顔を揃えた上達部にすっかり上機嫌な帝です。楽器を取り寄せるとそのひとの得意でないものを渡して、合奏はならぬ、独奏せよ。物笑いになるだけの宴に中将が抗議します。他の者たちにすれば多芸百般の中将であの慌てよう、暗澹としてきます。聞く耳持たない帝は〈よしよし言はじ〉、もうよい、言うな。

 

 

 

二つの表現、〈え言ひ遣らずおぼほれ給ふを〉、そして〈人やりならず、枕も浮きぬべし〉。前者はあわや一命なきものと思われた息子の無事な姿に対面して父は〈言葉なく、溺れなされて〉。後者はひとりになった息子が今日の出来事にしみじみ〈自分の運命を思って、枕を浮かべて〉…何にか。そう、涙。

 

 

 

帝が内親王を娶らせても身内に引き止めておきたい美貌にして多芸多才の中将です。畏れ多いことながら中将にはすでに思いを秘めた方があって、その方の光をまとうばかりの美しさに陶然とする日々。しかし募るほど叶わぬ思いに〈袖の柵せきやらぬ気色なるに〉。袖に隠して堰き止めようにも溢れ返るは涙。

 

 

 

帝自ら内親王の降嫁を口にされたことでありそれをお受けする自分たちが梨のつぶてでは失礼極まる。かと言って軽々しく確認の取れることでもなく…煩悶する父を尻目に当の中将は今更ながら内親王というのっぴきならないお相手に〈聞くにさへぞあつかはしき夜の衣なりける〉。伸し掛かる重さに辟易して。

 

 

 

久しく参上しなかったことを病のためと言い訳、病と言って年がら年中伏せていたわけもなかろう、この通り痩せた二の腕がその証拠、どれもっと見せよと袖を引っ張り合う春宮と中将の睦まじさです。中将の水臭さに春宮の嫌み、〈入りぬる磯なるが心憂き事〉、波に没した岩間のようにさっぱり顔を見せず。

 

 

 

堀河のおとど、三条の右のおとど…このとき〈おとど〉は大臣のこと。では〈五十ばかりなるおとどの、しなじなしからぬ様したる〉は?生臭坊主にあわや拐かされるところを救われて、見れば眩いばかりの貴公子に縮こまる娘です。小さく住まいを告げると出てきたのは上品とは言い兼ねる〈老婆〉がひとり。

 

 

 

 
 

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