壊された生活の回復・発展は小さな地域での経済循環で | すくらむ

すくらむ

国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 11月29日~30日に熱海(静岡県)で開催された「第16回全国建設研究・交流集会」に参加しました。記念講演の概要を紹介します。(by初登場ビックリマークモール)


記念講演「経済危機の打開と地域再生」岡田知弘氏(京都大学大学院教授)


 アメリカに端を発した金融危機と恐慌状態は「百年に一度の経済危機」と、あたかも「天災」や「循環的な現象」のように喧伝されているが、その何れでもない。「百年に一度」と表現することで、近年の経済のグローバル化、カジノ経済化とそれを推進した「構造改革」政策が引き起こした問題であることを煙に巻き、公的資金の注入でその推進者を救済した。


 この「世界恐慌」の流れと日本国内での現象は、①アメリカでのサブプライムローンの破綻→②投資ファンドの投機先が原油・穀物へ→③昨秋の「リーマンショック」→④外国投資家とローンに支えられたアメリカ経済の収縮→⑤日本国内の自動車・家電・金融の業績急落→⑥「派遣切り」「期間工切り」「貸し渋り」「貸しはがし」の横行→⑦正社員の整理・「工場閉鎖」、中小企業の経営悪化の拡がり、統計史上最悪の失業状況→⑧地方税収の急減 と表される。


 日本国内の産業の空洞化を引き起こした輸出企業の海外進出は、1980年代半ばのプラザ合意や前川レポートの頃から進行し、シャープの亀山工場撤退報道にみられるように、今回の世界恐慌を期に再度進められようとしている。合わせて、この間進められた「構造改革」政策により、在来産業や農業の大幅後退、雇用の不安定化や賃金カットによる消費購買力の減少と小売業販売額・住宅市場の低迷、地方財政・公共事業の削減(07年度の地方自治体の公共事業費は01年度の約5割まで激減)と土木・建設業の苦境が重層的に現れてきた。小泉内閣時に喧伝された「改革なくして成長なし」論の破綻は明白。


 今回の恐慌状態で明らかになったことは、①一部の多国籍企業や金融が経済活動をしやすいようにと支援する新自由主義的「グローバル国家」路線では、多くの国民の生活も地域経済、ひいては日本経済も存続し得ない、②金融・食料・エネルギーに関する主権の乏しさ、③「派遣切り」やワーキングプア問題、生活保護行政が人を殺す、11年連続で3万人を超える自殺者数など労働や社会保障の面で憲法第25条(生存権・国の社会的使命)が蔑ろにされていること。


 こうした中、「格差と貧困」の拡大を背景に、反貧困・反構造改革の社会運動(後期高齢者医療制度反対運動や「派遣村」運動)、強制的な市町村合併に反対する住民運動(住民投票条例制定直接請求運動により全国の4分の1自治体で住民投票)、中小企業憲章や中小企業(地域経済)振興基本条例制定運動、改憲策動に対する「9条の会」運動などが画期的な拡がりをみせ、09年夏の衆議院総選挙では自・公政権の崩壊と民主党を中心とする新政権発足の基盤となった。なお、世論調査によれば、民主党政策の支持よりも自民党への嫌悪感が勝っている。


 その民主党は、07年の参院選勝利のために「生活第一」「反構造改革」路線への転換を印象づけ、今回の衆院選でもその政策を前面に押し出したが、顔ぶれをみれば新自由主義的「構造改革」支持者と反構造改革グループが共存する組織的矛盾を抱えていることは明らかで、マニフェスト全体主義で統制を図ってはいるものの、新自由主義的「構造改革路線」へのゆれ戻しあるいは豹変の可能性がある。


 民主党の政策方向を規定するのは、各分野における社会運動のとりくみであり、特に来年の参院選が重要な節目となる。また、地域経済の再生は中央政局如何で自動的に実現することではないため、各地域での独自のとりくみが必要不可欠となる。


 地域の経済や社会を形成するのは、大企業ではなく地元の中小企業。このことはEU設立時の調査で実証されており、日本でもEUの「小企業憲章」(ヨーロッパの背骨としての小企業)を参考として「中小企業憲章」を策定することをはじめ、往々にして一部ゼネコンや大企業のみが潤う巨大プロジェクトや、工場撤退の危険や雇用問題を抱える企業誘致はやめ、地域産業の実情に合った産業政策の立案・転換をはかり、地方自治体レベルでの産業政策を住民生活の向上に直接つながるものに転換すべき。99年に改正された中小企業基本法第6条で「地方公共団体は、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定されるとおり、地方自治体はその責務を果たさねばならない。


 中小企業(地域経済)振興基本条例は、05年以降25の地方自治体で制定され拡がりをみせるとともに、その水準も高まっている。例えば07年に制定された千葉県の「中小企業の振興に関する条例」では、特定中小企業の保護政策から中小企業振興と地域づくりの一体的把握へと大きな進展をみせ、自治体の責務のみならず中小企業、大企業、大学、住民の役割をも明確化し、後継者育成や資本整備など政策の体系化と中小企業当事者との立会による進行状況確認の仕組、財政的手当や受注機会拡大なども明記されている。また、北海道帯広市では行政や中小業者、住民、信金との協同により条例を活かす具体的施策が展開されている。


 グローバル競争下での同品目生産は価格競争で破滅に向かう。地域の経済や社会を再構築するには、こうしたことに左右されない地域内再投資力の維持が肝要となる。特に見落としてならないのは、国土や自然環境の保全、食料・自然エネルギー自給率の向上、地球環境問題への貢献、雇用の創出に資する農林業の再生産。地域内再投資力の形成事例としては、東京都墨田区の事業所悉皆調査と政策立案、長野県栄村での「田直し事業」「道ふみ支援事業」等の単独公共事業、千葉県野田市の公契約条例などが挙げられる


 また、地域内での産業連関や経済循環の強化、産業振興と生活・福祉・環境・ローカルエネルギーとの政策的な結合も肝要となる。事例としては大分県由布院や大阪府ナニワ企業団地での地域をベースとした中小企業の結合(横請関係)や、岩手県紫波町での木造校舎・県材活用事業が挙げられる。


 地方自治体と地元中小企業、住民との協働による地域づくりは、長野県栄村、同阿智村、徳島県上勝町、高知県馬路村、宮崎県綾町等の事例にみられるように、小規模なほど一体感が強く住民自治の力を効果的に活かすことが可能であり、「地方分権改革」や「道州制導入」のもとでの大規模な市町村合併や都道府県の空洞化は地域の持続的発展に逆効果となる。