廃市
  監督 : 大林宣彦

  製作 : PSC・新日本制作・ATG
  作年 : 1984年
  出演 : 小林聡美 / 山下規介 / 峰岸 徹 / 根岸季衣 / 入江たか子

 

 

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モノクロームの、中央だけ彩度を落としたパートカラーというそんな遠い記憶の靄のなかからゆっくりと列車が停車場に到着します。降り立つ主人公は爽やかな青年でしてひと夏この町で避暑を兼ねた卒論の執筆に縁戚の口利きで訪れてきたのです。教えられた住所まで町中に張り巡らされた掘割を廻り込むうちすっかり道に迷って高かった日差しも暮れなずむ頃にようよう目的の家に辿り着くと周囲から漂うように立ちのぼる夜の気配とともに画面がカラーになるという如何にも大林宣彦らしい凝り方です。それにしても時代から置き去りにされたような土地の、没落というかあとは目を瞑るだけといった旧家の美貌の姉妹が小林聡美と根岸季衣というのは(何せ丸々とあんぱんに小さく唇がついたような思春期の小林とやや剣のある美貌が寧ろ庶民的な生活力を感じさせる根岸ですから)最初何とも取ってつけたようでしかるに見ていくうちにそれぞれの佇まいに(小さな花火の、火線が闇に吸い込まれるように)静かに朽ち果てるはかなさを宿して息を呑みます。姉妹にあってひとりの男を愛した彼女たちの、それぞれの愛情と労り合いが終わることのない疲労へと関係を呑み込んでいって... ちょうど掘割を櫓舟で滑るように渡っていきながら水面に逆さ写しの景色が美しく照り返ると手を浸すほどの水の深ささえ忘れさせていつしか取り返しのつかない深みへと三人を道連れにするのです。よかれと思って姉がひとり身を引いたことで却って聞き耳を立ててももう囁き交わす誰の声も聞こえない距離に三人を三人ともに引き裂き孤立させてそんな不意にぽっかりと空いた凪のただなかに何も知らず主人公はやって来たわけです。そして屋敷に籠もる隠微な情念が夜に川面を渡る女性の哀湍となって主人公を捉えると彼はまだ見ぬ姉というひとの、宵の闇に立ち尽くす幻影を思い描くようになり...  さてその主人公は山下規介、クレジットに新人とある通り自分の芝居がまだまだ寸法の合わない服のように窮屈でもありこそばゆくもあるのですがそこがまた朽ちていくような鄙の時間に合っています。いや彼に限らず根岸にしても意中の男である峰岸徹にしても彼らを見守る林成年にしてもなりゆきの影にひっそりと立つ入江若葉にしても旧家の日暮れにただ伏し目の微笑みを浮かべる入江たか子にしてもむっつりと日焼けした尾美としのりにしても(小林を敢えて外すのは彼女のみが或いは頽廃を前にしているのではなくそれを呑み込んでいてこの時期の彼女の、芝居の天性のままに作品に深みを与えているからで)皆しておののいて手を出し兼ねている感じが物語のはかなさとなってやがてくる結末を静かに取り囲んでいます。

 

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