今だからこそ相応しい1冊 です。
今もしご存命でいらしたら現在の状況を子どもたちになんと語ってくれることでしょうか。
むかし小野田寛郎さんの自然塾に子どもと参加したくて叶わなかったことは今でも悔やまれます。
やりたいこと叶えたいことは諦めてはいけないですね。
現在の世界情勢状況を踏まえて心の備えとして小野田寛郎氏の言葉をこの場に記しておきたいと思いました。
口で平和を叫び戦争の愚劣さを語るのは易しいことです。でも世界の現状を見ればそんな理想論は通用しそうにありません。社会に生存競争があるように国際間にも生存競争があり、最悪の場合戦争になってしまうということは子ども達にはっきりと教えるべきだと思います。ジャングルで戦闘を続けて二十七年目の秋、私は生き残っていた最後の一人の戦友を敵の銃弾で失いました。ついに一人きりになってしまった...。そんな不安と孤独感に苛まれそうになったとき、私は自分の心に一つのことを強く言い聞かせました。それは、「一人になったのは、さほどマイナスではない」ということでした。もちろん、二人の方が便利なことはたくさんあります。例えばトイレや水汲みに行くときに銃を預けることもできましたが、一人になったら常に銃を構えていなければならない弱点があります。でも逆に二人のときは意見が対立して喧嘩するときもありましたし、一人なら敵から身を隠す場所も多くなります。その他のことのプラスマイナスを計算して、亡くなった仲間には申し訳ないのですが、むしろ利点の方も多いと考えたのです。おそらく、その時点で一人になって戦力が半分になったなどと落胆していたら、私はその後生き伸びることができなかっただろうと思います。今振り返ると、私にとって大きな危機だったのですが、過去に引きずられない発想を持つことによって乗り切ることができたのです。現在の日本でも突然、予期せぬ危機に見舞われることはあるでしょう。職場でも家庭でも、あるいは子どもたちの学校でも、危機は常に私たちの周りに潜んでいます。危機に遭遇したときに大事なことは、「今まではうまくいっていたのに」と嘆いたり、「これでダメになってしまった」と絶望したりしないことです。そんな気持ちは一切捨てて、今、生きるために何をすべきなのかという目的意識を強く持つべきなのです。「人間は通常、潜在意識の九十数%は発揮できない」とよく言われますが、私は戦場でそのことを身体で実感したことがあります。あるとき四方を敵に包囲されて、二百名を超える仲間とともに、いちかばちか強行突破を図らねばならなくなったことがありました。その指揮は私以外に取れるものがいなかったのです。私はどの戦闘法を取れば成功するか、全身全霊で考えました。全員が生きるか死ぬか、本当の瀬戸際です。周囲の状況を懸命に凝視しながら、考えに考えました。脳が二倍に膨らんだような感覚にとらわれ、そのうちに頭がスッと冷たくなるのを感じました。周りの景色が普段の四倍くらいの明るさに見え、数十メートル先にある木の葉の葉脈までもがはっきりと見えました。何とも説明し難い不思議な状態でしたが、それと共に私の心には「これなら敵を先に発見できて、絶対に成功する」という確信が湧き上がっていました。そして実際に無事、部隊を安全な場所に移動させることができたのですが、そんな体験をしたのは長い戦場生活の中でも、後にも先にもそのときだけでした。人間は追い詰められたとき真剣に生きるための手段を考えたなら、眠っている潜在能力が目覚めて、思いもよらぬ力を発揮するのです。冷静に現状を把握して、危険をおそれずやるべきことを命がけで断行したなら、必ず進むべき道が見えてきます。私は今の日本の子どもたちに、そのことをわかってほしいと願っています。引きこもりの状態に陥ったり、キレて犯罪に走ったり、自殺してしまったり、人生を放棄してしまうことだけは絶対にしてほしくないのです。ルパングから日本に帰国して三十年が経過しました。その間に日本人、そして日本という国自体も次第に活力を失いつつあるように感じています。どんな状況においても生きる目的を明確に持ち、自分の能力をフルに活かして生きる。私が今までの人生で培ったその基本的な姿勢を、今後も自然塾の活動を通じて少しでも伝えていきたいと思っています人は皆、生きる能力を持ち、生きるために生まれてきているのだと信じて生き抜いてほしいです。小野田寛郎 2004年刊行『君たち、どうする?』