・劣化のウラン兵器の環境に与える影響
劣化ウラン兵器は湾岸戦争、ボスニア紛争、コソボ紛争、アフガニスタン内戦、イラク戦争、ガザ紛争で大量に使用されてきた。
ここでは、イラクのバスラにおけるケースから、劣化ウランが環境に与える影響をみていく。
1991年、クウェートとバスラの間の非常に狭い地域に、約100万発もの劣化ウラン弾を使用された。その後2003年には何千トンもの劣化ウランが、イラク全土に投下された。そうして、バスラは中でも汚染のひどい地域となった。戦闘時に劣化ウラン弾の攻撃を受けて破壊された戦車や装甲車は、劣化ウランによって汚染される。
また、劣化ウラン弾は1度に大量に使用されるため、攻撃対象に衝突するわけではなく、対象を外れた多くの砲弾は、地中深くに入り込み、腐食して大地を汚染することになる。バスラには、いたるところに劣化ウランの攻撃を受け、汚染した戦車があり、そうした戦車が、汚染源になっている。また、劣化ウラン弾は標的のみならずその周辺にも打ち込まれているため、戦車が破壊された場所が民家の近くであれば民家に、市街地や幹線道路沿いであればその周辺が劣化ウランによって汚染されている。地中や地表に取り残された劣化ウランは周辺の植物、動物組織、土壌、水に影響を与えている。それを示すものとして、ガンマ分光測定法で、トリウム234やラジウム226が検出されている報告がある。これらは、ウラン238の核崩壊過程で生まれる天然には存在しない核種である。
このように、劣化ウラン兵器は戦闘において一度に大量に使用されるため、標的とその周辺に劣化ウラン汚染をもたらし、土壌、水を汚染し、植物、動物細胞をも汚染する。劣化ウランは、半減期が45億年のウラン238が大部分を占めており、その影響は人類にとって考えても、地球にとって考えても、「永遠」のものになると言える。
・劣化ウラン兵器の人体に与える影響
劣化ウラン兵器はその特長として、目標物に衝突後高温で燃焼する。そのため、対戦車砲弾として用いれば、命中することによって内部の敵兵に甚大なダメージを与えることができる。また、燃焼により劣化ウランは微粒子のエアロゾル状になり、内部被曝を引き起こす。したがって、敵の殲滅が目的となる戦争においては非常に有効な兵器となる。
一方で、劣化ウラン兵器は敵兵のみならず、敵国の一般市民にも影響を与える。戦闘が市街地で行われれば、劣化ウラン兵器も市街地で使用され、その周辺住民は知らずのうちに劣化ウランに蝕まれる。また、劣化ウランを使用する側である兵士たちにも影響がある。戦闘において劣化ウランを使用する兵士のみならず、戦闘によって破壊された戦車などを回収し分解する作業をする兵士、劣化ウラン兵器によって破壊された戦車等の近くで恒常的に活動する兵士などにも影響を与える。戦争の当事者である兵士たちのみならず、一般市民(文民)にも影響を与えることがわかってきている。
人体に与える影響としては、白血病、発がん、先天性形成以上、免疫不全による感染症、呼吸器系疾患、妊娠・出産異常などがあげられる。障害時の誕生も劣化ウランの影響が考えられている。つまり、無脳症、クルゾン症候群、先天性四肢短縮症、手・足指過多、過少、欠損、癒着、湾曲足、内臓疾患などにも劣化ウランの影響が考えられている。戦争により環境が破壊されるのみならず、その環境への影響は長期にわたり、人体に恒常的に影響を与えるのが劣化ウランという兵器である。
・戦争帰還兵や住民への影響
具体的にどのような影響があるのか事例を何点か取り上げようと思う。
湾岸戦争症候群
湾岸戦争症候群とは、湾岸戦争に従軍し、帰還した兵士とその家族に多発した病である。米軍では、イラク・クウェートの汚染地区に入って劣化ウランの粒子を吸入したり、味方の誤射により劣化ウランを打ち込まれたりして、体内に劣化ウランを残留して被曝した25万人強が、健康被害を訴え、退役軍人省に治療を要求している。病名は、肺がんをはじめとする各種ガン、白血病、脳腫瘍、免疫不全、関節痛、神経障害、生殖器系障害など多岐にわたっている。
