『貞観政要』 | 心の風景

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『貞観政要』/呉兢/講談社学術文庫

 

本書に登場する李世民・太宗(598-649)は唐の第2代皇帝(位626-649)。父親の建国を助け、群雄を打倒して、天下を統一すると、即位して国の仕組みを整え、善政を行なって唐を世界帝国に発展させます。長い中国の歴史の中でも屈指の名君とたたえられています。世界史の教科書にも必ず出てきます。

 

本書は太宗と腹心の臣下との間に交わされた政治のあり方についての問答です。8世紀初頭以降成立。中国のみならず、日本でも経営者や管理職を中心に、現代に至るまで読み継がれています。徳川家康も愛読したとのこと。

 

本書では太宗は決して完璧ではなく、失敗も欠点もある人物として描かれています。皇帝を実際以上に理想化することもできたでしょう。いや、多少は美化されているのかもしれませんが、それでも良心的と言えます。

 

太宗は臣下たちに自分を進んで批判するように命じます。ここが並みの皇帝と違うところです。臣下も時には人格批判までやってしまいますが、太宗はそれを受け入れます。優秀な皇帝が優秀な臣下の批判を受け入れるのですから、政治の質はどんどん高まっていくわけです。

 

徳による政治など、太宗も臣下もまるで青臭い高校生のようなことを真剣に議論しています。これは感動的ですらあります。平和で治安の良い時代を実現したのですから、実際にそういう政治が行なわれていたのでしょう。その点では、もしかすると、現代日本の政治よりも優れているのかもしれません。

 

本書は『貞観政要』のすべてが収録されています。これは文庫では初めてではないかと思います。中国語の原文や詳しい出典もあり、専門家にも使えるようになっています。