国際基準に遠く及ばない政府案 - ディーセント・ワーク(人間らしい働き方)へ派遣法抜本改正を | すくらむ

すくらむ

国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 ※自由法曹団作成の『派遣法・国際基準リーフ』のテキストを紹介します。


 国際基準に遠く及ばない政府案
 実現しよう!派遣法抜本改正
 ~ディーセント・ワーク(人間らしい適切な働き方)
   の実現を目指そう~


 本年4月6日、政府は労働者派遣法改正案を衆議院に提出しました。しかし、政府案は、「グループ派遣の大幅容認」「労働契約申込義務の撤廃」の2つの改悪、「製造業派遣・登録型派遣の原則禁止はいつわり、実際は8割容認」、「実効性のない『直接雇用みなし制度』」、「均衡考慮原則」など重大な問題点があり、とうてい改正案の内容に値しません。この政府案は国際基準にも遠く及ばないものです。


 グローバルな視点からも、労働者派遣法の抜本改正を行うことが必要です。


 ILO(国際労働機関)による国際基準


 ILOは、1919年に人道的な労働条件の実現をめざして結成された国際機関です。


 2009年5月現在、183カ国が加盟しています。大きな特徴は三者構成主義がとられ、労働者と使用者の代表が政府の代表と同等の地位において意思決定に参加します。ILOは、国際社会において問題となっている貧困と格差の問題を解消する、「ディーセント・ワーク(人間らしい適切な働き方)」の実現のため、①非正規労働者を正規労働者に転換するとともに、非正規で働く労働者を保護すること、②とりわけ困難な労働実態のもとにある女性と若者、移民(外国人)労働者を保護し、児童労働を根絶すること、③あらゆる労働問題を政労使の協議で解決することを具体的に重視しています。


 そして、2007年6月末現在、188にのぼる条約と199の勧告が採択しています。ILO条約と勧告は、国際労働基準として位置付けられ、各国の労働法制の基準となっています。また、ILOには、この条約・勧告の実施を常時監視する常設的監視制度をもっています。


 日本は1954年以来ILOの常任理事国となっています。日本が批准(条約の締結について当事国が最終的に確認すること)している条約の総数は48条約です。


 政府案はILO条約、EU派遣労働者指令が
 示す「均等待遇」に及ばない


 ◆政府案がかかげる「均衡」待遇は不当


 労働者派遣法政府改正案は、「派遣元は、同種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ」、「派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない。」と定めています。しかし、平等取扱を意味しない「均衡を考慮」、「配慮」という規定では2倍以上にもなる派遣先の正社員と派遣労働者の賃金格差を是正することはとうていできません。


 次に述べるように、国際基準から、均等待遇が実現されるべきです。


 ILO181号条約の目的は労働者保護


 1979年ILO総会で、「民間職業仲介事業所に関する条約」(第181号)が採択されました。この条約の目的は、「民間職業仲介事業所の運営を認め及びそのサービスを利用する労働者を保護することにある」(第2条)とし、派遣労働をみとめる一方で、その濫用から労働者を保護することを各国政府に求めています。この条約は派遣労働者の均等待遇を強く求めています。


 この点、政府は181号条約が派遣労働の自由化を定めたものであるかのように説明していますが、これは誤りです。


 ILO181号条約の目指す均等待遇及び差別禁止の原則(第5条)


 この条約の5条1項は、「加盟国は、労働者が雇用されること及び個々の業務に就くことについての機会及び待遇の均等を促進するため、民間職業仲介事業所が人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的系統若しくは社会的出身による差別又は年齢、障害等国内法及び国内慣行の対象とされている他の形態による差別なしに労働者を取り扱うことを確保する」と定めます。つまり、この条項は、労働者が雇用されること、および個々の業務に就くことについて、機会および待遇の均等を促進することを定め、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的意見、国民的系統もしくは社会的出身、年齢、障害などを理由にした差別を禁止しています。


 日本は、1999年7月28日にこの条約を批准しました。しかし、今回の政府案には、ILO181号条約が示す「均等待遇」を採用していません。労働者保護を目的とする181号条約の趣旨を取り入れ、均等待遇が実施されるべきです。


 均等待遇原則を義務化したEU派遣労働指令


 欧州議会は2008年10月22日に派遣労働者の待遇が派遣先企業の正規労働者と就労初日から平等でなければならないことを義務付けたEU派遣労働指令案を可決されました。そのため、均等待遇は全ヨーロッパに広がることになります。


 全14か条からなる指令の主な内容は、①派遣労働の適用範囲を、労働者派遣企業を通じて使用者企業に派遣されるあらゆる派遣労働者と定め、パートタイム、有期契約、契約雇用者、労働者派遣企業との雇用関係といった理由のみで指令の適用範囲から除外してはならないと抜け道を塞いでいます。


 また、②派遣を全期間を通じて同一に職務に就くために当該企業によって直接に採用された場合に適用されるものを下回ってはならないという均等待遇の原則を規定し、妊娠中の女性・育児中の母親の保護・児童と若年者の保護、男女の平等待遇、あらゆる差別とのたたかいなどを明記しています。


