OECDのデータを眺めていて、自殺問題関連のデータに目がとまりました。下のグラフは、「人口10万人当たりの性別自殺率」(2004年の各国データ)と、「自殺率と生活満足度」(自殺率は2004年、生活満足度は2008年のデータ)、「各国の生活満足度(2008年現在と5年後の将来予想)」です。(出典は、OECD 2008,National Accounts of OECD Countries,OECD,Paris.)
上の3つのグラフで分かるように、日本は自殺率が高く、生活満足度は低いという、OECD諸国の中で「最小不幸社会」どころか「最大不幸社会」になってしまっています。とりわけ、日本の「現在の生活満足度」は、34.5%で、OECD諸国平均62.4%の半分ちょっとしかありません。さらに「現在の生活満足度」が低くても「5年後の将来予想」では楽観的な国が多いなか、日本だけは「5年後の将来予想」も38.2%と数字がほとんど増えていないのです。
上のグラフは、先月内閣府が発表した2010年版の「自殺対策白書」に掲載されている「自殺者数の推移」です。
自殺者数は、1997年の2万4,391人(自殺率19.3)から、1998年の3万2,863人(自殺率26.0)へ8,472人も増えて3万人を突破し、以降12年連続で自殺者3万人台となっています。
上のグラフは、内閣府の「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」(2006年3月)に掲載されているものです。このグラフについて報告書には、「1998年にすべての分類で大幅な増加を示しているが、中でも増加が著しくかつインパクトが大きいものは、自営業者(前年比44%増加)、被雇用者(前年比40%増加)と無職者(前年比32%増加)の自殺である。また、原因・動機別自殺者数の内訳を見ると、1998年に経済生活問題を原因とする自殺が前年比70.4%、勤務問題を原因とする自殺が前年比52.6%もの増加を示しており、他の動機による自殺の増加を大幅に上回っている」と書かれています。
1997年4月、消費税の税率が3%から5%に引き上げられました。これによって97年の国民負担は、消費税増税で5兆円増、同時に実施された医療改悪などと合わせて9兆円増にもなりました。
1997年に消費税増税を実施した橋本龍太郎元首相は、2001年4月の自民党総裁選時に、「私は97年から98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪しています。
1997年の消費税増税は、家計所得が増加している経済局面での国民負担増でしたが、それでも景気悪化を招き、自殺者数が急増してしまいました。
現在、家計所得が減少し続け、貧困問題が深刻化する局面の中で、消費税増税を実施したら――それも1997年の2倍以上となる税率5%から10%へアップという大増税を実施したら、日本経済は壊滅的な打撃を受け、国民生活の急激な悪化と、貧困率と自殺率の深刻化は避けられないでしょう。
それから、国立社会保障・人口問題研究所の「自殺による社会・経済へのマクロ的な影響調査」によると、自殺によるGDPの損失額は、1998年以降の自殺者3万人台突入で、年間約1兆3千億円にものぼるとのこと(3万人台に入る前の3年間の年間平均損失額は約9千億円で約4千億円の増加)。しかも同調査は個人レベルの損失額を、単一の世代に限って計算しているのですが、現実には、中高年者の自殺によって、その子どもが高等教育を受けられなくなるなど、次世代の生涯所得にも影響があり、親が自殺しなかった場合の教育投資の減少も考慮すると、自殺による損失額はさらに増大する可能性があるとのことです。
1997年の消費税増税は、国民に負担増を強いて景気を悪化させただけでなく、自殺の急増を招き、この12年間でGDPに約4兆8千億円もの損失を与えていたのです。国民の命をも脅かすことになる、消費税増税のあやまちを二度と繰り返してはいけません。
(byノックオン。ツイッターアカウントはanti_poverty)