ノーベル賞連発で浮かれてる場合じゃない~ワーキングプアが支える日本の科学・技術の貧困 | すくらむ

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国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。

 きょう、10月15日は「Blog Action Day 」。世界中のブロガーが、年に一度、同じ日に同じテーマについてブログで取り上げる活動をするという非営利のイベントです。そして、ブログを通じて、そのテーマについての興味を世界中に喚起して、討論のきっかけとし、問題解決へのとっかかりになることを目指します。今年、2008年のテーマは「貧困」。ですので、私が手がけている科学技術政策シンポジウム(11月16日、「科学・技術の危機とポスドク問題~高学歴ワーキングプアの解消をめざして 」)にからめて、表題を「ノーベル賞連発で浮かれてる場合じゃない~ワーキングプアが支える日本の科学・技術の貧困」でいきたいと思います。


 たて続けに4人も日本人のノーベル賞受賞者が出て、大きな話題になっていますが、東京新聞(10/9)は、「ノーベル賞に4氏…お寒い国内事情/実利偏重、学問立ち枯れ、基礎研究 食べていけぬ/人件費削減 大学授業も『マクドナルド化』」と見出しを打って特集を組んでいます。


 「今後も日本の科学者が評価されるか、見通しは暗い」「産業や経済を優先し、短期成果ばかり求めるようなばかなことを続ければ、何年かたった時に日本の科学はどうしようもない状態になる」(放送大学・海部宣男教授・前国立天文台長)


 「資金を得るための書類書きなどで忙しくなっている。近視眼的に役に立つ分野を優遇した結果、基礎分野が立ち枯れている」(総合研究大学院大学・池内了教授)


 「国の政策を念頭に置いて採択されやすい研究内容にシフトし、企業などに擦り寄る姿勢が濃くなっている」「文科省は国立大学への運営費交付金を毎年1%ずつ減らし、大学も人件費を削っている」「科目自体が削られ、いわば、授業のメニューが少ない『マクドナルド化』となり、批判的な考えや違うものの見方は切られ、学問的な土壌は荒れ果てていく」(富山大学・小倉利丸教授)


 「受験生は大学卒業後や就職を考えて動く」「じっくり基礎科学をやろうという学生が減っている。理学部の受験者が減っているし、そもそも物理で受験する生徒が減った」(河合塾・神戸悟元教育研究部員)


 「独法化で研究の独立採算が掲げられたが、基礎科学が儲かるはずがない」「大学人の本務は研究と教育。しかし、独法化後、それとかけ離れたアピールと評価で忙しくなった。申請書の準備、組織いじり、ナントカ会議にカントカ委員会が殺到して時間が奪われる。当然、業績は長期的には落ちていくだろう」(東工大資源化学研究所長・吉田賢右教授)


 「業績主義の独法化で基礎研究は細り、研究者のやる気も萎えているのが現状だ」(和光大学・最首悟名誉教授)


 こうした研究者の悲痛な声とともに、特集記事では、「小泉改革の一環で『大学にも経済原理を導入する』という2004年4月の国立大学の独立行政法人化(独法化)などが影響し、儲からない学問を隅に追いやる傾向は強まるばかりだ」と指摘するとともに、「就職できない研究者が多いポストドクター(ポスドク)問題」もとりあげ、「教授ポスト削減傾向の中、研究者は一層、苦しい立場に追い込まれている」と日本の「基礎研究」を取り巻くお寒い状況を告発しています。


 朝日新聞(10/10)には、今回、ノーベル物理学賞を受賞した高エネルギー加速器研究機構名誉教授・小林誠さんと、2001年ノーベル化学賞受賞の野依良治さん、2002年ノーベル物理学賞受賞の小柴昌俊さんの座談会が掲載され、次のやりとりが紹介されています。


 小柴 宇宙の最初がどうだったかなんて、分かったところでどの産業の利益にもならない。やはり基礎科学は国が何とかしてくれないと、どうにもならない。国が本気で考えてほしい。


 野依 今回の賞は基礎中の基礎分野だったことに意味がある。


 小林 最近は競争、成果を強調しすぎている気がする。もう少し大学での基礎研究を重視してほしい。


 また、「高学歴ワーキングプアは発言する~『大学非常勤講師の実態と声2007』を手掛かりに」(『季刊ピープルズ・プラン』2008年夏号掲載。首都圏大学非常勤講師組合執行委員の南雲和夫さんが執筆。※じつは南雲さんは私の大学の先輩です)では、「大学の非常勤講師は、全国に3万人以上いて、平均年収が300万円程度であり、そのうちなんと4割が年収250万円以下であること、さらに大学講義のコマ数の4割を担っていること」を明らかにしています。なんと、日本の大学講義の4割を、「高学歴ワーキングプア」が担っているのです。この現実を「科学・技術・学問の貧困」と言わずしてなんと言うのでしょうか。日本は、ノーベル賞連発で浮かれている場合ではありません。


 そして、こうした状況も反映して、日本社会で、子どもたちの「理科離れ」が進んでいます。文部科学省の国際比較調査(2003年)によれば、「学校で理科をもっと勉強したい」とか「理科を使うことが含まれる仕事につきたい」という意欲は、日本の中学生では17%しかなく、国際平均値57%の3分の1にも満たない状況になっているのです。


 このような「貧困」の原因は、高等教育への公財政支出が極端に低いことにあります。下の表は文部科学省のホームページに掲載されている「国内総生産(GDP)に対する学校教育費の比率」ですが、日本の「高等教育」に対する公財政支出はOECD30カ国中で最下位。OECD各国平均1.0%の半分の0.5%にすぎないのです。(byノックオン)


      ▼国内総生産(GDP)に対する学校教育費の比率



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