また当人だけでなく被害は家族にもおよび、湾岸戦争退役兵2世は、ガルフウォー・ベビーと呼ばれる先天的な欠損、疾患、内情場外などをもって生まれた子供が多数いる。ミシシッピ州では退役兵2世の67%もが、これらの障害を持って生まれている。戦闘に参加した兵士だけではなく、戦後、自軍の誤射により劣化ウラン弾に汚染された米軍戦車や戦闘用装甲車を米国に運び、除洗・クリーンアップの作業に携わった人々にも、気管支の異常やガンが発症している。英軍やカナダ軍・仏軍などにも同様の被害が出ている。
イラク住民・兵士
湾岸戦争症候群と同様、それ以上の被害は戦場となったイラクで見ることができる。イラク住民とくに子供や若い女性に白血病、悪性リンパ腫、各種ガンなどが多発している。戦争以前ではほとんどなかった、女性の肺ガン、皮膚ガン、若い世代の卵巣がんや睾丸ガンも激増している。また先天性形成異常を持つ乳児の誕生も増加している。ボスニア紛争・コソボ紛争住民に関しては、ボスニアのサラエボでは悪性リンパ腫、脳腫瘍、肝臓ガン、血液のガンが多発し、呼吸障害、関節痛などに苦しむ人々が激増している。
セルビアやマケドニアでも白血病やガンの患者が激増してきている。また空爆した側であるNATO軍兵士も白血病やガンなどにかかる患者が見られている。このように、住民側、兵器を使用した兵士側、両方に劣化ウランの影響と思われる被害が出ている。しかし、米英軍は、劣化ウラン弾は健康に影響ないとの立場をとり続けており、被害者に保障をしようとはしていない。これらの被害を訴えている人々に保障を与えることはコストが莫大となることが明らかであるため、米英軍は認めることはないと考えられる。
・国際社会の動き
このような劣化ウラン兵器による無差別的な被害に対して、市民運動、国連などの国家間の間でも話し合いがもたれてはいる。
市民社会では、各国の反劣化ウラン兵器を掲げる団体が連携を図り、国際会議や国際的な運動を行っている。劣化ウラン兵器の影響、残虐性などを世界に広めるとともに、劣化ウラン兵器禁止条約を実現させ、劣化ウラン兵器の使用を国際法違反とするために運動していると言える。
国連における議論は1996年、1997年、2002年に人権小委員会で、決議が出されている。核兵器、化学兵器、クラスター爆弾などと共に、代表的な「大量破壊兵器」と呼び廃絶を求めている。2007年12月第62会期国連総会において「劣化ウランを含む兵器・砲弾の使用の影響に関する決議」が賛成136、反対5、棄権36、欠席15で採択された。国連総会で劣化ウラン関係の決議が採択されたのはこれが初めてであった。欧州議会では2001年に劣化ウラン兵器の禁止を求める決議を採択している。
また、ベルギーでは2007年に「劣化ウラン弾禁止法案」が全会一致で可決されている。
劣化ウラン兵器は、使用され、除洗がなされなければ、ほぼ永遠にその場所に影響を与え続け、自然環境や人体にも影響を与え続ける。戦闘時の有用性は確かなものであり、コスト面などからも好んで使用される。
通常兵器であれば、環境を破壊し、人々に被害を与えるが、戦闘時の被害が最大であり、その後回復が図られうるものであると言える。もちろん戦争が行われずに、環境にも人体にも影響がないことが好ましい。しかし、人間は闘争する攻撃的動物であるとの考え方があるように、戦争のない世界をめざすことは難しいとも言える。
戦争が起きないことが望ましいが、戦争が起きた場合に国際人道法において定められた人道的な禁止事項が守られて戦争が行われる必要がある。その違反を裁く国際刑事裁判所なども整備されてきた。しかし、核兵器や劣化ウラン兵器など国際法で禁止された兵器ではないものがある。
