映画(20と)ひとつ、リサンドロ・アロンソ監督『約束の地』
  監督 : リサンドロ・アロンソ
  製作 : アルゼンチン・デンマーク・フランス・メキシコ・アメリカ・ドイツ・ブラジル・オランダ

  作年 : 2014年
  出演 : ヴィゴ・モーテンセン / ヴィールビョーク・マリン・アガー /  ギタ・ナービュ



リサンドロ・アロンソ 約束の地 


ルイス・ブニュエルを思わせる風土の疼いたところを(ちょうど腐りかけの果実をねっとりと指で裂くように)押し広げて無風の開放感が吹き渡っていきながら同時に不思議な息苦しさに映画がやんわりと絞め殺されていく、あの感覚。『皆殺しの天使』(1962年)や『熱狂はエル・パオに達す』(1959年)のような喉許を時間が滴っていくような数々だけでなく『砂漠のシモン』(1965年)のように乾いた大地を寓話が這いずるような映画にしても這いずるどころかヨーロッパの血眼でしたたかな歴史を錐揉んで現代がやがてイエスの原初的な切っ先へと裏返される『銀河』(1968年)にしても濃密なものが希薄さのなかを(まるで残酷な冗談のように)たゆたう、あの感覚です。それにしても本作の始まりにあってここはどこなのか、起伏の激しい草原(というのか草むした砂礫の大地)がそのまま海へと突き出て(画面には見えないままいななく獣の重い咆哮が何か逃げ惑う鈍重な悲しみを響かせて脂じみた肉片をちびちびと筋切りしては口に放り込む兵士の、悪びれた様子もない、やりたい放題ののどかさからしても組織的で暇にまかせた遊び半分の狩りなのでしょうがとにかくこの映画は画面の外に描かれない何かを置き去りにしたまま)空まで垂直に切り立つようなこの土地の気候が岩を穿ちそんな穴ぼこがぽつぽつと引き潮が海水を残していったなかに(辺りを漂う血腥い喧騒もどこ吹く風)裸の軍人が呑気にひと風呂浴びております。どうも敵の掃討戦を間近に控えて(近代もまだ牧歌的だった頃のことで)明日にも舞踏会が催されることに気を揉んでいて、というのもヨーロッパから派遣された測量家(であり勿論軍人)のひとり娘に(獣じみた愛と南極に近い辺境にあってそれはそれでヨーロッパ仕込みの軍隊の格式に直立しては)会に誘う機会を伺っているわけです。祖国を遠くアザラシがのた打つようなこの土地にしかも草原に連日野営をするようなところに年頃の娘を連れ立ってきたこの測量家にすれば、まばゆいばかりのヨーロッパの女に兵士たちが色めき立って気が気でなく、娘にしても(生まれた土地のしっかりした文化基盤から引き剥がされて何か高い椅子の上に立たされているようなぐらついた自分を百も承知で)いつ奔放な気まぐれを起こすやも知れません。(見霽かす満天の野営というこんなぽつねんとした異国暮らしを敢えてしてまでこの測量家が果たそうとしている事業もはっきりせず時代からして鉄道か電信の敷設かと思っていましたが作業現場に立ち寄ったその光景は人夫たちが縦一列に坑を掘り進んでは砂を汲み上げていて... 。)挙句に自軍を寝返った大佐が馬賊同然に草原を駆け巡って(かしこまった軍服を脱ぎ捨てるや)華やかに女装した出で立ちで神出鬼没に襲撃してくるという噂はどうも確からしく軍の上から下を恐怖させます...  とまあ主だった筋を紐解いておりますがひとつひとつは細く送り出す息のようでそれらがやがて草原で交わるとひとつに縒り合わさった大きな風となって草原の彼方に吹き去っていって取り残される測量家を前に物語はブニュエル的な企みに大きく口を開けていきます。

 

 

 

 

リサンドロ・アロンソ 約束の地 

 

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