多くの母親兵士が戦う史上例なきイラク戦争~母親から子を愛する感情奪い、米兵30万人の心を壊す | すくらむ

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 14、15日と二夜連続で放送されたNHKスペシャル「戦場 心の傷」は衝撃的な内容だった。とりわけ昨夜の「ママはイラクへ行った」には驚いた。デミ・ムーアが主演した映画『G.I.ジェーン』などで、アメリカ軍の女性兵士の存在は知っていたが、まさかイラクの戦場で、母親兵士が銃撃戦を行っているとは知らなかった。


 イラクやアフガニスタンに、アメリカ軍の総兵力のおよそ11%にあたる19万人もの女性兵士を送り込み、その3分の1は子どもを持つ母親兵士だという。女性兵士の任務は、前線の戦闘ではないが、泥沼化したイラクでは後方任務の女性兵士もいや応なしに戦闘に巻き込まれてしまう。


 26歳の女性兵士は、12歳のイラク人少年を撃ち殺したため、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。イラクから帰還後に結婚し、息子を出産したが、症状が悪化。自分の息子の顔がイラク人少年の顔に重なってしまい、育児ができなくなり、いまは入院治療を続けている。面会に訪れた夫と息子にも優しく接することができず、母親失格だと泣き崩れる元女性兵士。


 こうした戦場での心の傷が原因で「以前のように子どもを愛することができない」「子どもを愛おしく思う心さえなくした」「母親らしく子どもを抱きしめることも会話もできなくなった」「戦場で人を殺した自分が良い母親になれるのか」と苦悩し、子どもとの関係を取り戻せないでいるケースが他にも数例とりあげられていた。いずれのケースも、イラクに赴く前は、性格は明るくてエネルギッシュで家族思いの女性たちであった。国家と家族を守るためと勇んで行った戦場で、「殺される恐怖」と「人を殺す恐怖」により、心が壊れてしまい、帰還後は家族を守るどころか、家族とともに日常生活をおくることさえもかなわなくなってしまった。


 「多くの母親兵士たちが戦う歴史上例のないアメリカの戦争。それは母親たちから子どもを愛する感情を奪い、家族の絆を断ち切るものであった」(番組ナレーション)


 それでは、常に最前線に置かれる男性兵士たちはどうなのか。初めて大量の市民が戦場に動員された第1次世界大戦では、精神に障害を負う兵士が続出。医師たちは電気ショックを与えるなどして戦場に強制的に送り返す「実験」を繰り返した。第2次世界大戦では「敵に発砲できない兵士」が広範に存在することが分かった。同じ人間だと思うと本能的に殺すことができなくなるのが人間であることが判明したため、その人間性を麻痺させ、条件反射的に発砲できる兵士=殺戮マシンを作り出す訓練方法を開発したアメリカ軍。その訓練の成果で、ベトナム戦争では、ほぼ100%発砲することを躊躇する兵士はいなくなったが、ベトナム帰還兵の2人に1人が、日常生活に復帰できないPTSD患者となってしまった。命令により躊躇なく発砲するアメリカ軍兵士が非武装のベトナム民間人504人を虐殺したソンミ事件。番組では、当時19歳だった兵士のインタビュービデオが流れた。赤ん坊も小さな子どもを抱いていた女性もそのときは平気で撃ち殺したというその兵士は、ベトナムから帰還後、PTSDを発症し何度も自殺をはかり、そのインタビュー後にショットガンで自殺したという。


 次にアメリカ軍は、殺戮の実感を持たなくていいように“戦争のハイテク化”を進める。遠距離からゲーム感覚でミサイルを撃ち込むことで、生身の人間を殺戮する実感を兵士が持たなければPTSD患者が発生することはないだろうと考えたわけだ。


 しかし、“テロとのたたかい”という泥沼に突入したアメリカは、イラクだけで4千人を超える戦死者を出し、イラクからの帰還兵の2割にのぼる30万人がPTSDを発症。その治療に少なくとも6200億円が必要になっている。


 そして、PTSDを発症したイラクからの帰還兵による事件が多発。ラスベガスでは20歳の帰還兵が、金をまきあげようとからんできた人間を自動小銃で殺害する事件が起きた。逮捕された帰還兵は「待ち伏せ攻撃をうけたため、訓練どおり交戦した」と言った。PTSDによって、戦場と日常生活の区別がつかなかったのだ。他にもナイフで71回も人を刺した事件など、普通では考えられない残虐な殺人を、すでに100人以上の帰還兵が米国内で犯しているという。


 イラク戦争は、イラク人15万人、アメリカ兵4千人の犠牲者を出しただけでなく、母親兵士を含む帰還兵30万人の心を壊したのだ。戦争は人間と共存できないということを、あらためて痛感させられた番組だった。

(byノックオン)