まだまだ春を想う | 桃象コラム

桃象コラム

音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

オリンピックから世界選手権、そしてContinues with Wings、凱旋パレード、園遊会、国民栄誉賞と、ポストシーズンのイベントや行事で盛沢山だった年を終えて7月にスケート新年を迎え、今は来るべきシーズンへの期待と不安が入り乱れる時期。ルール改正の影響や各選手の新しいプログラムに頭を悩ませたりワクワクしたり。そんななか、今年の私はかなり冷静でいます。ルール改正のことも時が経てばいろいろわかってくるし、新しいプログラムもGPSが始まる頃には全貌が見えてくるはずだし。というより、私の脳内ではいまだに羽生さんが「春よ、来い」を滑っているのであります。GPSが始まるまでは、きっとこのままでしょう。
 
今年はファンタジー・オン・アイスを3回も観に行ってしまいました。なんでそんなに奮発したのか。まずはP&G様のご厚意で、幕張にご招待いただいたところから始まります。ええ、あのキャンペーンに応募したらチケットが当たったんです。皆さん相当な金額をつぎ込まれているなか、ほんのわずか(たしか3口?)で当たってしまって申し訳ない(でもまだシャンプーも洗剤も使い切れていない)。そういうわけで幕張は無料で見せていただいたので、後半最初の神戸を観に行くことにしたのです。初日のワクワク感を愛する私としては、神戸も、初日。
 
神戸で、やっぱりFaOIは楽しいなぁと、あっというまに時間が過ぎて行って最後のナンバーが羽生さんの「春よ、来い」。
 
羽生さんが暗がりの中でリンクに出てきた時、一瞬スワンかと思いました。そして照明が点いたとき、おお、ピンク!とその美しい衣装にびっくり。私の席からはちょうど羽生さんの後ろ姿が見えたのですが、脊椎に沿うように濃いピンクから枝分かれして薄いピンクへのグラデーション。そして全体にキラッキラ。こんな衣装を着られる23歳男子は間違いなくこの人だけだと思いましたよ。(一瞬、上半身の神経チャートに見えたww)
 
神戸の初日では、感情を内に秘めた表現だと思いました。いろんな感情が渦巻いていて、でもまだ昇華しきれていない。故に外に出せない。そんな印象を持ちました。原曲の歌詞にあるように、春はまだ遠く、瞼をとじてようやく感じられるもの。超低空飛行ハイドロも、氷と対話しているようなイメージを持ちました。
 
羽生さんのプログラムはいつも、初演からどんどん進化していきます。振り付けも細かいところは変わっていくのが常。この「春よ、来い」はこれからどうなっていくのだろうという期待とともに神戸を後にしたわけです。
 
そしてその後、新潟から伝わってきたレポは、なんでも氷を飛ばしているらしいと。そしてどうやら微笑んでいるらしいと。ううむ、これは見たいかも。静岡行くか…? なにしろコラボレーションのプログラムなので、このまま今シーズンのエキシビション用プログラムになる可能性は低いと考え、これは静岡を見逃すともう見る機会はないのかもしれないと思ったのです。
 
ところがFaOI静岡公演の週末は、金曜日も土曜日も1日中用事があってとても静岡まで行く余裕はなく、かろうじて日曜日日帰りならなんとか、というところでした。かといって、大楽のチケットなんて残っているわけないよ…Twitter のタイムラインにお譲りのツイートがたまに流れてくるのを目にしても、ほぼ金曜日のチケットだったし、またそういうチケットのやりとりも面倒だなあとスルー。そしてふと、静岡朝日放送のチケットサイトを見てみたら、ん?ある?買える?というわけで、ポチポチとポチっていたら大楽のB席が買えてしまった。ここでもチケット運に恵まれる私でした。どうやら1枚だけ残っていたもよう。
 
というわけで、7月1日日曜日に急遽、掛川へ。普段の日曜日は自転車で行ける範囲内でしか行動しない私が朝から新幹線ですよ。いったいどうしたことでしょう。
 
そして、FaOI大楽をたっぷり楽しみました。「春よ、来い」はものすごく進化を遂げていました。清塚さんとも日々、話し合って調整を重ねていったのだろうなと思われて、イントロからすでにテンポを落としていたのが分かりました。神戸でまだ遠かった春はもう静岡には来ていて、氷にキスをして、エッジで削った氷をぱぁっと放り上げるさまは「解放」でした。雪の下で冬に耐えた種が、春になって日の光を浴びて花となるというような、春の日の喜びと開放感を感じたプログラムでした。本当に素敵だった。技術的にはかなりえぐいこともやっているのに、微笑みながら軽やかに、飛ぶように滑る。これだけを見に静岡まで行ったと言っても過言ではありませんでしたが、その甲斐がありました。
 
