「有期雇用」に実効ある規制を、入口規制に消極的でいいのか - 厚労省の検討会報告どう見る? | すくらむ

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 ※「連合通信・隔日版」(2010年9月18日付No.8372)からの転載です。


 「有期雇用」に実効ある規制を
  入口規制に消極的でいいのか
  厚労省の検討会報告どう見る?


 2008年の世界同時不況以降、社会問題になった「非正規切り」。紙切れ一枚、携帯電話一本で、多くの人がいとも簡単に路頭に放り出されました。その背景には、派遣・請負などの間接雇用とともに、有期雇用の問題がありました。


 有期雇用労働者はいまや750万人。この四半世紀で320万人も増加しました。中には正社員と同じように働きながら、劣悪な労働条件で働いている人も少なくありません。


 そんななか、厚生労働省の有識者検討会がこのほど、有期労働についての報告書をまとめました。有期雇用への規制に向けた審議がいよいよ始まります。


 ●規制がない日本


 有期雇用の最大の問題は雇用が不安定なことにあります。契約を繰り返し更新し、長期間働いた末に「期間満了」で雇い止めにされても、これを規制する明確なルールはなく、原職に復帰しようと思えば、ほとんどの場合、裁判を起こすしかありません。


 つねに契約更新されるかどうか不安を抱えているため、労組に加入して待遇改善を要求することをためらったり、不利な労働条件変更を示されても断れないなど、権利主張が困難というのも、大きな問題の一つです。


 こうした働かせ方が未だに放置されているのは、日本に有期雇用を規制する法律がまったくないことにあります。


 諸外国と比較した場合、その立ち遅れは歴然。フランスは無期雇用が原則で、ドイツ、英国などのヨーロッパ諸国をはじめ、お隣の韓国でも有期雇用の乱用を防ぐ法律があります。


 ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい労働)の実現へ、実効ある法規制が不可欠です。


 ●契約締結から終了まで


 ではどのような規制が考えられるでしょうか?厚労省検討会の報告書は「雇用の安定、公正な待遇を確保」するため、有期雇用の不適正な利用の防止を目的に、契約締結(入口)から終了(出口)までを視野に入れ、ルールづくりの検討課題を提起しています。


 その内容を簡潔に紹介します。


 ■入口規制


 「期間の定めのない雇用」を原則とし、例外的に有期雇用を認める規制の仕方。その際、休業労働者の代替や、一時的な業務量増加への対応、季節的業務などに使用事由を限定するというものです。


 ■出口規制


 更新回数や利用期間の上限を定めて乱用を防ごうという規制です。違反した場合には、「期間の定めのない雇用」とみなす規定の創設など、規制逃れを防止する仕組みづくりが必要になります。


 ■契約内容


 働き方に応じて、正社員とバランスある処遇(均衡処遇)を推進するパート労働法を参考にしたルールづくりの検討を示唆。正社員登用制度整備の義務付けをはじめ、勤務地や職種を限定しながら「期間の定めのない雇用」で働くスタイルの導入を促しています。


 ■書面明示


 契約書に契約期間についての明示がない場合、無期契約とみなすなどのルールづくりを検討課題としています。


 ――これらはさまざまな選択、組み合わせが考えられます。


 ●にじみ出る消極論


 検討会報告書は今後、法制化に向けて行われる労働政策審議会での審議のたたき台となるため、「かくあるべき」という結論を出すものではありません。ただ、研究会の問題意識はにじみ出ています。


 一つは「入口規制」について、極めて消極的なことです。「新規の雇用が抑制される」「企業の海外移転が加速する」「複雑な法律問題を惹起(じゃっき)する可能性がある」など、導入を困難視する理由が並べられています。


 入口規制は難しいから、更新回数上限で規制するのがいい――というのが検討会の大方の共通認識だったと、関係者は話します。


 これに対し、非正規労働者の問題に取り組んでいる労働組合は「出口規制だけでは不十分」と指摘しています。例えば、雇用上限を3年とした場合、2年11カ月で雇い止めにするという規制逃れの横行が予想されるからです。


 報告書には、均等処遇への積極的な提起もありません。


 有期労働には労働者のニーズがあるとして、「良好な雇用形態として活用されるようにする観点が重要」としている点も見逃せません。


 長時間労働や転勤のある仕事を避けた結果、やむなく有期労働を選択した人も相当数いると考えられます。こういう人は、勤務地や職種、時間限定で、期間の定めのない雇用があれば、そちらを選ぶはず。「有期雇用」そのものが労働者のニーズではないのです。


 今後の労政審の審議では、使用者側が規制強化に強く抵抗することが予想されます。働く現場の実情を明らかにし、実態に即したルールづくりを進めることが必要です。