2万の批判から学んだ広報活動――労働組合こそ「広報」を【リレー連載⑩ 中嶌聡/はたらぼ】 | くろすろーど

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中嶌聡/NPO法人はたらぼ
第5回:2万の批判から学んだ広報活動


独自の広報戦略の必要性


団体交渉や、抗議行動、求人票キャンペーンなど、「闘うアイテム」を増やし実践していく一方、私たちは広報活動にも力を入れた。
私たちの組織化対象は、大阪府に住んでいる、もしくは府内の事業所で働くすべての労働者、である。
学校でも、テレビのCMでもニュースでもドラマでも、ほとんど知らされない労働組合を知らせるためには、独自に広報戦略を立てる必要があった。
当時、主に3つのメディアで取り組んだ。


闘う経験を共有する「つぶやき」

1つ目は、ツイッターをはじめとするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用だ。
その日受けた労働相談の内容、団体交渉前の打ち合わせ中の写真、団交で出てきた相手の主張などを発信した。
「現在進行形で労働問題が解決されている」ことをSNS上で体験してもらうことを心がけた。
なぜなら、「解決できると思っていない人」が大半だからである。
「また解決したのか、すごいな。なんかあったら相談しよう」とか「うわ、うちの会社と同じサービス残業の問題か。どうなるんやろう?」と気にしてもらいたかったからだ。


日本初!? 抗議宣伝をニコ生で生放送!

2つ目は、ニコニコ生放送(以下ニコ生)である。
ニコ生とは、会員になればだれでも気軽に生放送できる動画サイトで、10代、20代を中心に人気のインターネットサービスである(今では政治系の番組も多く年齢層も広がってきている)。
生放送されている動画の上に視聴者からのコメントが流れるため、コメントが多いと動画が見えづらくなり動画の注目度がわかりやすい仕組みである。
これが、他の動画サイトとの違いで、人気の理由でもある。
当時、組合員の1人にニコ生をよく使っていたメンバーがおり、彼が「抗議宣伝を生放送しよう!」と言い出したのがことの始まりだった。

抗議宣伝については、以前から私たちの間で問題視されていた。
宣伝カーを横付けして大きな音量で会社側に抗議行動をするわけだが、会社にとっては威嚇にはなれど、人通りの少ない場所ではビラは100枚も配れない。
多くの人に知らせるという目的が達成されているのかわからなかった。
また、真っ昼間に近隣住民(子どもを寝かしつけている最中の世帯もあるだろう)にも迷惑だとわかっている中で(もちろん責任は会社側にあったとしても)、率直に抗議行動がプラスに働いているのかどうかも知りたかった。
そこで、抗議宣伝を生放送し、視聴者のコメントを集めることにした。


2万の批判コメントの嵐


結果は、予想以上だった。1万人が視聴し2万近くのコメントをつけたのだ。
抗議宣伝中はコメントが集中し画面一杯がコメントだらけの状態も続いた。
ただ、内容はまずかった。右翼と間違えられたり、ただの嫌がらせととらえられたり、何がしたいのか不明などと、真意が伝わっていないと見受けられるコメントが圧倒的多数だった。

反応を可視化することが目的だったので、反応にめげずに、コメントすべてを一覧表にして、内容を分析していった。
結果として、以下の4つのポイントが見えてきた。
① 「おまえら誰だ!?」に答えられていない
② 抗議行動までの経過が不明で、いきなり過激な行動をしていると思われている
③ 「法的に大丈夫なのか?」と心配されている
④ そもそも「何の問題に対してアピールしてるの?」が伝わっていない、である。


一転した視聴者からの反応


私たちは上記の反省を踏まえて、1時間の番組仕立てで放送することにした。
最初の15分間で労働相談の内容から団体交渉の経過、労働組合が使える団体交渉権と団体行動権の説明、現在の争議の状況と、抗議宣伝の目的を伝えた。
次に30分間フリーで質問に答え、最後に15分間でまとめと今後の展開を説明していった。
また、細かいことであるが途中からの視聴者への配慮も踏まえ、タイムテーブルを書き随時画面に見えるようにし、視覚による情報も提供した。

すると驚いたことに批判的コメントがほとんどなくなり、「なるほど」「組合ってすごいな」「もっとやれ」などの肯定的なコメントや質問、建設的な意見のみになったのである。
匿名の、かつ一時的な関係しかないインターネットメディアだからどんなに工夫しても批判されて終わるだけだろうとの考えもあったが、「私たちの伝え方次第なのだ」と気づかされる結果になった。
その後、メンバーが単独で実施していた労働相談についても、青年部として取り組み始めた。
集団的にネットを通して生で受けて答えることで、一緒に見聞きしている視聴者も同時に学べる取り組みとなったのである。
回数を重ねると、ある程度の労働相談に視聴者同士で答え始めていたり、参考文献をまとめてくれたり、時には共感した視聴者からカンパを頂くこともあった。



組合とゆるっとつながるメールマガジン


3つ目は、「365日働くルールメルマガ」と題した毎日届くメールマガジンを開始した。
これは、労働組合に加入することが依然としてハードルが高い中で、労働組合の一層外側にゆるいつながりを作り、何かあった場合に労働組合という選択肢を常に意識してもらうことが狙いだった。
メルマガの構成は「いきなり解雇と言われた! 仕方ない?」といった問いかけから始まり、1行で結論を述べ、その下に詳細、さらに関連する法律条項を掲載するという内容である。
全文を30秒で読める分量にしたこと、ランチタイムに合わせて正午に配信したことが特徴である。
これは労働組合の活性化を願う献身的な弁護士さんとの出会いにより実現した。
3.11の東日本大震災時には2週間連続で震災時の働くルール特集を発行、GWや台風、花火大会など季節に合わせたテーマでの投稿を心がけた。
メディアにも4、5回取り上げられ、メルマガは大ヒットし、最高で2,400人が登録するにいたった。

以上3つの取り組みは具体的な効果もあった。
ツイッターを見て「オープンな組織だと思った」と加入したメンバーは後に役員となった。
大学生からツイッターで得た情報は、マスコミとつなぐことで後にニュースになった。
ニコ生やメルマガで知識を得て会社と交渉したり、他の地域の組合に加入した人々もでてきたのだ。



丁寧に伝えることの重要さ


広報をするときに気をつけていたことがある。
それは、「主張を押しつけない」ことだ。これは、ニコ生での経験が教えてくれた。
同じことを伝えても伝え方一つで全く受け取り方が変わったのだ。
刺激的ではっきりした強い主張よりも、事実をしっかり知らせ、丁寧に選択の過程を共有し、何のために行動しているのかを伝え、共感してもらいやすいように主張することが重要である。
私たちはそれを2万の批判の嵐から学んだのである。





なかじま あきら 1983年大阪府茨木市生まれ。大阪教育大学を卒業後、外資系人材派遣会社での正社員経験を経て、大阪の個人加盟ユニオンで活動。役員として4年間で200回以上の団体交渉を経験する。ネット中継やトークイベント等の新しい運動でも注目を集める。2013年に「NPO法人はたらぼ」を立ち上げ、代表理事に。ブラック企業淘汰を目指し、企業・労働者・行政の3者をつなぐ中間団体として活躍中。新聞・テレビ等からの取材多数。



イラスト 大江萌


※リレー連載「運動のヌーヴェルヴァーグ」では、労働組合やNPOなど、様々な形で労働運動にかかわる若い運動家・活動家の方々に、日々の実践や思いを1冊のノートのように綴ってもらいます。国公労連の発行している「国公労調査時報」で2013年9月号から連載が始まりました。