「春よ、来い」を見て、清塚さんの株も私の中では急上昇しました。清塚さんの演奏は、2011年に地元ホールで聴いたことがありました。テレビでもちょくちょく見かけるようになりました。でも私はその時の清塚さんのピアノがあまり好きになれなかったし、最近のテレビ出演でもちょっと「ちゃらい」のが悪目立ちしているように思えていたんですよ。
 
しかし今回の羽生さんとのコラボレーションは本当に素晴らしかった。アイスショーでのコラボレーションは、正直言って、「伴奏」になってしまうことが多いように思えます。ピアニストは音楽を奏で、それに合わせてスケーターが滑る、またはスケートに合わせてピアニストが演奏する。でも「春よ、来い」は全く違いました。清塚さんと羽生さんの間には明らかに意思の疎通があり、お互いがお互いの音や動作を意識しているのが伝わってきました。音楽に例えるなら、あれは「演奏と伴奏」ではなく、「セッション」でした。ピアニストとスケーターのこんなに熱いセッションなんてめったに見られません。曲の最後のあたり、清塚さんが指の皮がめくれるのも構わず黒鍵でfffのグリッサンドを3回、そしてそれに合わせた結弦くんのスピン。本当に至福でした。清塚さんのこと、誤解していました。ごめんなさい。
 
少々話はずれますが、7月初めにフジテレビの「ワイドナショー」というバラエティ番組で羽生さんの話題が出て、コメンテーターとして出演されていた小塚さんの発言が少々もやったことがありました。それはそれとして、この番組の中で私が最も印象深かったのは、同じく出演されていた清塚さんが、その直前に亡くなられた桂歌丸師匠について語ったことでした。歌丸さんは本来の寄席だけではなく、テレビ(笑点)という新しいメディアを活躍の場として人気を得たけれど、決して本来の落語をないがしろにしたことはなかったのが素晴らしいという趣旨のことを語っていました。それを聞いて、清塚さんも今はいろいろな仕事をしているけれど、本来はクラシックのコンサートピアニストとしての活動に軸を置きたいのかなと。クラシックピアニストは40代、50代、60代が旬。さすがに80歳を超えると引退する方も少なくありませんが、清塚さんはまだ若い。また演奏を聴きに行こうかなと思います。
 
というわけで、FaOIを3個所で計3回観て、やっぱりこのショーは楽しい。3回分の感動の85%ぐらいを「春よ、来い」がもっていっちゃった感じはありますが。いや、もちろん、ステファンとラトデニくんのショパンのノクターン13番で滑るデュオは涙ものだったし、のぶくんのジュリーにも、神戸では腹抱えて笑い、静岡では一緒にゆらゆらしたし。前半のケミストリーもよかったし。やっぱり豪華で楽しいショーです。でも、プルシェンコもジョニーもステファンも、みなさまそれぞれにお年頃。いつ、ショーを引退しても不思議はありません。のぶくんだって、そろそろコーチ業と監督業に専念してもよさそうなものです。そう思うと、1回でも多く見ておいたほうがいいなと思うのです。来年はどうなるか分かりませんがね。できるだけ見ておきたいものです。
 
さて、最後に再び静岡・エコパアリーナに行くことがあるかもしれないので、要点をメモ。
  • 最寄り駅は愛野だけど、人数が集まれば掛川から直接タクシーで行ってもいいみたい。
  • 愛野からアリーナまで、行きは緩い坂をずーーっと登っていくことになるので暑い時期にはやめておいた方がいい。おとなしく駅からタクシーで。690円で着きました。タクシー乗り場で相乗り相手を探すべし。
  • アリーナから愛野への帰りは下り坂なのであまり大変じゃない。ゆっくり歩いて下ればOK。
  • 愛野駅は小さい駅だけれどアリーナとスタジアムを抱えているので、駅員さんの乗降客さばきは巧い。
  • 新幹線、掛川駅はこだまじゃないと止まらず、本数が少ない。静岡駅からローカルに乗り換えても時間的にはそれほどかからないので、静岡も選択肢にい入れるべき。宿泊の場合はなおさら。掛川にはホテルも少なく、愛野には1件しかなさそう。その点も静岡なら安心。
  • 座席はまあまあ広く、クッション持参不要。傾斜も見やすい。
  • さすがヤマハのお膝元だからか、音響は今回FaOIを見た3個所で一番よかった。
来年もまた楽しいショーを観られますように。その前に、怒涛の今シーズンだ!
 
桃象