製作 : 東映
作年 : 1964年
出演 : 内田良平 / 緒方 拳 / 松方弘樹 / 野川由美子 / 天津 敏 / 楠 侑子
ジャズやマンボの浮き立つようなリズムを爪先で刻んで小粋な演出に愉しさが踊り出すなんていつもの調子はぐっと後ろに引きまして沢島忠が非情な隠密の一生を横ざまに墨を引くように描いていきます。とは言えそこはモダンを謳われた監督だけに口あけから賭場の盆をガラス張りに散った絵札の向こうを下から捉えて勝負に覗き込む人間たちの一喜一憂を映しますし花火の仕込み場で(あれは何というのか踏んで上げ下げする)大きな杵が横一列にあるところ逃げ込むと行く手を阻んでそれらがポクンッポクンッポクンッと下りてくるリズム感にしても(あれなんて映画が違えば下りた杵を廻り込むように美空ひばりが現れてそのまま歌唱場面に羽ばたいていってもおかしくありません)。悪の手に落ちた隠密のひとりが吊り上げられて打擲される拷問では打たれる男の苦痛を表現してキャメラがぐるぐる廻るのはよくある手法ですがこのぐるぐるも只は廻さず(まるで両手を踏ん張って吊り下げるこの男を鉄棒の選手のように)最初大きく半円に揺すってその弾みで円を描くと上を通り越すところで上り切る力の溜めがあってぐるんと下へと廻って(まさに鉄棒の一回転でして)随所に沢村の、沢村たる手並みが顔を覗かせます。そうだけに非情の物語にあっても乾いた感じではなく忍び寄る闇にも潤いがあって物語に生き死にするこの架空の生命の肉づきが伝わってきます。そもそも事の始まりは江戸から遠く阿波藩で謀反の動きありという知らせでしてその核心を掴むべく遣わされた密偵は町人に化け人足、遊び人となって巷の小さな穴から藩の奥深い陰謀に辿り着くためそれこそ決死の潜行を続けています。わずかな情報をこよりのように結び合わせてそれがやがて一本の線になろうとするやふっつりと消息が途絶えて幕府と藩の、口には出さないその暗黒の水面下に誰知られることもなく屍となって消えていくのです。敵は勿論街中に間者を張り巡らし町の衆や地廻りに技の使い手を放ってうろつき廻る輩をおびき寄せるべく罠を敷いています。まさに身を捨てて懐に飛び込まない限り何も見えてはこず陰謀の闇と三途の闇は一寸違いで隣り合っています。いまもまた幕府に召し出されるこの三人も密命を帯びて阿波へと旅立ちますが彼らの知るところかどうか同じ時刻彼らの親も呼び出されると三人ともに不束の段あって即刻処断、既に遺骨になった息子を下げ渡されて... 生きて帰れたとしてももはや元の名前も場所もなくひと知れず死ぬまでを生きるそういう運命です。厳重な藩の目をくぐってひとりはお遍路に混じりひとりは山狩り同然に掻き集められた人足のなかにひとりは京都から婿取りをした新郎になりすましますがお遍路の素性はすぐにも割れて追手は市中を駆け廻っています。火はとっくに導火線についていてその先にあるものに向かって走っていきます。
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『 こけさんの、なま煮えなま焼けなま齧り 』 五十女こけ