大津波の襲来受ける日本経済、どこへ向かうべきか | すくらむ

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 雑誌『世界』2月号で、山家悠紀夫さん(やんべゆきおさん、元第一勧銀総合研究所専務理事、元神戸大学教授、現在、暮らしと経済研究室主宰)が、特集「経済危機~どこに対案があるか」の中で、「日本経済、どこへ向かうべきか」と題した論文を書いています。


 いま直面している経済危機を「アメリカ発、大津波の襲来」にたとえて、山家さんは論文の導入部で次のように表現しています。


 「今後に予想される厳しい状況を生み出す要因を、アメリカ経済の失速や混乱にのみ求めることはできない。日本経済の側にも相応の要因がある」


 「大津波の襲来を受ける日本経済の側に、①防波堤が低くなっている、②津波への備えが薄く、しかも、海岸寄りの低地に住む人が多くなっている、③津波の難を避けるための避難所の多くが閉鎖されたり、取り壊されたりしている」


 この3つの問題について、山家さんの論文のサマリーで以下具体的に見ていきます。


 2002年に始まった景気の回復は、小泉構造改革が実ったものではなく、ただひたすらに輸出が増加したことによる回復だったという点が、最初に山家さんが指摘する大きな問題です。


 景気回復初年(2002年)を基準にすると、景気回復最終年(2007年)に輸出は1.6倍増加。これに対して、国内民間需要はわずか1.1倍でしかありませんでした。世界経済の好調と円安に助けられた輸出依存型の景気回復であったということと、それ以上に、国内需要が不振であったということです。


 国内需要が不振であった主因は、景気回復期にもかかわらず、労働者の所得が減らされたことにあります。労働者の所得は、景気の谷(2002年1~3月期)時点で268兆円(名目)、景気の山(2007年10~12月期)で266兆円と、なんと2兆円も減少しています。景気回復期であったにもかかわらず、労働者の所得は減らされ続けていたのです。


 総務省の「家計調査」で、1997年(マイナス成長時の入り口の年)と2007年(景気の山を迎えた年)との勤労者家計の状況をくらべると、勤労者の収入は11.4%も減少、支出は9.7%も減少しています。10年前とくらべて、勤労者の生活水準は1割下がっているのです。


 加えて、この10年間で、派遣など非正社員が600万人以上増加し、1780万人と雇用者総数の3分の1を超え、きちんと1年間働いても年間収入200万円以下というワーキングプア状態に置かれる人が2007年に1,000万人を突破しました。貯蓄を保有していないという世帯の比率は2008年の調査で22%に達しており、1997年の10%から2倍以上に増えています。


 さらに問題なのは、元々狭かったセーフティーネット(種々の社会保障制度)が、この10年でさらに狭められ、貧弱なものとされていることです。


 その例は枚挙にいとまがなく、雇用保険は改悪につぐ改悪で、失業者のうち雇用保険を受給できている人の割合は20%台に落ち込み、非正社員の場合は失業しても雇用保険を受給できない、あるいは受給できてもごく短期間で給付期間が終了してしまうという状況にあります。


 生活保護水準以下の生活をしながら保護を受けられない世帯の比率は80~90%と推定され、中身についても、老齢加算の廃止、母子加算の縮減(ともに小泉内閣時の改悪)が行われ、たとえ受給できても生活はきわめて厳しい状態です。


 医療保険制度についても、患者の自己負担率の引き上げが、1割から2割へ(橋本内閣時)、2割から3割へ(小泉内閣時)と改悪され、窓口支払額で見ると医療費は3倍に跳ね上がっています。あわせて、国民健康保険における、保険料滞納者に対する健康保険証の取り上げが行われ、病気になっても医者にかかれない状態がつくりだされているのです。


 こうした状況の中で、「日本経済、どこへ向かうべきか」の結論は、国内需要、とりわけ消費を強めて、日本経済を輸出依存型の構造から脱却させ、国内需要依存型に作り変えることが必要ということです。国内総生産に対する消費の比率は55%、輸出の比率は16%ですから、消費を1%増やすことができれば輸出3%の落ち込みを十分に補え、消費を3%増やせば輸出が10%落ち込んでも大丈夫なのです。


 消費を増やすためには、①家計の所得を増やすことと、②消費マインドを引き上げることが必要で、①については賃金引き上げ等労働条件の改善が、②については社会保障制度の拡充が必要です。日本政府の社会保障関係支出は、ドイツ、フランスなどにくらべてGDP比で約10%も少ないのです。


 そして、こうした施策の財源は、景気回復期にもかかわらず、労働者の賃金を減らし続け、その結果、10年前の2倍増となった経常利益や内部留保、3倍増となった株主配当など、それぞれ史上最高額に達している大企業の蓄えを労働者や中小零細企業、社会全体に還元すれば十分にまかなえるのです。(※内部留保については、過去のエントリーを参照してください→企業の「強欲」に歯止めを - 空前の内部留保33兆円・株主配当増経営者よ、労働者を“在庫調整”に使うな - 内部留保に手をつけるのが先、「人間の目」で経済を見よ


 大企業の巨額な内部留保のたったゼロコンマ数%で、派遣社員など非正社員の正社員化と、賃上げは可能なのです。雇用改善と賃上げを行うことで、それが家計所得になり、消費になって、企業の売り上げとなり、利益になってはねかえってきます。景気悪化の悪循環から、景気をよくする好循環に切りかえるためには、まず、雇用を守り、賃上げもすることが必要です。


(byノックオン)