 均等待遇原則を採用しない政府案はこのEU派遣労働指令の考え方にも反します。


 ヨーロッパの75%の国が均等待遇を実現


 ヨーロッパ諸国政府が法律に定める労働者保護のなかで最も重視しているのは均等待遇です。派遣労働者の賃金や手当などの労働条件について、派遣先の通常の労働者のそれと同等にし、差別しないという均等待遇原則が、ヨーロッパでは当たり前の原則とされ、フランスやドイツなどヨーロッパの75%の国が法律で均等待遇を定めています。


 フランスやドイツのほかの諸国でも、次のような均等待遇を定めます。


 オランダは、派遣労働者の賃金を派遣先の比較可能な労働者の賃金と同一にすることを法律で定めていると同時に、派遣先の労働協約が派遣労働者にも適用されます。


 オーストリアは均等待遇が派遣法の原則になっています。


 ベルギーは派遣先の同じ労働条件の正社員と同一賃金にすることが法律で定められています。


 イタリアは派遣労働者は派遣先の通常の労働者と同じ権利を有する、つまり賃金や手当について同じ水準の賃金を得る権利をもつと規定しています。


 派遣労働者の賃金の確保はマージン率の規制をすべき


 派遣労働者の賃金を確保するためにはマージン率(派遣料金から派遣労働者の賃金を差し引いた金額)の規制が必要です。日本のマージン率は平均30%、ときには40%以上のマージンをとっている場合もあります。しかし、ドイツでは派遣サービスの手数料は10~15%です。日本でも、ドイツの例を参考にしながら、マージン率の上限を規制するべきです。


 このように、派遣労働者を保護するためには、
 均等待遇を実現することが必要不可欠!


 ILO181号条約の趣旨からも、
 製造業派遣は全面禁止とすべき


 ILO181号条約により特定の部門への派遣を禁止することができる


 181号条約第2条4項は、「加盟国は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、次のことを行うことができる。」とし、同条項(a)では、「特定の状況の下で、特定の種類の労働者又は特定の部門の経済活動について民間職業仲介事業所が前条1(民間職業仲介事業所の提供するサービス)に規定するサービスの一又は二以上を提供することを禁止すること。」と規定します。つまり、同条は、特定の労働者と特定の部門への派遣労働を禁止することができると定めているのです。ILOが発行する解説書では、「過去において違法派遣が行われたり、派遣労働の濫用があった部門を禁止するのは重要なことである」と解説しています。


 政府案4条1項3号では、製造業派遣は原則禁止としつつ、常用型派遣による製造業派遣を例外として認めています。しかし、これでは製造業派遣については、64%が禁止されないことになります。日本では、製造業が違法派遣の巣窟となっており、このような製造業派遣を禁止することは、ILO181号条約に合致する規制であり、同条約の観点からも製造業派遣は全面禁止されるべきです。


 ヨーロッパに普及している
 「みなし雇用」制度を参考にすべき


 政府案とは異なるヨーロッパの「みなし雇用」制度


 「みなし雇用」制度は、派遣期間をこえて派遣労働者を受け入れた場合、あるいは派遣法に違反した場合、派遣先と派遣労働者とのあいだに期間の定めのない雇用契約が成立しているとみなす制度です。ヨーロッパでは「みなし雇用」制度で正社員化を実現しています。ヨーロッパ全体では、約50%の派遣労働者が派遣期間終了後、派遣先に直接雇用されています。
 しかし、政府の改正案は、直接雇用の場合の派遣先での労働条件は、派遣労働者の時の労働条件と同一としています。しかし、これでは派遣先の労働者との賃金格差等の労働条件格差は是正できません。また、派遣労働者の労働契約は多くの場合有期契約です。これでは有期契約の1回目で雇い止めにされることになりかねません。政府改正案は不十分な「直接雇用みなし」制度です。


 派遣法抜本改正は、私たちの切実な願い


 政府改正案は、国際基準に遠く及ばないものです。派遣労働者が救われるには、正社員化と均等待遇の実現が必要不可欠です。


 人間らしく働く労働ルールを確立するため、派遣法抜本改正の世論と運動を大きくひろげましょう。


 私たちの派遣法抜本改正要求


 1 「労働者派遣は、臨時的・一時的なものであり、常用雇用の代替にしてはならない」との原則を明記すること


 2 特定の派遣先やグループ企業へ5割以上の人員を派遣することを「専ら派遣」として禁止すること


 3 専門26業務に3年を超えて従事する派遣労働者に対する派遣先の労働契約申込み義務を撤廃しないこと


 4 製造業派遣は全面的に禁止すること


 5 登録型派遣は通訳などの専門性の高い業務以外は禁止すること


 6 派遣労働者の労働契約は「期間の定めのない労働契約」とすること


 7 偽装請負、派遣期間制限違反等の違法派遣があった場合、派遣先との間に労働契約が成立したものとみなす「直接雇用みなし制度」を創設すること
 この場合、派遣先との間に成立する労働契約は、「期間の定めのない労働契約」とし、派遣先の同種の労働者の労働条件と均等の労働条件とすること


 8 派遣労働者を派遣先の同種の業務に従事する労働者と均等待遇すること


 9 マージン率の上限を規制すること


 10 派遣労働者の労働組合に対して派遣先が団体交渉に応ずる義務を明記すること


 11 派遣法改正案は、「直接雇用みなし制度」や「均等待遇原則」は公布の日からただちに施行し、その他の改正項目は遅くとも「公布の日から6月以内」に施行すること


(自由法曹団 2010年4月26日発行)