劣化ウラン兵器は使用後も環境、人体に影響を与え続ける。劣化ウラン兵器の使用は避けられるべきだと考えるし、国際法の整備の必要性をがあるだろう。そのプロセスとしては対人地雷禁止条約や、クラスター爆弾禁止条約の作成プロセスが参考になる。
また、すでに使用された劣化ウラン兵器を処理する必要もある。国際的な戦争や紛争で使用された以外にも、軍事基地や練習場での使用もある。日本の鳥島における米軍の劣化ウラン弾の誤使用問題もあるように、日本にとっても関係のない問題ではない。日本の原発用の濃縮ウランの廃棄物としての劣化ウランが英国や米国において武器転用されている疑いもある。戦場や練習場で使用された劣化ウラン兵器の回収、その地域の除洗などを行うことで、その後の影響を抑える必要性がある。
劣化ウラン兵器は、「戦争は最大の環境破壊」という考えを現実的に表した兵器の一つであると考える。戦争による環境破壊の中で、劣化ウランの影響が見られるようになった湾岸戦争以降、使用された地域では、戦争終結後も人体及び環境に影響を与え続けているのである。
しかし、劣化ウラン兵器が使用されたと知らず、また劣化ウラン兵器の危険性を知らず、そういった汚染物の周辺で生活をし、粉塵を吸い込んでしまっている人々が多数いる現状である。そういった人々に、危険性を伝え、できる限りそれと接触しない生活をしてもらい、その危険な汚染物および土壌の改善を図る必要もあるだろう。
したがって、劣化ウラン兵器による今後の被害を抑えていくためには3つの行動を同時に行っていく必要があると言える。
・国際的に劣化ウラン兵器の使用を禁止するよう、国際法作成に向けての行動
・現状の汚染物、汚染地域における除洗をし、危険性を除去する行動
・劣化ウランの危険性を伝え、認知を図る行動
これらは連関していると言える。知識がなければ無垢の犠牲者を増やし、除洗をしなければさらなる将来の犠牲者を増やし、国際的に禁止されなければ新たな汚染地域を生み、被害者を生むことつながりうる。
劣化ウランという、現状では、主に原子力の平和利用としての原子力発電に使用される濃縮ウランの作成の副産物として生まれる廃棄物が、戦争の道具となり、人々を放射能で蝕んでいる。劣化ウランという名前の「劣化」が与えるイメージに反して、劣化ウランは人々に甚大なる影響を与えている。
日本は、東日本大震災に続く津波によって原子力発電所の問題が起こった。
先入観に基づく議論ほど無意味で危険なものはない。一人一人が原子力に関する知見を高める必要性があるだろう。そのうえで、ゼロサム的な思考をしてはならない。原子力は人類の財産である。これを有効利用することが求められる。そこには日々の科学の進歩の視点も欠かしてはならない。
原子力を有効に利用し、エネルギーのベストミックスを探りながら、国益に資した運用を行ってもらいたい。
しかし、劣化ウランはみてきたようにきわめて危険なものである。核兵器のような保有国の使用に対する抑制も働くこともない。この違いから、これまでの地雷、クラスター爆弾と禁止条約の作成がなされてきたように、劣化ウラン兵器禁止に関する国際条約作成に向けた今後の動きに注目したい。
(了)
参考文献
戸田清著 『環境正義と平和-「アメリカ問題」を考える』 法律文化社 2009年
佐藤真紀編著 『ヒバクシャになったイラク帰還兵―劣化ウラン弾の被害を告発する』大月書店 2006年
劣化ウラン研究会著 『放射能兵器劣化ウラン―核の戦場ウラン汚染地帯』 技術と人間 2003年
NO DU ヒロシマ・プロジェクト他編著 『ウラン兵器なき世界をめざして―ICBUWの挑戦―』 合同出版 2008年
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