに太陽が昇るように、人は明智に明智を重ねて正しい道に麗く。すなわち君主が太陽のような明德を発現して、臣民を化育(かいく)すれば、文化・文明は生成発展する。君臣が柔順中庸の德を備えて正位に麗く。すらっと通る。
かくして、牝牛(めうし)のように柔順の至りを尽くせば、幸を得る。
象曰、明兩作離。大人以繼明、照于四方。
○明(めい)両(ふた)たび作(おこ)るは離なり。大人(たいじん)以て明を継(つ)ぎて四方(しほう)を照らす。
日日に新たに太陽が昇るように、明德に明德を継いで文明を継承するのが離の形。大人(聖人たる君主)は、先代の明德を継承し、天地と德を合わせ、賢臣と意を合わせて、普(あまね)く天下人民を照臨(しょうりん)する。
(占)冷静で頭が良く、文学の才能に秀でている。しかし、離は独立する者ではない。それゆえ、善良の友だちを選んで、共に力を合わせて、事業を企画すべきである。
例えれば、「薪(たきぎ)」は「火」の実体である。逆に言うと「火」は「薪」の運用である。「薪」と「火」が一つになって、実用化することができるのである。
占いを立てる人は、以上の理屈をよく会得して、あらゆる事に従うべきである。
また、火は物に付着して移動していく性質がある。それゆえ、始めは善き性質を持っていたとしても、互卦(二三四爻)巽の風が吹けば火の勢いが盛んになって善き性質が変化して、損害を及ぼすことがある。
さらに、「牝牛(ひんぎゅう)を畜(やしな)えば吉」という彖辞の言葉から推察すると、剛健で積極的な人と接するよりも,柔順な善人と接して、共に事業を計画するが宜しい。
また、目下に剛健で積極的な人が存在し、その人が原因となり人災を招くという意味がある。慎まなければならない。
○気持ちや意思(意志)が移ろいやすい象(かたち)。
○驕り高ぶる気持ちや贅沢を慎み、質素であることを思い考えるべきである。
○飛んでいる鳥が網で捕らえられる時である。
○罪人が捕まって手錠をかけられる象(かたち)。
○目の前の小さな事から利益を得られるであろう。宜しく思って速やかに対処すべし。ボヤボヤしていると勢いを失うという象(かたち)。
○文学の才能があり、智恵と明德を兼ね具えている。
○熟慮することなく、せっかちな性格で、失敗することが多く、人災を招くという象(かたち)。
○女性ならば、美人だという象(かたち)。
○網を使って押さえつけられ伏せているという理屈。
○離は弱い人が強くなるという象(かたち)。
○物価が上昇するという象(かたち)。