現政権提唱の「新しい公共」担う労働者は「仕事中の事故さえ自己責任」とされ市民の安心・安全脅かす | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 ※「連合通信・隔日版」(2010年8月26日付No.8363)からの転載です。これまでの行政のアウトソーシングや、現政権が提唱する「新しい公共」などによって、自治体が「安上がりな労働力」の活用に走り、行政サービスが低下し、市民の安心・安全を脅かすとともに、そこで働くものには「仕事中の事故さえ自己責任」とされかねない実態が告発されています。


 ▼埼玉県三郷市/実態は違法な「偽装請負」/シルバー人材センターの活用/「是正」後も問題解決せず


 埼玉県三郷市は、市内公立小中学校の用務員業務を委託しているシルバー人材センターとの契約について、埼玉労働局から是正指導を受け、7月に契約内容を大幅に変更した。違法な「偽装請負」を指摘されたためだ。


 ●時間単価762円


 シルバー人材センター(以下、シルバー)は、会員である高齢者に「臨時的・短期的な就業」「軽易な業務にかかる就業」の機会を提供している。シルバーが発注者に労働者派遣をしているような形だが、会員は発注者とも、シルバーとも雇用関係にはない。


 三郷市は2002年頃から、公立小中学校の用務員の仕事をシルバーに委託し始めた。


 同市がシルバーと、09年4月から1年間の期限で交わした業務委託契約書がある。それによると、委託金額の積算根拠となる1人・1時間あたりの委託単価は、「800円」。消費税38円を引くと、税引き後の委託単価は762円となる。埼玉県の地域別最低賃金735円をわずかに上回る水準だ。


 今年6月末までの契約内容は、校舎内外の清掃や樹木の管理、簡易な修理、来校者への接待、門扉の開閉、給食の準備・片づけなど。市が直接雇用する用務員と同じように働いていたと、関係者は話す。


 契約書は、あらかじめ定められた仕事以外は、「市の指示に基づいて随時履行する」と明記。遅刻、早退、欠勤の際の連絡も必須事項とされていた。


 学校側が指揮命令しながら、実際には使用者責任を回避するための違法な「偽装請負」を前提にしていたと言われても仕方がない契約だった。


 ●学校との連携、犠牲に


 シルバー会員はいわば「個人請負」で働くため、学校用務のさまざまな業務を包括的に委託すると無理が生じざるをえない。学校側との連携や指示が必要となり、違法な偽装請負となるからだ。


 埼玉労働局の指導後、同市は7月からの契約内容を大幅に変更した。修理や来客の接待、門扉の開閉、給食の準備・片づけなど、学校側の指示が不可避とみられる業務は委託契約から外し、学校の教職員が行うこととした。


 一方、削除されずに残った清掃作業は、清掃場所や回数、方法を細かく指定。学校側がその都度指示しなくても済むよう体裁を整えた。


 これらの変更で、「適法」な就労スタイルに変わったと、同市教育委員会は胸を張る。


 これに対し、埼玉自治労連の林敏夫委員長は「適法になればそれで解決するわけではない」と批判する。


 「違法にならないよう業務を細切れ化した結果、学校側と連携が取れなくなったことが問題だ」という。シルバーを使い続けて清掃だけを任せるという契約では、危険な場所をチェックしたり、不審な人が立ち入らないように注意したりすることができなくなるかもしれない。学校の安全面にはマイナスとなりかねないのだ。


 ▼埼玉県三郷市/仕事中の事故、自己責任に/シルバー人材センターの活用/労災の適用もなし


 学校用務員の仕事を、シルバー人材センターに委託している埼玉県三郷市。昨年2月には市内中学校のプールサイドで1人でペンキ塗りの作業をしていた60歳代の会員が、脚立から転落し、数日後に亡くなるという事故が発生している。


 ●指揮命令はあった?


 表向きは「業務委託」で働くシルバー会員。仕事中の事故で亡くなっても労災保険は通常支給されない。三郷市の事故でも労災保険は支払われず、シルバーが契約する傷害保険が支払われた。


 全国シルバー人材センター事業協会の業務上死亡給付金の契約モデル(2002年)は900万円。今では、各地のシルバーで自由に契約内容を決められることになっている。


 遺族年金に加え、特別支給金(一律300万円)、葬祭料が給付される労災保険より見劣りするのは明らかだ。


 労災保険に加入していなくても、発注元の指揮命令があって事故が起きた場合には、労災が適用されるケースもある。


 では、だれが作業を指示していたのか。市教委は「学校は(ペンキ塗りの)業務を指示していない」と言い、シルバーも故人が学校の了承を得て自発的に行ったと主張する。当事者は既に亡くなっているため検証は難しい。


 これに対し、林敏夫・埼玉自治労連委員長は「学校の指示なしに行われるはずがない」と疑問を呈す。使われていた塗料は学校の備品。発注元の施設の補修を個人の判断に基づいて行っていたとは、常識的には考えにくいためだ。


 同市では、学校がシルバー会員を指揮命令する偽装請負を労働局から指摘され、委託契約の内容を大幅に変更した経緯もある。当時、学校による指揮命令が日常的に行われていたとみるのが自然だろう。


 しかし、市教委は市の責任を否定する発言に終始している。


 ▼「新しい公共」担えるのか/安上がり行政になる恐れ


 自治体に恒常的にある業務をシルバーに委託するのは、「本来の使い方ではない」と、林委員長は強調する。労災をめぐる問題にとどまらず、自治体業務全般に与える影響が小さくないためだ。


 それでもあえてこのような手法をとる背景には、小泉政権時の三位一体改革による、地方財政の圧迫という事情がある。


 総務省は指定管理者制度などによるアウトソーシングを推奨、05年から5年間で職員定数の4.6%超の削減計画を推進している。自治体が「安上がりな労働力」の活用に走ってしまう側面も否めない。


 こうしたなか、現政権が提唱する「新しい公共」が進められれば、三郷市のようにシルバーを使うケースや、ボランティアと称する担い手が増えるのではないか――と木村雅英・自治労連政策局長は懸念する。


 実際、同市でも、定数削減がシルバー活用の直接の動機だった。


 「財政事情」を理由にした、地方分権やアウトソーシングに対し、木村政策局長は、業務の公共性や専門性を担保し、雇用責任も確立させる、一貫性のある政策が必要と強調している。