鬼の棲む館
  監督 : 三隈研次

  製作 : 大映
  作年 : 1969年
  出演 : 勝 新太郎 / 高峰秀子 / 新珠三千代 / 佐藤 慶

 


勝新太郎、高峰秀子、新珠三千代、佐藤慶... 76分の劇をほぼこの4人で織りなします。原作は谷崎潤一郎の戯曲でひと頃谷崎が凝った世にふたりの天皇が並び立つ南北朝時代が舞台です。(南朝への谷崎の思い入れと言いましたら、『吉野葛』でも谷崎と思しき(というかまあ思してしまう)語り手が合一後も南朝の一系を絶やすまいとさらなる吉野の山深くに隠れ住んだというその未踏の奥地へターザンばりに峡谷を綱渡り岩壁に貼りついて探索するという(『細雪』でも披露する谷崎の、)大活劇的健筆を大いに発揮します。)本作は珍しくも時代劇での室内劇です。戦乱の打ち続く都で財も職も失った勝新太郎が惑溺する白拍子の新珠三千代をひっさらって愛欲のままに暮らす山奥の廃寺に妻である高峰秀子が辿り着くところから始まります。口あけの、木深い山間が折り重なっていくのを煌めくようなその葉ずれに高峰を捉える宮川一夫のキャメラには黒澤明監督『羅生門』の記憶がさざなみ渡っていきます。これに限らずこの物語の妖艶さにさまざまな劇の、声にならない喜悦や嗚咽が谷の木霊のように引き寄せられていきます。高峰が語るところによれば勝はもともと鄙の荘園名主であり荘園経営の破綻によって都へと上ったために白昼夢のようにたなびく新珠の色香に迷い込み鄙の妻を置き棄てたのだと言って『雨月物語』を思い出させます。一夜の聖がとぐろを巻くような邪淫に絞め上げられた挙句にひとりの落命へと至るのは『高野聖』でしょうし、だいたい白拍子が鱗文様にぎらぎらと魔性に照り輝き自ら魅入られていくというのは『道成寺』ですしね。やがて結末が訪れると同じく上田秋成の『春雨物語』、樊噲の物語が錫杖のように遠く響いてきます。放蕩三昧の金欲しさに兄と父を殺したのを皮切りにこの世の悪行という悪行に手を染めてもはや恐れるもののない身です(そりゃそうです、この世を寒からしめているご当人なんですから)。いまも旅の僧の金子を有り金吐き出させたところです。しかるに気まぐれに命ばかりは助けてやったその僧がやにわに引き返してきます。男を前にして言うには有り金を迫られて一瞬奪われる金の惜しさからいくらか隠して立ち去ったがそれがどうにも収まりがつかず引き返してきたと。うまく逃れたはずの残りを置いて去っています。置かれた金が手のなかをずっしりと沈んでいきながら男は人間の、掴んでも掴み得ないはずのものに触れたそんな怖気が自分にひろがっていくのを感じます。自分のなかが根こそぎ刳り抜かれるようです。さてそれで樊噲という稀代の悪党はどうするか... それはこの物語を終えて勝に委ねられるでしょう。さてこの愛憎の廃寺にそうとも知らぬ四人目の人物、旅の聖佐藤慶がやって来たようです。鬼の一夜が始まります。

 

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