製作 : アメリカ
作年 : 1939年
出演 : ケーリー・グラント / ジーン・アーサー / トーマス・ミッチェル / リチャード・バーセルメス
コンドル、というのは邦題です。原題は"Only Angels Have Wings"で邦題が持つ硬質で研ぎ澄まされた印象とは随分と違って語感が柔らかく頬を掠めていくようです。本作は南洋の島で航空郵便に飛行機を飛ばす男たちの物語です。コンドル自体は確かに物語の大詰めに登場して来ますがばさばさと画面に飛び込んでくるだけの、毛羽立った不意打ちで映画を象徴するわけではありませんから、きっと男たちが操る鋼鉄の飛行機をこの題名で想起させようという計らいでしょう。それには寄港したこの島のあれこれを見ようと客船を降りたジーン・アーサーがはじめて見る飛行機の、間近な離陸に陶然とするのに畳み掛けてケーリー・グラントが言った<まるで大きな鳥のようだろう>というイメージが大きく反響してします。そしてこの飛び立った飛行機が濃霧に行く手を遮られ已むなく帰還しながらさっき飛び立ったこの場所すら重く霧が立ち込めてまったくの視界の喪失にいまでは天へと突き立てた一本の照明だけが命綱です。野外の無線機の前をグラントとトーマス・ミッチェルがふたりして身構えながら酒場から流れていた陽気なブギウギも止められ喧騒も静まり返ってひとというひとが咳きひとつなく張りつめた緊張を静かに呼吸しています。無線から聞こえてくる飛行機野郎は至って陽気です。しかし計器だよりに霧を突き抜けた瞬間に木に翼を折られて地面にもんどり打ちながら一回転ごとに飛行機が飛行機であったものに変貌していった絶望的な残骸が横たわります。いまのいままで冗談を飛ばしていた男が(耳にはまだその声の反響が響いているのに)もうこの世にいないということにアーサーは打ちのめされ取り乱します。感動的なのは事故の片付けが終わらないうちから酒場の音曲はふたたび陽気にやり始め何事もなかったかのように男たちがうち騒ぐ様子に操縦士の死を金切り声で言い立てるアーサーが店を追いやられると年長のふたりの男たちが目の前の友達の死を次は自分の死として飲み下さなければならない飛行機野郎たちの心中を説き明かします。アーサーはふたたび酒場の扉をくぐると決然とした笑顔でぞくぞくと気持ちを掻き立てるとっておきのピアノ曲を披露してみせます。この決して折れず無言で振り絞るようにして苦難に向かい合いながら屈託のない花のような明るさを失わないのがジーン・アーサーの魅力です。アーサーのみならずミッチェル、シグ・ルーマン、ヴィクター・キリアンがまさにコンドルの気流となって映画を軽やかにたなびかせるなか、いよいよ死んだ操縦士の補充としてリチャード・バーセルメスがやって来ます。彼が背負っているものが皆をして乱気流へと引き込むのですが何にせよ思い出せばしっとりと胸に刻まれる旅路です。
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