再会を告げず | 心の風景

心の風景

心のあり方や生き方をテーマとしたエッセイなどを載せていきます。同好の方と交流できればうれしいです。

私はある塾である女子中学生を教えました。特に親しかったわけではありませんが、時々話すことはありました。

 

約10年後、その人が私の別の仕事の職場に入ってきました。つまり同僚になったのです。私は名前と顔ですぐ教え子であることに気づきました。しかし、彼女は私と話していても、全く気づきませんでした。

 

私は自分がかつての教師であることを、とうとう自分がそこを去るまで明かしませんでした。

 

なぜでしょう。自分でもよく分りません。

 

故郷や出身校などのつながりを生かして、人間関係を深めることは普通に行われています。

 

塾時代のことを明かせば、再会を喜んでくれたかもしれません。でも社交的でない自分には、そういう特別な関わりを持ち出して、若い女性の心の負担になったら、という思いもあったのではないかと思います。おとなしい人でしたし。つまらないことを気にしている、と言われれば、その通りなのでしょうが。

 

教え子とまた会うことはもうないでしょう。彼女の中では、もし私のことを覚えているとしても、塾の私と職場の私とは永久に別人のままなのでしょう。