今の日本社会は「子どもを育てられる」状態にない - 求められる子どもの貧困なくすネットワーク | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 昨日、立教大学池袋キャンパスで開催された「なくそう! 子どもの貧困 市民フォーラム~つながりのなかで、きょう、ここからはじめよう」に参加しました。


 「子どもを育てるのは誰か?」--子どもの貧困はそれを問うていると思います。非正規労働者について「結婚もできないし、子どももつくれない」状態だと言われることがあります。今の日本社会も「子どもを育てられる」状態にない。過度の少子化は、日本社会からその力が失われてきていることを示しています。
 子どもがまともに育つことのできる社会…。私たちは、それさえもあきらめなければならないのでしょうか?


 これは、湯浅誠さん(反貧困ネットワーク事務局長・もやい事務局長)が、このフォーラムに寄せたメッセージです。湯浅さんの鋭い指摘には、いつも驚かされますが、今回のフォーラムでの様々な分野からの報告で浮かびあがってきたのも、まさに湯浅さんが指摘する問題でした。


 そして、フォーラムを契機にして、子どもの貧困問題にかかわる全国的な統計調査が不十分な現状を踏まえ、各地、各分野の研究者や運動団体などが把握しているデータを集めながら、公的資料ともあわせて実態を明らかにする『子どもの貧困白書』づくりが提案されました。


 各地からの報告の中で、大阪社保協事務局長の寺内順子さんが語った「理不尽な子どもの無保険」の問題についての要旨を紹介します。(byノックオン)


 小学6年生のC君は運動会の練習時に突き指をしました。
 黄色くなっていて微妙だったので湿布を貼って、「おうちに手紙を書くわ。腫れてきたら病院に連れて行ってもらってね」と言ったら、「保険証ないねん、先生、湿布くれ」って。「湿布あげるよ。けどね、腫れてきたらお医者さんに診てもらってね」「先生、保険証ないねん、お父さん仕事ないねん」「そしたら湿布もって帰り、おうちの人に貼ってもらいや」というやりとりをしました。けれど、C君は父親を気遣って何も言わず、自分で湿布を貼って、次の日保健室に朝一番に見せにきました。子どもたちは、親のしんどさをよくわかっていて、気遣って、言わない、みせない、自分でなんとかする、そんな子どもたちが増えています。


 これは、昨年10月に大阪で開催した「子どもシンポ」での養護教員の発言だ。社保協は、後期高齢者医療制度や介護保険、そして国民健康保険の問題などをいま中心に運動しているが、国民健康保険の問題だけは、大変深刻な問題を抱えていながら、困っている当事者の姿が見えない特徴があった。それは、「自己責任論」が浸透していて、高い保険料でも払えない自分が悪いと思っているからだ。「払えない自分がふがいない」「情けない」「払えないから保険証がなくても仕方ない」と思っている方が多い。


 しかし、前述の発言で、「保険証がないことを、子どもたちは学校で訴えていたのだ」と知り、学校現場と私たち社会保障運動団体が、まったくつながっていないことに気づき、「子どもたちに申し訳ない。私たち大人がネットワークを作っていないために、子どもたちにこんなにつらい悲しい思いをさせてしまっている」と強く思った。


 そこで、大阪社保協は府下で無保険の子どもの数の調査を行い、マスコミも活用して社会問題化し、厚生労働省を動かすことにつなげていった。10月30日、厚労省は無保険の子どもが全国に32,903人もいることを発表。そして、11月27日、野党が18歳未満の無保険の子どもをなくすための法案を衆議院に提出した。


 「無保険の子ども」の問題には、3つの側面がある。


 1つは、国民健康保険制度そのものの問題だ。国民健康保険は、国民の半分近くの世帯が加入し、社会保障であると法律で明記されているにもかかわらず、例えば、大阪の寝屋川市の場合、所得200万円の40代夫婦と未成年の子ども2人の4人家族で、年間の保険料は51万円にもなる。こんな高い保険料が払えるわけがない。これが日本の皆保険制度を下支えする医療のセーフティーネットと言えるのか。こうした高すぎる保険料によって排除されている人は現時点で滞納世帯が384万5,597世帯、資格証明書交付世帯(無保険の世帯)が33万742世帯もある。この現実は、国民健康保険そのものが社会保障制度たりえていないことを示している。


 2つめは、ワーキングプア問題だ。子どものいる世帯は世帯主が20歳代から40歳代の若い世帯で、被用者保険に入れない労働者たちだ。日雇い派遣、登録派遣、パート、アルバイトで生計をたてている世帯が所得に対して高すぎる保険料のために無保険状態に陥っている可能性が高い。この問題は、厚労省が実態把握しておらず、調査を直ちに行うべきだ。


 3つめは、児童福祉の問題。児童福祉法の第2条「児童育成の責任」には、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」とあり、第3条「児童福祉原理の尊重」には、「前2条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたって、常に尊重されなければならない」とある。子どもを育てることには、国と自治体にも責任があるのだ。「子どもの無保険」問題は、国・地方自治体が第2条の「児童育成の責任」を放棄しているといえる。


 子どもたちが生まれた家庭、育っている地域の違いによって、子どもたちの命が見捨てられることがあってはならない。


 早急に子どもを貧困から守るネットワークをつくらなければならない。そして、子どもの医療費無料制度を国としてつくっていく必要がある。